イタリアにいる彼と日本にいる彼女
部屋に戻ったマティアスは、自分が予め描いていたラフ画を広げた。
これではダメな様だな。
サラさんが話していた『①ピラミッド②澄んだ泉③月』についていうと、潜在意識のとてもディープなところまで掘り起こさないといけない気がする。
かと言ってヒプノセラピーをする気にもならないしな……。
サラさんは教団を潰す鍵が僕にもあると言いたいから、それを掘り起こす為にワザとこのお題の絵をオーダーしてきたのだな……。
ありがたい……。
さて、少し瞑想がてら、街に出てみるか。
「おいシャローム!、街に行ってくるよ。あと画材も買ってくる」
「ああ、一人で大丈夫か?」
護衛なのか、ただのスパイに徹しているのか……あいつの存在は既にサラさんにばれているのだから、余計な事はして欲しくないのだが、手を振って街へ出かけた。
屋敷を出て、石畳の上を歩く感触は日本のアスファルトに慣れていると、とても心地が悪い。
「早く日本に帰るたいな……。建人は寂しがってないだろうか」
画材店に到着し、天井まで届きそうな材料が沢山積み上げられていた。
この雰囲気はとても懐かしい。
買い物カゴに沢山の材料を購入し、また好みのスタイルの道具に目を奪われては手に取り、順番にカゴの中に入れていった。
すると、手が止まった……。
「ラピスラズリ……これに似た石がペロイオネ星にもあったな。レイダにあげた絵にもこの石を絵の具で使ってあげたんだった。今回も使うとしようか」
あの時の絵は何をテーマにして描いたんだっけ?随分昔の出来事だから忘れてしまったなあ……。
もう一度、あの絵を描いてみよう。そうしたらきっと何かを思い出すかもしれない。
早速、ラピスラズリの絵の具を十分な程持って行った。
***
〜日本〜
マティアスが行ってしまってから、寝つきが悪い。
いつまたアシがやってくるか分からない恐怖と……ん〜、あいつは気持ち悪いだけで脅威ではないか!
他は? このよく分からない物体たち?……特に脅威でもないね!
何を不安がっていたのだろう……。
マティアスに対して、そんなに依存していたのだと自分の非弱さを実感してしまったということだ。
とにかく、仕事のために付いて行かなかったのだから、しっかり仕事の成果を出さないとな。
リラックスできるように、ヒーリングミュージックを流しながら横になってみた。
「やあ!マティアスの代わりに一緒に寝てやろうか?お嬢さん」アーヴの声が聞こえた。
「最近見ないと思ったら、やっと来たな。しかもやっと寝れそうだっったのに!!放っておいてくれよ」
「あらら、怒っちゃったよ。ごめんね、僕も忙しくてさー。
今日は一緒にいてあげられるから、安心して寝てくれ、お姫様」
「くそ!バカにしやがって。おやすみ!!」
悔しいが、アーヴが来たことで、安心してしまった……
マティアスは、今頃何をしているだろう。
彼の広い背中と、あの優しいタレ目の笑顔が恋しい。
そうだ!確か彼はいつもウッディ系の香水をつけていたよな……ヘアクリームだろうか。
匂いを辿って、洗濯物をあさっている自分に気がついた。
「もう二日経つのに、ちっとも連絡が来ないのは、なぜなんだよ……」
バカな行動をしてしまった自分にしょぼくれている間に、寝落ちしてしまった……。
***
美しく透き通ったブルーの空。
尾の長い、赤からオレンジの羽を空に靡かせて飛んでいる鳥の群れが飛んでいる。
別の群れは緑と黄色羽が美しく混ざり合った鳥の群れが別の方向へ飛んで行った。
月らしき星が二つ。
さらに、大きな円盤型の空中都市があったり地上には、キノコ風の白い高層ビルがいくつもあった。
『わ〜……ここはどこなんだろう……。地球じゃない場所だ。きっとレイダの記憶かもしれないな』
「レイダ!課題やってきた?口に何か付けてるわよ??ここ」
「テレサおはよう!え?何??口に食べ物つけて歩いてたのかしら?ありががとう」テレサはレイダのカバンからハンカチを勝手に出して、彼女の口を拭いて渡した。
『あはは、本人のハンカチで拭くなんて!仲良いんだろうな、この二人は』
「さあ、テレサ行きましょうか。課題は終わってないけど、自分に課した課題は終わったわ!」
もう、何言ってるのか分からないわよ!もういいわ。ところで、ねえ、今日はバイトがある日なの?』
「そうなのよ。今日はカフェでバイトよ」
「だったら、少しお茶でもして行くわね」
『そんな、他愛のない女子大生の会話。どこの星でも似たような感じなのかな?』
二人は、レイダのバイト先までとても早口にいろんなことを話していた。鳥の囀りを聞いているようなリズを持った話し方だった。この星の人達特有の話し方なのかもしれない。まるでフランス語を聞いているようだ。
