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問:兄が自害したので家督を引き継いだ瞬間に歴オタだった前世の記憶がよみがえり、詰んでる事を理解してしまった私、朝倉景恒の心境を答えよ  作者: 麺樽豆腐
第一部 歴史改変への道

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答32別解:殺せば死ぬと思い込んでいた私が未熟であったということですか

元亀元(1570)年6月上旬、山城国洛中 二条御所


「見事。というより他あるまいな」


「いや、それは私の科白(セリフ)ですよ」


 不敵な笑みを浮かべる魔王に対し、気圧されぬよう微笑みを浮かべながらそう返します。


「我が軍勢をことごとく血祭りにあげた者は言うことが違うわ。完膚なきまでに打ちのめされた我のどこが見事だというのか」


「完膚なきまでに打ちのめしてなお、その首に届かなかったんですがそれは」


 本当に信じられません。六年ですよ?あなたを殺すためだけに六年かけて準備したというのに。

 

「参考までに、どのようにあの鍋から逃れたか、お聞きしても?」


「ふっ、鍋とは言い得て妙だな。黒河川(くろこがわ)といったか?街道から外れた位置を流れる川よ。

 そこを遡り、山を越えればすぐ近くに忠実な幕臣である朽木が治める谷がある。

 単身であればそこまで駆け抜けるのはそう難しくなかろう?

 竹千代もついてこれた程度ぞ」


 いやいや、何言ってるんですかこの人。黒河川上流ってガチで人の手が入っていない場所ですよ?

 沢をのぼって山越え?途中滝になってたりするのに?


