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 行商人達に同行して一週間がたった。

 獣人の国まで、もう直ぐだ。


 私は荷馬車の中で仰向けに寝転がり、空を見上げていた。


 風が涼しいわ。


「ゾラ、何をやっているんですか?」


 空色の髪と瞳に眼鏡をした兎の獣人の青年が声をかけて来る。

 この青年は行商人兼魔法使いのジルだ。水属性で魔力探知をよく任されている。


 旅の時って水属性の人がいると便利よね。水がなくなった時にとても役に立つし。


「別に。ただ黄昏ているだけ」

「そうですか?これ、昼飯ですよ」


 ジルは私に肉と野菜を挟んだパンを差し出して来た。


 旅にこんな豪華なものを食べて良いのかしら?


 パンを受け取り、静かに食べているとジルがジーッとこちらを見て来た。


「な、何……?」

「いえ、ゾラって食べ方や仕草がとても上品だなと」

「……そうかな?」

「そうですよ。お貴族様かなって最初は思ってしまいました」


 鋭いわね。これでも食べ方には気を使っていたのに。


「ふーん」

「褒めてるのに……生まれは何処なんですか?」


 上品なのは生まれが関係してると思ったらしい。正解だけど……。


 私の事情に入ろうとしたところで軽く殺気を漂わせながらニッコリと笑う。


「ジル?人の事情を探るのはやめた方が良い」

「ひっ、そうですね……ん?」


 私の殺気に怯えつつ、首をかしげる。


 如何やら魔力探知内に魔物か人が入ったみたいだ。


「魔力はどれくらいの大きさ?」

「そこまで大きくはないです……ウルフ、でしょうか?確認してみます」


 そう言ってジルは水色のカラスを飛ばした。


「ジルのカーはカラスなんだね」


 カーとはその人の魔法属性と魂によって動物に形作られたものだ。

 だからカーが傷付けば本人も傷付くという弱点もある。


 私もカーはいるが魔法が使えないため、創り出すことが出来ない。


 何と不便な……。


 ジルはカラスというのに不満を持っているのか情けない声をだした。


「うう、そうなんですよ。他人には馬鹿にされますが」

「そうなの?カラスは綺麗好きだから僕は好きだけどな」


 本当に好きよ?だって賢くてカッコいいじゃない。


 ジルは他の人達に声を掛けつつ、私の予想外の答えに驚いたのか目を見開いた。しかし、魔物を見つけたのか真剣な顔つきになった。


「ファイアウルフが五体が猫を囲って……これなら私でもカーで倒せるかもしれません」


 猫?何で猫がいるの?

 それに囲ってって……猫を食べるとか?


 そう言ってカーに指示を出し、水球をいくつかつくる。それをファイアウルフに向けて攻撃した。


 猫はいきなり水球が飛んで来たことに驚いて鳴いている。


 ファイアウルフは水属性に弱いからね。それが一番ね。


 しかし、それでも多少動いているので追いついた所で、私がナイフを脳天に投げてとどめを刺した。


「上手ですね」

「どうも」


 荷馬車は止まり、行商人はせっせとファイアウルフの解体を始めた。


 今日の夜ご飯は肉ね。楽しみだわ。


「それよりも」


 私は先程襲われていた琥珀色の瞳に灰色の毛並みをした猫の前にしゃがみ込み、頭を撫ぜた。


「猫さん、もう大丈夫だよ」


 そう言って顎も撫ぜてみると、ゴロゴロと気持ち良さそうに喉を鳴らして擦り寄ってくる。


「ニャー」


 可愛い奴め。

 折角だし、この子も連れて行けるか聞いてみよう。


「カールさん!」

「何だ?」


 ファイアウルフを解体して手を血塗れにしているカールは肉が調達出来たせいか嬉しそうな顔をしていた。


「この猫、連れて行って良いかな?」

「猫?良いぜ、こんなとこに居たら魔物に喰われちまうしな!」

「ありがとう!」


 カールさん、懐が広いわね。


 私はすっかり懐かれた猫を抱きながら荷馬車の中に戻り、出発した。

 ジルは何か難しい表情をしている。


 うーん、面倒くさそうだし放って置こう。


 私は猫を撫でながら先程の事を考える。


 ジルも商人だから、魔法使いとはいえ攻撃魔法は少ししか覚えてないみたいね。

 荷馬車の中では魔法の訓練しか出来ないし、魔力が封じられている今、何もする事がないわ。


 そう言って手首に嵌められた腕輪をみる。


 どうやったら外れるのかしら?



 そう思っていたらジルが決心したようにこちらを見て来て、こう言った。


「あの……ゾラも魔法使えますよね」


 ええ……聞かれたくない時に聞いてくるね。


「それが?」

「魔力探知をしていたらゾラの魔力量が多くて、とても分かりやすいんですよ」

「そう……」


 魔力量が多い家系に生まれたから?


 突然眼鏡を光らせて迫ってくる。

 嫌な予感しかしない……。


「な、何?ちょっと離れてくれないかな?」

「あの!一人で過ごして来たと言うならきっと魔法が上手な筈です。僕に魔法を教えて下さい!」

「ああ、そっち?」

「?」


 そういう事。変な事を考えちゃった。

 貴族って事がバレたとか、実はある侯爵令嬢を知っているとか。

 まあバレた場合、魔法が使えないから殺すか要相談しかないけどね。


「えーっと、別に使えるんだけどね、僕は今ある事情があり魔法が使えないんだ。だから見せることは出来ない。それでも良いね?」

「はい!」


 耳がヒクヒクと動いて可愛いな。

 報酬として耳を触らしてもらおうかしら?




 私達は荷馬車の中で魔法のことを熱心に話し始めた。

 猫はそれが暇なのか私の膝の上で寝ている。




 数日後、そんな事をしている内にフォスター王国の門の前の所まできた。


 ジルは魔法が上達したと喜び、報酬として耳を触らして貰った。耳はモフモフとして居て気持ち良かった。やられてる側は恥ずかしそうにして居たけど見なかったことにしよう。

 そして何故か猫が嫉妬してジルに唸って尖った爪で引っ掻こうと居た。


 私はここでみんなと別れることにした。

 獣人は鼻が効くので男装をやめて獣人の格好になるつもりだ。


「今までありがとう」


 私は今まで一緒に旅した皆んなに向き直り、猫を抱きながら礼を言った。


「おう、兄ちゃん元気にな!俺たちは先に行くぜ」


 そう言って行商人達は門の中へと入っていった。


 さてさて、変装し直す前に水を探して身体を拭こうかしら?

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