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神機巫女 -SHIKITSUNE-  作者: レイン
第三節 知ったうえで、まだ選べない

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第二十九話 崩れる均衡

第二十九話 崩れる均衡


 一月も半ばを過ぎた放課後。


 藍子と琥珀が四季狐大社の石段を上っていると、境内脇の車道からエンジンの音が聞こえてきた。


 泥に汚れた車が一台、二人より先に境内へ入っていく。


「あれ、奉術衆の車だよね」


「ん」


 二人が石段を上りきる頃には、車は社務所の前に停まっていた。


 後部の扉が開き、四人の奉術衆が降りてくる。朝から町の西にある工場跡へ出ていた班だった。


 先頭の男は左腕を布で吊り、もう一人も同行者に肩を支えられている。

 残る二人の足取りにも、普段のような軽さはなかった。


 玄斎が社務所から出てくる。


「負傷者は一人か?」


「はい。左腕を強く打っています。骨に異常はありませんが、しばらく動かさない方がよいかと」


「ほかの三人は?」


「一人は霊力を使いすぎて、自力で歩くのも難しい状態です。

 残る二人も消耗が大きく、今日はもう戦えません」


 玄斎は左腕を吊った男へ目を向けた。


「何があった?」


「魑魅魍魎級が三体です。そのうち一体だけ、体表が異常に硬くなっていました。

 刃が通らず、祓うまでに時間がかかりまして」


「妖殻の形成は?」


「確認していません。大きさや姿にも変化はなく、体表だけが硬くなっていました」


「妖気の量は?」


「低位個体としては、明らかに多く感じられました」


 玄斎は四人を社務所の奥へ入るよう促した。


「詳しい報告は、治療を終えてからでよい。今日はもう休め」


「ですが、ほかの現場も――」


「今のお主らを現場へ戻しても、負傷者を増やすだけじゃ。行け」


 男は一度だけ境内を振り返り、仲間とともに社務所へ入っていった。


 その間にも、境内の反対側では二台の車へ荷物が積み込まれている。


 護符の入った箱や結界用の杭、負傷者へ使う薬と包帯が、次々と荷台へ収められていった。


 奉術衆は必要なものを確かめると、三人と二人に分かれて車へ乗り込んだ。


「河川敷へ向かう三人は、現地を確認したあと、そのまま対処に入れ」


 玄斎が指示を出す。


「県道沿いへ向かう二人は、怪異と距離を保って監視じゃ。

 民家へ続く道に結界を張り、河川敷の三人が合流するまで時間を稼げ」


「承知しました」


「南の倉庫跡は?」


「陰陽連盟の小隊が対応中じゃ。そちらとの連絡は、大社に残る者が引き継ぐ」


 社務所の入口にいた奉術衆へ顔を向ける。


「警察との連絡も続けよ。河川敷への立ち入りを止め、県道沿いと倉庫跡では、近くの住民を危険な場所へ入れぬようにするのじゃ」


「手配しています。現地で避難が必要と判断した場合も、管轄支部を通じて伝えます」


 二台の車が、境内脇の車道を下っていく。


 見送り、藍子は玄斎へ近づいた。


「怪異が、同時に出たんですか?」


「河川敷と県道沿い、それに南の倉庫跡じゃ。いずれも魑魅魍魎級と報告されておる」


「今日の稽古は?」


 琥珀が尋ねる。


「中止じゃ。二人には中で報告の整理を手伝ってもらう」


「分かりました」


 藍子は答えたが、社務所の奥へ入っていった四人の姿が頭から離れなかった。


     ◇


 社務所へ入ると、机の上には周辺地域の地図が広げられていた。


 河川敷では四体、県道沿いの林では三体が確認されている。

