迷走していても必ず解決する
マティアスは、何を描いたか考えあぐねていた。
「弱ったなー……。全く覚えてないや。あ〜・・・彼女に聞きたい!!」そう言いながらベッドの上をゴロゴロと体を回転させていた。
とりあえず、何か描いてみたら思い出すかもしれない。
グラファイトえんぴつを手に取り、目を瞑ってハートに集中してみた。
「はあ!やっぱり無理かもしれない」そう吐き捨てたところで、アーヴから連絡が来た。少しプレッシャーから解放された気分だった。
「元気そうだな!」
「どこをどう見たら、元気に見えるんだ? ここはとても寂しすぎる……もう……」
「そんなことを言うなよ。なんだか、君から呼ばれたような気がしたんだけど……」
よく分かってるよな……。本題に入ろう。
「いや、僕と付き合いの長いアーヴに一つ聞きたいことがあるのだよ」
「なんだろうか?」アーヴの顔が一瞬にやけた。これは見透かされているのだろうか……。
「僕が、初めてレイダにプレゼントした絵だけど、どんな絵だったか覚えてないか?」
「ん〜?? 凄くエロティックに描いてたやつ?レイダのヌード?」
「何言ってんだよ!それはまだ気になって仕方がなかった時で、想像で描いてたやつだよ!!」
「あ〜・・・。君はムッツリだったもんな! 陰キャラのね!
他はと言えば・・・レイダの後ろ姿のヌードとか、レイダの胸だけ隠しているシュールな絵とか。レイダが後ろ姿で振り向きながら微笑んでいる半裸の絵とか、遠くの景色に一人で立っているやつ?または・・・」
「それじゃないか!?」
「どれだよ。後ろ姿で振り向きながら……」
「そっちじゃないよ!!もう!人の嫁をバカにすんな!」
「あ〜・・・。遠くの景色で一人立っているやつね。泉とピラミッドと地球で言えば月が描いてあったやつな。それが何か?」
「そうなんだよ。今回ここに呼ばれたのは、その絵を思い出すためにここのオーナーであるイエーゼス教団教団表の教祖の邸宅だったんだよ。彼女の名はサラ・レヴィン。今回こそ裏の思惑を終わらせたいと協力してくれているんだ」
「なるほど……。でもどうやって信じたらいいんだ?そのサラという人のことを!」
「直感だよ。直感には従えと言われているだろう?それに俺の直感は外れたことがない!」
「・・・分かったよ」アーヴは『仕方がない……』と言いたげな顔で言った。
「さて、ここからなんだが、その詳細なデザインは覚えてないよね??」
「ああ、このあたりにピラミッドがあって、ここに湖だろ?その辺りに月があって、ここにレイダ!」
「しかし、そんな単純なデザインだったかな?」
「それ以上は知らん!」
「むむむ……、困ったな。もう少し絞り出せないか?」
「もう無理だよ。チラッと見せてくれたんだけど、意外と覚えてるもんだな!俺は凄い。
ただ、もう少し付け加えると、このピラミッドがなんだか、中身を描いていたぞ?
シースルーというのか、中の構造を描いていて、こんな描写をした絵をできたばかりの彼女にプレゼントしたのが不思議だったのを覚えている」
「なぜだか分からないが、凄くあげたかったんだよ。アーヴ、ありがとう!細部まで思い出せそうだよ。いや、思い出した!」
二人の会話は終了し、マティアスは早速ラフ画に取り掛かかった。
その手は素早くテキパキと作業が進められていき、猛烈なスピードで情報をダウンロードしていった。
夜までに下書きを完成させ、色を載せていく段階になった、辺りが暗くなっていることも気がつかない程に集中していたが、家のメイドに声をかけられて、やっと気がついた。
「マティアスさん、夕食の準備が整いましたので、どうぞお越しください」
「ありがとうございます。もう少ししましたら向かいますので」
「灯を付けても大丈夫でしょうか?」
「あ、すみません。全く気がつかなかったので」
メイドが電気をつけた時に、彼女はその素晴らしさに目を見開いていた。
マティアス本人も、現状満足のいくものであったので、これに色を乗せるには勇気がいった。
この勢いで色を乗せるか、もう明日にして今日は休むか……。
いや、今日はこれ以上は無理だ。
「では、少し片付けてからいきますね」
「はい、では、お待ちしております」
直ぐに片付けて、行かなければ……と思っていたのに、そのままソファーで横になってしまった。
サラは、マティアスが降りて来るのが遅く感じたので、彼の作業部屋まで見に行ってみると、案の定、彼はソファーの上で眠っていたのを発見した。