ようやく、カフェに到着し、レイダはエプロンをつけてカウンターに立っていた。
暫くすると、長身の美しい男性が入ってきた。
銀髪、薄いブルーの肌で、微かに香るフレグランス。
メガネを掛けているその姿に、レイダは恋に落ちていた。
「やあ、今日は入っているんだね!ご苦労様」
「ええ、コーエンさん、こんにちは!今日は何をしますか?」
「そうだね、今日は少し寒いから暖かい紅茶をもらえるかい?」
「はい。では、少々お待ちください」お金のお釣りを手渡しで渡した時に、少し彼の手に触れてしまった。
触れるだけで、赤面してしまって、アヌに自分の気持ちがバレているのではないか?とドキドキしていた。
そんな様子を見たテレサは、素早く察しレイダに駆け寄った。
「レイダ!あの人がもしかして……??」
「———。うん」
「年齢不詳のナイスガイね!それにしても、カッコ良すぎて近寄り難いわ……。ねえ、まだ声もかけてないのであれば、私が行ってもいいかしら??」
「そんなことしたら、もう絶交よ!」
「あはは!しないわよ」
『いや、そんなこと言って、実は出し抜きそうな女だよな』と、建人はテレサを疑った……。
「じゃあ、どうしようか。お店のスタッフから声を描けるなんて……」
「ねえ、休憩はいつなの?」
「まだ先よ。でも、今日来てくれてラッキーだったな。いつも来てくれる人ではないのよ」
「そっか……」
二人は暫く「あーでもない、こうでもない」と不毛な会話をしていたが、テレサも時間が来たので帰って行った。
アヌはまだデーブルで分厚い本を読んでおり、2杯目の紅茶を飲んでいた。
彼女は、自分の退勤時間が来たので準備をしていたら、目の前にアヌが立っていた。
「レイダさん、急にごめんね。この後時間あるかな……」少し赤らめた顔と視線を若干そらした照れた様子のが可愛く感じ、レイダは、二つ返事で答えた。
「ああ、良かった!じゃあ、外で待ってるね」
『よく知らないのに……。でもあんなに素敵な人だったら仕方ないかな』とウキウキして準備をした。
***
帰宅準備を済ませ、ドアを開けたところに長身のアヌがいた。
靴先から順番に上へ目線を上げた時に、彼の目と自分の視線が合った。
ホワ〜っと声が出そうになったが、バカっぽく見られたくないので、慌てて口を閉じた。
こここ、これは夢に違いない!と夢心地の気分だったその時———。
「レイダさん、僕たち何も知らない同士なのに、時間をくれてありがとう」
「いえ、顔見知りですけど、何も知らない同士ですものね」
「そうだね、どこか行きたい所はあるかい?」
「そうですね……立ちっぱなしの仕事なので、座れる所へ行きたいです」
「わかったよ。じゃあ美味しい物でも食べに行こう!!」
店に着き、誘われたものの何を話したらいいのか分からず
アヌの気持ちがちっともわからないままに時間が過ぎていった……。
あれやこれやと話をしながら、なぜ誘ってくれたのか、理由を知りたいが誘ったということは、自分に興味があ流のだろうから、自分から確認するのは無粋だろう……など考え込んでいた。
しかし、もう余計なことは考えずに、今日は何事もなく帰ろう!と決心した時
「レイダさん、実は以前から貴方を見てて、それでカフェに行ってたのです。貴方の笑顔が好きです」
俯きながら、恥ずかしそうに話している姿を見てレイダは胸が熱くなり、自分も実は気になっていたことを話した。
横並びのカウンターで座っていた二人は、お互いの手が少しづつ近づき、お互いの中指がぶつかり軽く触れ合い、人差し指、薬指……手と手が重なり合った。
お互いに、両思いを確認し安心したのか、アヌは右手でそっと彼女の顔の向き変え、軽くそして優しく彼女の唇にキスをした。
「ごめん、めちゃくちゃ可愛かったから、我慢できなかった」
レイダの方は、無条件に。アヌの行為全てを受け入れることができるくらい好きだった。
むしろ、もっとキスをして欲しいくらいだった。
「謝らないでください、私、とっても嬉しいです」
***
白くモヤのかかった景色と一緒に、建人は意識が目覚めた。
ここから始まったんだな……。
なんだろう、まだレイダと分離してる感覚だ。
でも、彼女の感情がとても軽くて暖かい。
マティアスがレイダを好きになるのが、同じ男心でも分かる気がする。
はは!自分に惚れるってのもいいよな。
いい夢みれた……
建人は安心して眠りについた。
その横で、アーヴは建人の和やかな顔を見て微笑んでいた。
「どんな夢を見たのやら……」そう言って、建人の鼻の頭を指で弾いた。