 南の倉庫跡に現れた五体は、陰陽連盟の小隊が追跡していた。


 藍子は届いた報告書を場所ごとに分け、発見された時刻を地図へ書き込んでいく。

 琥珀は現地へ向かった者の名前と、次の連絡予定を用紙へまとめていた。


「玄爺」


 琥珀が県道沿いの欄を指さす。


「二人だけ」


「うむ。戦わせるために送ったのではない。

 怪異の位置を見失わぬよう、離れた場所から監視させておる」


「河川敷が終わるまで?」


「その予定じゃ」


 琥珀は返事の代わりに、河川敷から県道へ向かう道を確かめた。


 どこか一つでも予定どおりに進まなければ、合流の順番は崩れる。


 藍子は次の報告書を開いた。


 妖気が強まった時刻の欄には、未確認と記されている。

 現地へ到着した時には、すでに高い値を示していたらしい。


「二十四分の記録とは、まだ比べられないんですね」


「うむ。上昇した時刻が分からねば、起点を揃えられん。

 観測担当に、現地へ着く前の記録がないか探してもらっておる」


 玄斎は報告書へ目を通した。


「その確認と、今の対処は並行して進める。変化を見つけたら、時間差が分かるまで待つ必要はない」


 作業を始めてしばらくすると、通信具が鳴った。


 奉術衆の一人が応答する。


「四季狐大社です。状況を報告してください」


『河川敷へ到着。魑魅魍魎級四体を確認しました』


「周辺への被害は?」


『現在はありません。ただ、一体から低位個体としては異常な量の妖気を感じます』


 社務所にいる者たちの手が止まった。


「妖殻化の兆候は?」


『まだありません。ですが、残る三体がその個体の周囲へ集まり始めています』


 玄斎が通信具へ近づいた。


「距離を取って観察を続けよ。変化があれば、すぐに報告するのじゃ」


『承知しました』


 通信が切れる。


 工場跡から戻った四人は、全員が治療か霊力の回復を必要としている。


 河川敷へ向かった三人だけで抑えられなければ、増援として送れる奉術衆の班は残っていなかった。


     ◇


 まだ一分も経たないうちに、再び通信具が鳴った。


『四季狐大社、応答してください。怪異に変化が始まりました』


「状況は?」


『中心にいる個体が、ほかの三体から妖気を吸い上げています。三体の輪郭も崩れ始めました』


 通信の向こうで、結界の補強を求める声が飛ぶ。


『調整池で確認されたものと似ています。このまま一つに融合する可能性があります』


「怪異との距離は保てておるか?」


『はい。怪異と住宅地の間に結界を張り、河川敷から出ないよう抑えています』


「無理に祓おうとするでない。そのまま監視を続けよ」


『承知しました』


 玄斎は近くにいた奉術衆へ目を向けた。


「陰陽連盟へつなげ。住宅地側の避難も要請するのじゃ」


 別の通信経路が開かれる。


『報告は受けています。河川敷に近い住宅地の避難誘導を、警察へ依頼しました。

 ただ、管轄内で動かせる《朧》は、すべて別の現場へ出ています』


「倉庫跡の小隊は?」


『怪異を追跡中です。そちらでも妖気の上昇が確認されており、現場を離れられません』


「隣接支部はどうじゃ?」


『《朧》一機を回せます。搭乗者も待機させます。

 ただし、河川敷には受け入れ可能な神機陣がありません』


 玄斎は河川敷との通信を開き直した。


「緊急用として車に積んである神機陣の基材は使えるな?」


『確認します』


 車の扉を開け、荷台を探る音がする。


『損傷はありません。結界の内側に設置場所を確保できます。

 そこを浄化してから、《朧》一機を受け入れる神機陣を組みます』


「浄化も含め、二人でどれほどかかる?」


『地面の状態にもよりますが、二十分ほどです』


