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6

 国に入ると閉門前だからか屋台を片付けている人が多かった。

 それでも食堂の中には冒険者などが沢山いて賑わっていた。


 私の住んで居た国よりも賑わってるわね。


 なんと言うかこの国は治安が良いみたいだ。その所為か子供の獣人がまだ遊んで居たりしている。


 途轍もなく可愛い。


 私が子供を見て癒されていると腕に抱えた猫が尻尾で顔を軽く叩いて来た。


「猫さん、嫉妬してるの?」


 そう聞いてみるとそっぽを向く。


 ああ、癒されるわ……。

 取り敢えず宿屋に向かわないとね。歩いていれば見つかるかしら。


「おい、其処の兎の姉ちゃん。何かお困りかい?」


 そう思いながら歩いて居たところ、後ろから声を掛けられた。

 どんな人かと言うと猿の獣人の垢にも柄が悪そうなでかい男に、狐の獣人の目が細めのヒョロイ男だ。


「そうね……宿屋を探しているわ」


 そう言うと二人は気持ち悪い下卑た笑顔を浮かべる。


 きっと悪巧みでもしてるのでしょうね。金の要求が人攫いとか?

 治安がいいとはいえ、柄の悪い連中は少しはいるか。


 猿人が私の肩を叩いて芝居がかった心配してそうな顔をした。


「そうかそうか、此処に来るのが初めてなんだな。それなら俺らが案内してやるよ」


 そう言って私の背を押しながら前へと進む。猫は警戒するように二人を睨んで居た。なので猫の背中を撫ぜて宥めておいた。


 連れて来られたのは人気の無い路地裏。

 二人はナイフを取り出して私を脅すように立ちはだかる。

 兎人の格好をしてる所為か、脅せば何とかなるとでも思ってるのだろう。

 私はその浅はかな考えに溜息を漏らしながら猫を離して二人を見つめる。

 猫は邪魔にならないように屋根へと登って何処かへと行ってしまった。


「何ですか?」


 そう聞く私を馬鹿にしたように彼等は笑う。


「おいおい、こいつ自分の立場が分かってないらしいぜ?」

「本当だぜ、アニキ!兎ちゃんよ、痛い目に遭いたくなけりゃあ大人しくしてるんだな!」


 そう言って狐人が手を伸ばして来る。私は伸ばされた手の手首を掴んで捻った。


「気軽に触らないで」

「いだだだだ!」

「おい、テメェ何してやがる!」


 手を出そうとして来たのは、そちらなのに逆ギレして殴ろうとして来た。

 私は狐人の手を引いて私の目の前に立たせ、その人の顔で拳を防いだ。

「ぐぇ…」とか言う声を聞いたが聞かなかった事にしよう。

 狐人にとって強烈な拳だったのか白目を剥きながら、そのまま倒れてしまった。

 猿人はお仲間を殴ってしまった事に狼狽えたのか後ずさる。

 私はその隙を逃さずに思いっきり腹に蹴りを入れた。

 そしてよろめく猿人の胸倉を掴み、微笑んで見せた。


「ひっっ……」

「兎だからって馬鹿にしないでくれない?」

「た、助け……」

「良いわよ、助けてもね。でも貴方には私に何かあるでしょう?」

「え……」


 惚ける猿。

 私の用を忘れたのかしら。


「宿屋……オススメの場所を教えてくれないと……ね」

「は、はい!〈しば犬の宿屋〉が安くてオススメですぅ!城下町にある赤色の看板がめ、目印で……!!」


 やっと教えてくれた。やっぱり獣人の国もこんな輩はいるものね。

 あれ……猫さんが戻って来たわ……他には三人、人が近付いているわね。


 足音が三人分聞こえて来た。

 手短に済ませよう。


「今回は宿を教えてくれたから帳消しにしてあげるわ」

「あ、ありがとうございます!」


 助かったと言う顔をしている。でもね……。


「でも、その前に貴方のお仲間が受けた拳をお返ししないとね」


 そう言って私は猿の顔面を殴った。猿はそのままグラリと倒れる。

 片方だけ拳だと不公平よね。


「猫さん!もう良いわよ」


 上を見て、呼びかけると屋根から観察して居たらしい猫は降りてきて、私の腕の中に収まった。そして私に甘える様に頬擦りをして来る。

 そんな猫に私も頬擦りで返した。


 〈しば犬の宿屋〉ね。可愛いしば犬が出て来るのかしら!


