彼のいる空間の中で
今日はやっと彼が帰ってくる。
久しぶりの再会だけど、どんな顔をすればいいのか分からない……。
帰りの到着を聞いていたから、空港まで迎えに行く予定はしている。
とりあえず、ウェルカムボードならぬ即席で画用紙に「おかえり!マティアス!!」というのを書いて準備をしてみた。
我ながら、面白い発想じゃないだろうか。
「うふふ」笑みが溢れちゃう。
そう、今まさに、電車で羽田へ向かっっているところだ。
どんな顔してるのか、早く会いたい。
イタリアは料理が美味しいと言われているから、きっと太っているに違いない。ワインとかお土産があれば嬉しいな〜
「うふふ〜……」
空港の到着口の辺りで席を見つけたので座って待っていた。
しかし、予定より遅れると電光掲示板に記された。
こんな事もあるよな……
———2時間後
「姫!マイプリンス!!起きて〜。ここでキスしちゃうよ?」
慌てて飛び起きた。
「ここどこ?わ!!マティアス!」
「こんな所で熟睡するなんて、ホント日本は平和だよね〜。ただいま、建人」
「いや、会社から速攻で来たんだけどさ、でも君をここで待つことができて良かったよ。
あ……」
用意していた、簡易型ウェルカムボードが無駄になった。そのまま鞄の中にしまっておいた。
「ん?何かあったの?」
「いや、何でもないよ。さあ行こうか!」
僕たちは、まず空港内の日本食レストランへ行って寛いだ。
彼の今回の旅の内容を詳細に教えてくれた。
「そのサラという方は、表の教団教祖で?僕達の為に協力してくれてたということ?そのことは初めから知っていたのかい?」
「いや、まさか表教団の人だとは思ってなかったけど、僕の遠い記憶を思い出させるために絵のオーダーをした……というのも正直驚いたよ。教団側がこんなに僕たちの事を知っているのも驚いたし、話されたことがてんこ盛りだったから、流れに任せるしかなかった」
「でも、サラさんはなぜ君がレイダに描いた初めての絵を知っていたんだろう……。凄く観察されていた?」
「まあ……。そうだね。どの時点でそれの意味を知ったのかも分からないよ。教祖だというから、それはそれは広い情報網をお持ちなんだろうね!まあいいじゃないか!乾杯だ!」
日本酒の小さなお猪口で僕らは乾杯をして、いい加減に電車が心配だったので家に帰ることにした。
***
家に入ると、暗い部屋にアーヴが椅子に座っていた。
「・・・」
「・・・」
「なんだよ、お二人さんお帰り!」
「いや……。いいんだけどね」
「そう言えば、ずっと一緒に居てくれてたんだよ、マティアス」
「そう!俺はあなたの姫様をお守りしておりましたよ!大元帥直々の命令でもあるしね」
「それは、どうもありがとうございます。もう、お帰りいただいてもいいのですが?」
「まあ、いいじゃないか?土産話でも聞きたいのだけど、今日はお疲れかな?お邪魔したよ」
アーヴは寂しそうに帰って行った。
うん、ちょっと可哀想だったかな……。
ようやく、僕たちだけの空間ができた。
今日は触れ合うだろうか?
マティアスがシャワーに行ってる間に、悶々と考えていたが彼は僕よりハードな時間を過ごしていたし、今日は期待しないでおこう。明日は休みを取ってるし、ゆっくりす——……ZZZZZ。
マティアスは、下半身をタオルで覆い、髪をタオルで乾かしながら、寝室へやってきた。
眠っている、建人の寝顔をじっと見ながら建人の体に寄り添うように、布団に入った。
「ああ、気持ちがいい」彼はそう言いながら、自分の手を僕の体に巻き付いて後ろから引っ付いてきた。
「建人の寝息を聞いて、肌の感触と汗の匂いを確認していたら、建人が起きてしまった」と言いながら、自分の顔を、僕の臭い体になすり付けてきた。
なんだか恥ずかしい……。
「いいんだよ、じゃあ僕もシャワーにいてくるよ。汗臭いからさ。先に寝ててね」
「ああ、ゆっくりしておいで。寝てたらごめんよ」
「はいはいー」
案の定、マティアスは寝ていた。
テーブルの上には、お土産が並べられていた。
ワインが4本、ペアのカップ、お揃いの革靴……。
お揃いが好きな人だったんだ…… 意外性を感じる。
他には……写真立て、万年筆(使わなさそうだけど、まあいいか)
手紙付きで、アンティークのリングがあった。
内側にある刻印が見えにくい。
『マイダーリン。これはその昔、君がイタリアに住んでいた時にプレゼントをしたリングを、たまたま見つけました。これが売りに出されていたなんて少し悲しいが、当時君の役に立ったなら僕は嬉しいよ……』
っわ!!
全然覚えてないから、このメッセージは面白すぎる「クックックック!」
あの人、面白いよな……しかもどの指にも入らないよ。
薬指の第1関節で止まった。
この前もらったネックレスに掛けておくか。
指輪をネックレスに通した所で、背後からマティアスが僕の様子を窺っていた。
「うわ!!びっくりしたよ!何?」
「建人、見てくれたのかい??」
「沢山のお土産をありがとう」彼にハグをした。
「うん!選んでて楽しかったよ。それにこのリングはね……」
言いかけた所で、彼の口をそっと指で塞いだ。
「覚えてないけど、きっとこれを売った時は辛かったんだと思うよ。君への罪悪感と悲しみでさ」
「名前はね……」
「まだ言うのかい?あはは」
笑っていると、彼は力強く抱きしめてきた。
「僕は、本当に君のことが好きだったんだよ。でも君は僕に見向きもしてくれなかったんだ。お金も優しさもあったのに、なぜだったんだろう……時々何故か拒否をするレイダが現れる時があるんだよ……。ただ、あの時の環境は仕方なかったのかな」
本気で説明しようとしていたのに、僕はちゃんと聞いてあげてなかった。
「うん、ごめんね。彼女の話でも聞こうか?」
「いいや。今の君がいい」
マティアスは僕の顔を、両手で額から順番に顎まで指でなぞり、激しく唇を奪った。
「長い旅だったよ。君が居なくて寂しかったよ……」
「うん」
マティアスの腕枕の中で、僕たちは共有できなかった二週間の話をした。
僕の方は、特に変わりなかったが、マティアスの所でのちょっとした波乱については、ドキドキしてしまった。もし、教団に襲われていたらと想像すると耐えられない。
でも、どうやら運よく戦いに巻き込まれることはなかったようだし、サラという人の優美な日常の中で集中してレイダ(僕)を思い出して絵を描き上げたのだと。
マティアスは手のひらを天井へ向けて見ながらそう言った。
「その絵、見たかったな……」自分の手を彼の手に被せて握った。
「ああ、その内思い出してくれるかな」微笑みながら彼は呟いた。




