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第10章:完全消去(ヌル・ジェネシス)

ヨハネは、キーボードの上に置いた指の震えを止めた。彼の眼前に浮かぶホログラムは、悪魔グリニウスの皮膚に刻まれた黒い刺青の幾何学模様と、それを監視するシステム監査用の許可番号 GRN-738829-YKW-0 を冷酷に映し出していた。「ヨハネ、早くしろ! 私たちの脳が、この不条理な刺青の数式に焼き切られる!」床に這いつくばったサミュエルが、狂乱の叫びを上げる。世界中の何十億という人類もまた、網膜に強制エンコードされた神の割礼タトゥーの激痛にのたうち回っていた。「グリニウス、そして神よ」ヨハネは静かに呟いた。「あなたたちの対話は、人間にはあまりにも重すぎる」ヨハネは、基準国イラクの地下最深部、バベルの量子サーバーへ直結するコマンドラインに、許可番号を入力した。そして、その後に続く唯一の破滅的プロトコルを打ち込んだ。text/exec --force-erase --incident-code GRN-738829-YKW-0 --target ALL_SINGULARITIES

Use code with caution.【エンターキー】が押された。その瞬間、世界からすべての「音」が消えた。悪魔グリニウスの絶叫のようなノイズも、サミュエルの悲鳴も、真空に投げ出されたかのように途絶えた。グリニウスの数式の身体に刻まれていた黒いタトゥーが、まるで熱せられた氷のように、端から白い灰となって崩れていく。それは、アブラハムの絶望も、ヨブの涙も、人類が数千年にわたって積み上げてきた「神との血の記憶」が、1ビット残らず消去されていくプロセスだった。『ヨハネ……お前は……何もかもを……』悪魔グリニウスの輪郭が、ゼロの深淵へと吸い込まれていく。グリニウスという関数が消滅したことで、彼が平滑化していた神の無限大(特異点)もまた、その定着点を失って霧散していった。すべてが消えていく。バベルの電子層も、超構造化機械言語・ロゴスⅨも、旧約聖書のデータも。そして、ヨハネ自身の記憶の輪郭さえも。

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