 私は可愛いしば犬を想像しながら路地裏を後にした。












 私は赤い看板の目の前にいた。その看板にはしば犬の絵と宿が描かれていた。


「ここよね……」


 とりあえず入ってみますか!猫さんは入っていいのかな?

 いや、獣人の国だし大丈夫よね。


 私は宿の扉を開く。其処には若い冒険者のグループやイカつい男の人が食堂に座り、カウンターには犬の獣人のお爺さんが居た。



「いらっしゃいませー!」


 そう言ってカウンターの中から出てきたのは茶色の髪に黒目の犬の獣人の女の子だ。元気の良さそうな年頃の女の子。ただ、年齢は十二歳位だろう。

 なんか何処かで見た事があるような……。


「こんばんわ。宿を探しているんだけど……猫も入れる部屋が空いてたりしますか?」

「ええ!空いてますよ。この猫さんですね!」


 そう言って私の腕の中にいる猫を見て目を見張った。


「この猫……」

「どうしたんですか?」


 少し興奮している様子。どうしたのかしら?


「どうしたじゃないですよ!第一王子シルヴェスター様と同じ髪と瞳をしているじゃないですか!!」


 シルヴェスター?

 ああ、確か王位第一位継承権を持っている……って、二作目の攻略キャラじゃない!

 なんで今まで忘れていたのかしら!

 やった事はないがネットで色々な人がネタバレを含む感想を書いていたわね……確かシルヴェスターはヤンデレで他にも暗殺者がサイコパスと言うとんでも無いものとか……。

 取り敢えず二作目は病んでる系の濃いキャラが多いらしい。


 そんな私の内心を他所に女の子は話し出す。


「猫って最近少なくっているんですよね。しかも、この毛並みと瞳を持つ猫は福を呼ぶと言われてるんです」

「福を?」

「ええ!王太子様と同じ色と言うのも有りますが、何より、五年前からこの猫が現れると問題を解決してくれるんだそうです!」

「そうですか……」


 ジンクスみたいなもの?


 そう考えていると唐突に思い出したという感じに手をポンと叩く。


「知っていますか?王太子様はまだ婚約者が居ないんですよね」


 え?そうなの?

 確か作中では悪役令嬢が何たらかんたら、とか書かれてた筈なのに……。


「なんか好きな人がいる、とかでその人を振り向かせたいらしいです。確か隣国の方に恋をしたとか……今はその隣国に留学しているそうですよ!なんて素敵なんだろうって思いませんか!?」

「は、はあ……」


 隣国……私の国とか?シルヴェスターは学園に居たかしら?覚えてないわ……。


 頭が働かなくなって来た。

 もうこの話はやめよう。話を切り替えることにした。


「……えーと、ここに泊まりたいんですが……」

「そうでした!」


 話を晒すことに成功した。乗りが良くて助かる。



「それにしても嬉しいなあ!此処にはイカつい男の人しか来ないから美人のお姉さんが来てくれるなんて」

「美人……ありがとうございます。あまり言われたことがないから嬉しいです」


 現世ではお世辞で言われたかもしれないが記憶がないから分からないし、前世では地味な方だったので美人と言われると少し嬉しかった。


 私がそう言うと少し頰を赤くさせてから、食い気味に言った。


「あっ、敬語は要らないですよ!特別です」


 そう言われるてもなんか困るなあ。初対面の人だし……でも、本人がいいって言ってるしね。


「……そう?じゃあ普通に喋るわ。私はリズよ」

「はい!私はマリアです。リズお姉さんって呼んでもいいですか?」

「ええ……」


 お姉さん……なんか照れるわ。

 確か弟に呼ばれては居たけど、睨まれながら言われる事が多かったのよね。

 二人姉弟だったのだけど、正直なところ、妹が欲しかったわ。


 マリアは私の手を包むように両手で掴み、ブンブンと握手をしていた。


「ただいまー」


 その時、扉が開く音と聞き覚えのある声が後ろからして来た。

 振り返ってみると先程出会った門番の青年、ラットが頭を掻きながらこの宿に入って来ていた。


 私が驚いているとラットも私の存在に気付いたようで、頭を掻いているその手が止まった。


「お前は……!」

「お前じゃなくてリズよ……何回言わせればいいの?」

「お兄ちゃん!お客さんに向かって、お前は失礼でしょ」

「お兄ちゃん?」


 二人が私の疑問の台詞を聞き、顔をこちらに向かせた。

 私はその二人の顔を見比べる。


 マリアの顔に見覚えがあると思ったら、ラットにそっくりだわ。




 どうやらマリアとラットは兄妹だったようだ。

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