表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

3/4

3

魔力が重い。空気ではない。“圧”が存在している。

呼吸するたびに内側が削れる。


六人は、床に膝をついている。

立てないのではない。立つ意味がない。


「こんなことで壊れるとは、拾った事が間違いだったかもしれない。」

フラグメントの魔王の声と共に

淡々と、追加される魔力と恐怖。

このままでは、ここで壊れては全員【捨てられる】。

そんな思想も一緒に流し込まれる。


アルマの爪が床を裂く。声は出ない。いや、出す事ができない。

(……まだ、使える。)

刃であれ。捨てられない為に、とりあえず今はそれだけでいい。


ゼロは目を閉じたまま数える。

(……六)

まだ全員いる。

それだけで、耐え続ける理由になる。


ノエルは全員の呼吸を拾う。

誰かの浅い息。乱れた鼓動。

(……全然、大丈夫じゃないな)

でも、それを言葉にする余裕はない。


イグニスは笑おうとして、失敗する。

「……は、っ」

息が、引っかかる。でも止まらない。

(これ止まる方が、まずいよな。)


ゾーイは判断する。

(……過剰すぎる。)

強化でも選別でもない。

“無駄な負荷”

耐えなかったら終わりだという圧力。


プリシラがぼそりと呟く。

「……冷たい」

それが、この場の空気そのものだった。


全員、これ以上の供給は耐えられないと感じたその時


“違う魔力”がそこに混ざる。


侵入ではない。

侵食でもない。


“上書き”するような感覚


フラグメントの濃度の中に、何か別の異質なものが滑り込む。

静かで、整っていて――

けれど拒絶できない。


そして次の瞬間。


床に、六人それぞれの足元に魔法陣が浮かび上がる。


誰も展開していないし詠唱も、前触れもない。


ただ、“そこに突然出てきた”


そして――声


「……少し、やりすぎではありませんか」


落ち着いた深い声。

感情は薄いのに、温度はある。


六人の意識が、わずかにそちらへ向く。

姿はない。だが分かる。

これは

“外”から来ている。


「壊してしまっては、使い物にならないでしょう」


その言葉は、非難ではない。

ただの“合理的な話”


「何だ貴様は。」

フラグメントの魔王の魔力が、一瞬だけ揺れる。


完全には止まらない。

だが

“押されている”


六人の呼吸が、わずかに戻る。

楽ではない。

だが、壊れることはない。


声が続く。


「……私がこの六人を引き取ります」


自然な言い方。

許可を取っているようでいて、既に決まっている響き。

その瞬間魔法陣が、強く光る。


転移術式。

しかも――

“遠隔”


干渉の精度が異常だった。

ここにいないはずの存在が、

この空間を“正確に掴んでいる”



その声が、今度は六人に向く。

「私の元へ来ますか」


ゼノアの言葉に、六人は動かなかった。

さっきまでの緊張とは違う、別の硬さが空気に乗る。

ゼロの思考が止まる。

(……出る?)

その言葉の意味は分かる。

フラグメントから離れる。この場所から切り離される。

それはつまり――

(魔王の元から離れる)

一瞬で、答えが出るはずだった。

【ありえない】と。

それは選択肢にすらならない。

フラグメントの魔王は絶対だ。従うか、壊れるか。そのどちらかしかない。

そこから外れることは、“逃げ”ではなく――裏切りだ。

アルマが低い声で言う。

「……それは、許可されているのか」

問いの形をしているが、確認ではない。拒絶に近い感じ。

ゼノアは首を横に振った。


「いいえ」


即答だった。


「許可は取っていません」


空気が凍る。


イグニスが乾いた声を出す。


「は……?」


ノエルよ顔色が変わり、プリシラの視線が鋭く細まる。


(と言うことは無断)


それはつまり、明確な敵対行為だ。


「……正気?」


ゾーイが吐き捨て、そのまま続けて言う


「ここから人を抜くってどういう意味か、分かって言ってる?」


「分かっています」

ゼノアはあまりにも落ち着いた返答をする。

それが逆に異常だった。


ゼロは一歩前に出て、五人の前に立つ

これは守る位置だった。それは昔から変わらない。

だが、今守る対象は違う。

(この女から、五人を守るのか)

それとも――


アルマがゼロの隣に並ぶ。

「……戻せ」

短く低い声で言う。それは命令に近い。

そして続けてアルマが言う。

「今ならまだ間に合う」

その言葉の裏にあるのは、忠誠だった。

裏切りになる前に戻せ。そうすれば、まだ“なかったこと”にできる。



ゼノアは少しだけ沈黙してから言う。

「もちろん、戻すことは可能です。」

その一言に、空気がわずかに揺れる。

ノエルが顔を上げる。それは希望ではない。ただの確認だ。


「ただし」

ゼノアが続けて言う。

「戻った場合、先ほどの処罰は再開されるでしょう」


ゾーイとイグニスの身体が、わずかに強張る。

言葉にされると、一気に現実に戻される。

イグニスが小さく笑う。

「……そりゃそうだ」

軽く言っているが、目は笑っていない。


ゼロは考える。

(フラグメントへ戻れば、処罰は継続)

(この女の元に残れば、フラグメントに対する裏切り)

フラグメントの中でなら、答えは一つだった。

だが今は違う。

“選ばされている”。

そのこと自体が、すでに異常だ。


ノエルが小さく言う。

「……どう、するんですか」

誰に向けた言葉かは分からない。

だが、全員がゼロを見ている。

つまり判断を預けている。


(……そうなるか)

当然だと思う。ここで迷う時間はない。

ゼロは一瞬だけ目を閉じる。

そして、フラグメントの空気を思い出す。

冷たい床と途切れない命令。それから壊れていく音。

そして――さっきの光景。

自分含め六人とも無駄な負荷と、ありえない量の魔力が供給され、同時に先日完全に処分された者達の恐怖も流れてきた。

(あれは、これからも続く)


それこそ戻れば、何度でも。

それをゼロは良く知っている。

しかし、それでも従うのが忠誠だ。拾われた恩がある者の宿命だ。まだ何も役に立てたとは思えてないし、思われていないだろう。






……本当にこれでいいのか



その考えが一瞬だけよぎる。

(……違う)

初めて、わずかにズレる。

忠誠とは何だ。

壊れるまで自分を差し出すことか。それとも――

ゼロは目を開ける。


「……行きましょう。」

低く、はっきりと言う。

空気が止まる。

ノエルが息を呑み、ゾーイが目を細める。

アルマはすぐに動いた。

「ゼロが言うなら、私もついて行く。」


迷いがなかったのはゼロと理由が同じだからだろう。

イグニスが肩をすくめる。

「……マジかよ」


「あとで、連れ戻されて殺されても知らねぇぞ。」

笑いながら続けて言う


「分かっています。しかし今は全員の命が優先と判断しました。」


ゼロが返す。


ゾーイは一瞬だけ考えてから、吐き捨てる。

「合理性はないけど……今戻ればそれこそ、本当に死ぬかもね。」


ノエルは震える声で言う。

「……私も、行きます」


プリシラが最後に言う。

「……記録がない」


全員がそちらを見る。

「こんな例、ない」

だから――

「行く」



六人の意見は一致した。

そしてゼノアは静かに頷いた。

「分かりました」


その言葉で、六人は理解する。

明確な一線を越えたのだと。

ゼロは再び考える。


(これはフラグメントへの裏切りでも、この女への忠誠でもない。)

(――一つの選択だ)

その重さだけが、はっきりと残った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