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音がない。罵声も、怒号も、悲鳴も、嫌な足音も。

あのフラグメントの間にあった押し潰すような魔力も、常に何かを強いられる気配も、ここには一切ない。


ただ、ただ静かな魔界。


広い空間に居るのは六人だけ。


そして――


“何もされない”


イグニスが広い天井を見上げる。

「……いや、逆に落ち着かねえな、これ」

軽く言っているが、声は少し乾いている。


「干渉がない。負荷もない。見張もいない。……異常ね。」

ゾーイが壁にもたれつつ、静かに言う


状況、環境としては“良いはず”なのに、評価は平坦に止まる。


ノエルは誰かの呼吸を探す。

……安定している。

全員、崩れてはいない。

それが逆に、引っかかる。


アルマは立ったまま動かない。

指先に力が入らない。

(……何も、来ない)

次の指示も、次の負荷も。何も。

“刃である理由”が、今はどこにもない。


プリシラがぼそっと話す

「……静かすぎる」


その言葉が、

空間にやけに長く残る。


ゼロは少し離れた位置に立っている。


視線は全体を見ていていつも通り。


(……異常なし)

全員いる。全員、生きている。

崩壊も進んでいない。


(……問題、ない)


問題ないはずなのに。


胸の奥が、“落ちない”



(……何か、私は見落としている)


その感覚が頭からも身体からも離れない。


視線を走らせ、思考を巡らせる。

イグニスは動ける。ノエルの呼吸は安定してる。ゾーイは特に問題なし。プリシラも変化なし。アルマは


「……アルマ」

自然に、声が出る。


アルマがわずかに視線を向ける。

「何だ」


「状態は」


短い確認。


アルマは一瞬だけ間を置く。

「……問題ない」


それは事実だ。


ゼロもそれは十分分かっている。


それでも


「……そうか」


言葉が軽い。


“確認した意味”がない。


その違和感が、じわじわと広がる。


(……私は今、アルマの何を、確認した?)


目的が曖昧だった。


“確認する必要がない確認”をした。


それに気づいた瞬間、


胸の奥が、少しだけ軋む。


(……違う)


何かがズレている。


ゼロはもう一度全体を見る。


全員いるし崩れていない。脅威もない。壊される事も。


自分が“守るべき対象”は、全員無事だった。


(……なら、なぜ)


次の瞬間、


思考が止まる。


理由が出てこない。


「……っ」


ほんのわずか、

呼吸が乱れる。


誰も気づかない程度。


だが、ゼロの中では明確だった。


(……分からない)


何をすればいいのか。


何を見ればいいのか。


何を防げばいいのか。


“次”が、ない。


五人を守らなければいけない対象がない。


それは――

今まで一度もなかった状態。


フラグメントにいた時は、常に何かが壊れかけていた。


だから

見ていればよかった。整えればよかった。前に立てばよかった。


だが、今は違う。


何も起きていない。


何も“起きない”


その事実が、

ゆっくりと、ゼロの内側を削る。


(……自分は)


そこで止まる。


その先を、考えたことがなかった。


“守るものがある前提”でしか、自分を定義していない。


だから


(……何もないなら)


続きがない。


その瞬間、視界がわずかに揺れる。


立っている感覚が、

少しだけ曖昧になる。


「……ゼロ?」


ノエルの柔らかい声。


「……大丈夫?」


気がつけばすぐ隣にノエルが来ていた。



「問題ない」


ゼロは反射的に即答する。


だがその言葉が

“自分に届いていない”


ノエルは少しだけ間を置く。


「……そっか」


否定しない。


けれも離れない。


それだけで、ゼロの中の“何か”が、

少しだけ揺れる。


(……違う)


これは、

“問題ない状態”ではない。


でも、


“問題”として扱う方法が分からない。


言葉がない。整理もできない。


これは、この状態は初めてだ。


“整えられない状態”に入る。


その沈黙をイグニスが破る


「……やることなくて困ってるだけだろ」


核心を突いている。


ゼロの思考が一瞬止まる。


(……ああ)


それだ、そんな単純なこと。


“やることがない”


ただそれだけだ。なのにその事実がここまで自分を揺らすとは。平 ゼロはゆっくり息を吐く。


「……そうですね。」


認める。整っていないまま。


でも初めて、“状態をそのまま置いた”

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