「残る一人で結界を保てるか?」


『今の状態なら、四十分ほどは。ただ、融合が完了すれば、一人では抑えきれません』


「分かった。一人は怪異を監視しながら結界を維持せよ。残る二人は、神機陣の構築に入るのじゃ」


『承知しました。すぐに取りかかります』


 陰陽連盟との通信へ戻る。


「現地の神機陣が完成してから、接続にはどれほどかかる?」


『最短で十五分です。陣の状態によっては、さらに延びます』


 琥珀が構築開始時刻を書き込んだ。


「早くても三十五分。結界が保つのは四十分」


「融合が進まなければ、の話じゃがな」


「県道沿いから、一人だけでも動かせない?」


「三体が別々に動いておる。二人で林側と住宅地へ続く道を押さえておる以上、どちらも抜けさせられん」


 机の端に置かれた別の通信具が鳴る。


 奉術衆の一人が応答へ回り、社務所の奥から負傷者の治療を手伝うよう声が飛んだ。

 別の者が薬箱を手に、奥へ駆けていく。


「三人で、三十五分も持ちますか?」


 藍子の問いに、玄斎はすぐには答えなかった。


「分からん。結界の状態を確かめながら、退かせる時を判断する」


 河川敷と県道沿いの印を順に確かめる。


「わしはここで各班への指示と、連盟との調整を続ける。

 現地の三人に任せる分、こちらの連絡を遅らせるわけにはいかん」


 通信記録をまとめていた奉術衆が顔を上げた。


「玄斎様。《徒桜》の母陣も準備しておきますか?」


 その名を聞いた瞬間、藍子の手が止まった。


 握っていたペンの先が、報告書の上へ小さな点を残す。


「大社から接続する許可は?」


「まだ得ていません」


「ならば、大社側の術式だけ整えておけ。機体側の出撃準備には入るな。接続もまだじゃ」


「承知しました」


 藍子は報告書へ、《徒桜》母陣――術式準備のみ、と書き加えた。


 一人が地下格納庫へ向かう。


 河川敷につながれた通信具は、風音と、結界の状況を伝える短い声を拾い続けていた。


     ◇


 神機陣の構築が始まってから、八分が過ぎた。


『結界札が一枚、焼き切れました』


 報告の直後、何かが弾ける音がした。


「怪異の状態は?」


『ほかの三体は、ほとんど形を保っていません。中心の個体へ取り込まれています。

 妖気が結界へぶつかり続けており、先ほどの予測ほどは持ちません』


 構築担当者の声が割り込む。


『一人を補強へ戻します。外周は終わっていますが、残る霊力経路を一人で組むなら、完成まで二十分ほど必要です』


 琥珀は記録用紙の時刻を確かめた。


「そこから接続に十五分。最初の予測でも、結界はあと三十二分」


 玄斎が通信具へ向き直る。


「結界を二人で維持すれば、どれほど延ばせる?」


『一人よりは持たせられます。ただ、融合が進んでいます。正確な時間は出せません』


「分かった。一人は補強へ戻れ。残る一人は構築を続けるのじゃ」


『承知しました』


 藍子は結界の維持時間へ横線を引き、その隣に「見込み不明」と書き加えた。


 到着予定も、最初の時刻より後ろへ移される。


 県道沿いへ向かうはずだった三人の名前は、河川敷の欄に残ったままだった。


 その県道から、呼び出しを示す光が灯る。


『三体のうち一体が結界に阻まれ、進路を変えて林へ入りました。

 このままでは、固定位置から監視できません』


「残る二体は?」


『住宅地へ続く道の近くにいます。もう一人が監視を続けています』


「河川敷からの応援は、当面送れん。林へ入った一体は感知できる範囲で追え。さらに奥へ入るなら、最後に確認した位置を報告して住宅地側へ戻るのじゃ。お主らだけで交戦するでないぞ」