少し痩せて、頬がこけてクマができているマティアスの寝顔を見ると、居た堪れない気持ちになったが、今日の彼の頑張りを見て、絵の進行具合に安堵した。
「この絵が、それ(・・)なんですね……。仕上がりが楽しみですわ」そう言って彼にブランケットを優しく被せ、部屋の明かりを消してそっとドアを閉めた……。
その翌朝、マティアスは自分が寝入ってしまったことに気付き、飛び起きた。
急いでダイニングルームへ行った。
丁度、メイドが朝食の準備をしていたところで、サラも席についてカプチーノを飲んでいた。
「おはようございます!昨夜はすみません、夕食をスキップしてしまって」
「いいのよ、いいのよ!その代わり、とても素敵な絵が出来そうな状況に私は嬉しくなりましたよ。さあ、昨夜は何も食べてないでしょう、沢山食べてください」
マティアスはテーブルにつき、マナーはそっちのけに好きなように順番に口に頬張りながら、絵の解説をしていた。
無邪気に話すその様子が、サラの目には可愛い男の子のように見え、微笑ましく彼の目の奥に光る激しくて美しい光を見つめていた。
彼女にとってもこの時間は大切な一時だった……。
***
さて、シャロームはというと、マティアス作業部屋に篭っている時間、彼は屋敷に異変はないかを確認して巡回していた。
シャロームはこのサラという人物が、まだ信用できないと思っているが、裏教団関係者も少なからず出入りしているのではないか?と注視していた。
「地下室があれば……」シャロームは書斎に入り装置がないか調べてみた。
しかし、自分の持っている機器にも反応せず、調度品を動かしてみたり本棚の本を調べたりしてみたものの見つからなかった。
諦めていたところに、教団関係者が入ってきたのだった。
壁にワープシステムを繋ぎ、出入りしている様子だった。
彼らが部屋を出て行き、マティアスの部屋の様子を確認しに行った様だ。
裏教団達は、まだ下書き状態の絵のコピーを撮った瞬間!
これは情報を流すことはできないと判断し、シャロームは銃を奴らに向けて構えた。
「おい!お前たち何をしてるんだ!その機械をこっちに渡せ!」
せっかちなシャロームは、容赦なしにその言葉を発したと同時に彼らの両足を切りつけた。
「ゔぁぁぁぁぁぁ・・・・あ・あ!」
二人はのたうち回り、部屋を転げ回っていた。
「おい!絵のコピーを撮って何しようっていうんだ?え?」
「俺たちは、ただ状況を確認するように命令されているだけだ。報告のために写真を撮っていただけだ」
「そうだよな?まだ未完成だしな!お前たちがこの地球に干渉する情報が入ってるんだよ。ちょっと暫く付き合ってもらおうか!」
シャロームは、素早く彼らを縛り上げ、止血をして仲間を呼び出した。
数分も経たないうちに複数の部下がやってきて、教団員を取り囲んでいた。
「来たな。この二人から教団の思惑を吐かせろ。言わなかったら殺してもいい」
「ひ〜!!こんなやり方ってありかよ!もうちょっと人道的にするもんじゃないか??」
「そうだ!最終的に殺す目的か!!イエーゼス様お助けください!!」
「なんだよ、自分たちがやってきた事を棚に上げるんじゃない!たった二人殺したところで世の中何も変わらないし、お前達のような糞をイエーゼスは助けないだろうよ。まあ、諦めろ。これは俺のやり方だ」
部下たちが裏教団員を引きづって連れていくところに、マティアスは丁度部屋に帰ってきたのだった。
「何かあったの?うわ!!人んちの部屋を汚すなよー。なんだこれ?血なのか??」
「ああ、少し見物だったんだけどな、残念だったね。教団員2名が入り込んでいてお前の絵を盗撮していたんだよ。ここで暴れるのは良くないからな、部下に任せたところだ」
「それにしても……。まあいいか。それは君の分野だしな。俺は俺の仕事をする」
マティアスが椅子に座り、作業に取り掛かる準備をしている間、部屋の調度品やソファーがひっくり返っり、まるで小さな竜巻が来た様な部屋の惨状を掃除要員がやって来て、全てを完璧に元に戻して去っていった。
シャロームの役職は准将だが、やり方が傭兵ぽいところもある。
そういうところが、俺は気に入っている。
今迄も奴のやり方を見てきたが、こういった仕事はやつは適任だ。
「後な、この数日屋敷を見て回っているが、なんら怪しいところがないんだよ。どうしようか」
「どうしようかって、お前が考えろよ。さっきみたいに、そのまま護衛を続けてくれると助かるんだが」
「わかった」
きっと、さっきの教団員の拷問をしたいのだろうと思った。考えていることが見え見えなんだよな。