『承知しました』


 怪異を示す印が、県道から林の中へ移される。

 その後を追うように、監視役の印も林の手前へ置き直された。


 住宅地側には、もう一人と二体の怪異が残っている。


 二人の間が離れていく。


 玄斎は連盟との通信を担当する者へ告げた。


「県道沿いにも増援を求めよ。河川敷の対処が済むまで、あの二人だけで待たせるわけにはいかん」


「確認します」


 返事を聞き、琥珀が県道の欄へ書き加える。


 河川敷からは、怪異が住宅地側へ動き始めたと報告が届いていた。


     ◇


 それから十分ほどの間に、河川敷の怪異は三体を完全に取り込んだ。


 膨張した身体へ黒い膜が広がり、硬質化が進んでいる。


 結界を支える二人の声に混じり、一人になった構築担当者が基材を組む音も続いていた。


「神機陣の完成まで、あとどのくらい?」


『十分ほどです』


 琥珀が到着予定を確かめる。


 完成しても、その後に接続の十五分が残る。


 藍子は地図に示された三人の位置を見た。


「陣にいる人も、堤防へ退けますか?」


 玄斎が現地へ確かめる。


『はい。結界の二人と合流して退けます。車も結界の外です』


「住宅地側の避難は?」


 管轄支部へ確認すると、河川敷に近い範囲の避難を終えたとの返答が届いた。

 周辺の道路も封鎖されている。


 玄斎は現地との通信へ戻った。


「怪異を押し留められなくなったら、神機陣を捨てて退け」


『ですが、ここで止めれば《朧》を呼べません』


「避難は済んでおる。陣を守って三人とも取り残されるでないぞ」


 わずかな沈黙のあと、返事が届いた。


『承知しました』


 藍子は堤防側の退路と、三人ともそこへ退けることを書き加えた。


 退く時には、陣を守るために誰か一人を残さなくてもよかった。


 構築担当者は作業を続けた。


 二人が結界を支える間に、残る基材が固定されていく。

 やがて霊力経路を結ぶとの報告が入り、その後、完成が告げられた。


「陰陽連盟へ伝えよ。接続を開始じゃ」


 管轄支部から返答が届く。


『応援機が待機する隣接支部の母陣を起動します。現地の神機陣は仮設です。

 接続中も、一人が陣の安定を維持してください。完了まで十五分を見込んでいます』


 玄斎は構築担当者へ残るよう指示し、退避の際は接続中でも離れることを念押しした。


 その直後、河川敷から地面を擦る音が届いた。


『妖殻化が完了しました。怪異が結界の前まで来ています』


「距離は?」


『十歩もありません』


 耳を打つような衝撃音が響き、藍子は肩をすくめた。


『結界、維持しています』


 声は届いた。


 琥珀が到着予定時刻を書き込む。その脇では、結界札の残数に線が引かれ、一つ少ない数字へ改められていた。


     ◇


 接続の開始から、十四分が過ぎた。


 河川敷では、二人の奉術衆が結界札へ霊力を送り続けている。


 その背後では、残る一人が仮設神機陣の外縁に立ち、乱れかける霊力の流れを整えていた。


 結界の向こうにいるのは、もはや四体の魑魅魍魎ではない。


 黒い妖殻に覆われた巨体が、河川敷にうずくまっている。

 背中や脇腹には不規則な突起が並び、身体を動かすたびに互いを押しのけるように蠢(うごめ)いていた。


『接続完了まで、あと一分です』


 通信具から陰陽連盟の声が届く。


「あと一分……」


 結界を支える奉術衆が、残った札へ目を走らせた。


 怪異が前肢(ぜんし)を振り上げる。


「来るぞ!」


 二人が同時に結界へ霊力を注いだ。


 前肢が見えない壁へ激突し、河川敷に重い音が響く。


 怪異は間を置かずに巨体を押しつけてきた。


 結界が住宅地側へたわむ。


「右側を支える!」


「分かった!」


 一人が亀裂の入った札へ霊力を集中させた。


 薄くなった光が戻りかけたところへ、前肢が再び叩きつけられる。


 札が裂け、右側の光が消えた。


「右を捨てる! 堤防への道を残せ!」


 二人は支える範囲を狭め、退路の前へ霊力を集中させた。


 怪異の身体が、失われた結界の隙間へ入り込む。


「陣を離れる準備を! 次で持たなければ、全員退く!」


 神機陣を維持していた者が通信具へ叫んだ。


 怪異が三度目の攻撃へ移る。


 前肢が高く持ち上がり、二人の頭上へ影を落とした。


 その瞬間、背後の神機陣から強い光が立ち上がる。


『接続完了。これより《朧》を招来します』


 陣の中央で空間が揺らいだ。


 揺らぎの中に頭部と肩が浮かび、続いて両腕と胴体が形を得ていく。


 光が薄れると、右手に刃を構えた《朧》が姿を現した。


『現地到着。奉術衆は結界から離れてください』


 搭乗者の声が響く。


「結界を解除する! 全員、堤防側へ!」


 神機陣を維持していた者も外縁から離れ、三人は車のある堤防へ走り出した。


 結界の光が消える。


 振り下ろされる怪異の前肢へ、《朧》が左腕を差し入れた。


 装甲を擦る音とともに、機体の足が地面を滑る。それでも一撃を支え、右手の刃を胴へ振るった。


 硬い音が響き、黒い妖殻に浅い傷が刻まれる。


 怪異が身体をひねった。


 背中から突き出た突起が肩をかすめ、《朧》が大きく傾く。


 その隙を抜けようと、怪異が堤防側へ巨体を向けた。


 《朧》は倒れかけた姿勢から踏み直し、側面へ肩をぶつける。


 進路をそらされた巨体が、川側へよろめいた。


 追いすがり、先ほど刻んだ傷へ刃を押し込む。


 怪異が暴れ、前肢を振り回した。


 《朧》は機体を沈めて一撃をかわす。刃を引き抜き、広がった亀裂へ角度を変えて突き入れた。


 黒い妖殻が砕ける。


 その奥に、四つの霊核が見えた。


 刃が、近い二つを貫く。


 青白い光が弾け、怪異の胴が大きく傾いた。

 前肢の輪郭が崩れかけるが、奥に残った霊核はまだ脈打っている。


 怪異は身をよじり、殻の割れた側を遠ざけようとした。


 《朧》が回り込み、崩れた胴へもう一度刃を通す。


 残る二つの霊核にひびが入り、光の中で砕けた。


 巨体の動きが止まる。


 妖殻を支えていた身体がほどけ、黒い破片が地面へ崩れ落ちた。


 《朧》は刃を引き、構えを保ったまま周囲を確かめる。


『四体分の霊核破壊を確認。残存する怪異反応はありません』


 堤防へ退いた奉術衆からも、同じ報告が届いた。


     ◇


『対象の討滅を確認。河川敷班三名、ならびに《朧》搭乗者の無事を確認しました』


 藍子は止めていた息を吐いた。


「間に合った……」


「ん」


 琥珀が河川敷の怪異の印を取り除く。


 続いて、県道沿いからも報告が届いた。


『陰陽連盟の増援と合流し、三体すべてを祓いました。林へ入った一体も対処済みです。

 負傷者はいません』


 玄斎が周辺の確認を指示する。


 琥珀は県道と林の印を外し、二人の名前の横へ合流先を書き加えた。


 藍子は河川敷から県道へ引いていた線を消した。


 その直後、別の通信具が鳴る。


「四季狐大社です。状況を報告してください」


『南の倉庫跡で、魑魅魍魎級一体が妖殻化を始めました。出現した五体のうち、ほかの四体はすでに祓いました。現地の小隊は退路を確保しつつ、怪異を倉庫跡から出さないよう抑えています』


 奉術衆が南の倉庫跡へ新たな印を置いた。


「河川敷の《朧》を、そのまま倉庫跡へ回せるか?」


 玄斎が尋ねる。


 地図を確かめた奉術衆が首を横に振った。


「最短経路には住宅地があります。神機のまま横切ることはできません。

 迂回すれば、到着までかなりの時間がかかります」


「神機陣による再招来は?」


「倉庫跡には受入陣がありません。

 一度、送り出した隣接支部へ戻したうえで、現地に新しい陣を構築する必要があります」


 玄斎は倉庫跡の印を見据えた。


「陰陽連盟へ、別支部も含めて動かせる神機がないか確認せよ。同じ母陣から追加で送るなら、現地の陣を拡張する時間も含め、到着見込みを出してもらうのじゃ。河川敷の《朧》を再出撃させる場合もな」


「承知しました」


「倉庫跡の小隊には、基材を確保できるか確認を。構築できる場所と、必要な時間も報告させよ。

 周辺の避難状況も、併せて確かめるのじゃ」


 奉術衆が二つの通信具へ分かれ、管轄支部と倉庫跡の小隊を呼び出す。


 玄斎は地下格納庫へつながる通信具へ一度だけ目を向けたが、手には取らなかった。


 藍子の手元には、二本の線を引いた河川敷の到着予定が残っている。


 間に合った《朧》は、まだ河川敷にいた。


 その南では、別の小隊が神機を待ち始めていた。






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