「・・・あなたを心のどこかで人間であるはずだと、殺せば死ぬと思い込んでいた私が未熟であったということですか・・・」


「ひどい言われようだな。人間でなければなんだというのだ?我は桃厳居士と土田御前の間に生まれた、れっきとした人ぞ?」


 人間だったらあれだけ練り上げた殺意で殺しに行けば、ちゃんと死ぬんです。


「歴史の、時代のいとし子。第六天魔王の化身といったところでしょうね。

 持って生まれた使命を果たすまでは超常の力に護られているとしか思えません」


 私の正直な所感を述べると、魔王殿は一旦、呆気にとられた顔をしましたが、その後深く考え込みました。


「・・・なるほど、化身か。察するに戦乱の世を鎮める使命を持ちて降り立った、とすれば叡山や春日の強訴を()()()()な。

 よい智慧よ。使わせてもらおう」


「ご随意に。少なくとも私はわりかし本気で言ってますのでご承知おきくださいね」


 私たちの間に、妙に弛緩した空気が流れたところで、公方様が声を上げる。


「ほな、交渉を始めんかい。どう見ても勝った景恒が『降伏するんで条件調整したい』とか言い出してんのが意味不明やけど。

 それに長政も。その首親父さん?なにがどうしてこうなったん?説明してや」


 その言葉と、私の目配せを受け、浅井備前殿が説明を始めました。


「はっ。そも当家は、織田・朝倉双方と(よしみ)を結んでおります。

 それが、此度の争いにおいて、恥ずかしながらどちらにお味方するかで家中が割れ申した。

 (それがし)は幕府を(いただ)いている織田に与するべしと主張しました。

 しかし、父はじめ古き家臣どもは、六角の脅威から庇護してきた朝倉に与すべきと譲らなかったのです」


 実際のところは備前殿も幕府には不満しかなかったのですけれど、それは今更言う話ではありませんね。


「して、南近江を混沌の渦に落とし込む六角入道を討伐せんと小谷を空けた隙に父が挙兵し愛発の関を抜けた。という次第にござる」


「ちなみに愛発の関を超えてきた浅井勢は五百程度。隠居殿と古き家臣の暴走であったならその数なのもうなずけますねぇ」


 備前殿の説明と私の補足を聞いて、魔王殿は何とも言えない顔をしました。


「五百程度・・・その程度で我は中務大輔の初動を見落とすほど狼狽えたということか・・・」


「義兄者・・・申し開きもござらぬ・・・が、当主の意に添わぬ者どもは、こうして首桶の中でござる」


 そういって平伏する備前殿。


「まぁええんちゃう?浅井の小勢にビビったんは信長のうっかりやらかしなんやし、ケジメは長政がつけとる。

 それににっくき六角承禎入道を討ち取ったんやろ?観音寺も火の海にしたっちゅう話やし、功罪では功のほうが圧倒的や。

 京極は残念やったけど、しゃあない。近江の統治どうすっかなぁ・・・」


「それにつきましては、某の前妻・小夜が六角の姫であり、嫡男・万福丸が六角の血を受け継いでおります。

 そこで、万福丸に小谷に居る京極殿の娘を娶らせ、六角および京極の名跡を受け継がせることをお許し願いたい!」


 意訳すると実際にどの名跡を使うかは幕府に任せるけど近江の実権は浅井家のものなんでそのつもりで。と言っています。


「エエやん!三管領も四職も実力が伴わんとアカンのは思い知ったからなぁ。

 んじゃ万福丸が元服するときにはワイが烏帽子親になったる!んで六角昭政を名乗りや!」


「偏諱まで・・・ありがとうございまする!」


 これで浅井家の裏切りに関しては有耶無耶になりましたねぇ。

 下野殿の方針通り、悪いことは隠居のせいにしてしまって家の権益を漏らさず確保する。が無事成就してよかった。

 下野殿も腹を切った甲斐がありましたね。


「ほんで、景恒の方なんやけど・・・若狭、改めて調べてみたら丹後一色の連中が藤長にあることないこと吹き込んどったらしくてなぁ・・・

 武藤は被害者。若狭を防衛してただけっちゅうことが発覚したんや。これにはワイも驚いたわ、堪忍してぇな」


 武藤討伐の大義名分が誤りであったと認めましたか。


「私は構わないのですが、怒り狂った武藤殿が舞鶴までケジメつけに行くのは止められませんよ?

 民に迷惑をかけないように釘をさすぐらいが精一杯ですね」


「まぁしゃあない。一色の自業自得や。で、その流れで敦賀どつきに行ったのもぶっちゃけ間違いやったんやけど・・・

 その討伐軍ぶちのめしといて、降伏したい?降伏しろの間違いやなくてか?」


 呆れたような視線を向けてくる公方様。

 ですが、私にもう勝ちの目がないのは明らかなのですよ。


「一回限り・・・一回限りだったのです。全くこちらを視界に収めていない魔王殿に対して、六年をかけて積み上げたものをすべて賭けた一撃。

 これを綺麗に躱されてしまった以上、お互いが同じ時間をかけて積み上げるようになります。

 となれば地力や才覚で遠く及ばない私では魔王殿を討つ機会は二度と訪れません」


 本能寺のようなうっかりは除く。


「で、あるか・・・若狭は?」


「武田豆州殿が小浜に帰還いたします」


 公方様の理解が追い付いていないようですが、魔王殿は構わず言葉を重ねます。


「では、我らは伊勢、志摩、紀伊。竹千代は南信、駿河」


「私どもは越前、加賀、能登。備前殿は伊賀、大和」


 当面の棲み分け先を提示し合うと、魔王殿は満足そうに笑みを浮かべました。


「悪くない。よくもあのような愚者を演じたものよ。猿以外に話が通じるものがおるとはな。

 で?条件は?」


「私は隠居しますので跡継ぎの七郎丸は敦賀から動かさない事。

 斯波武衛のごとく扱うことを条件とした朝倉本家の安堵」

 

 朝倉本家および敦賀郡司家が安堵されれば十分です。大野?安居?知らない子ですね。


「で、あるか。七郎丸には我が娘をあてがう。貴様は使()()、果ては薩摩か津軽かだ」


「覚悟のうえです。なんなら蝦夷や琉球であっても」


 果てしないブラック労働と国替え乱舞の末に日本の端に押しやるぞ宣言ですが、まあ想定の範囲内です。


「ちょい待てや!話が飛び過ぎとるぞ!説明せんかい!!」


 公方様の言葉に備前殿もうなずいています。

 仕方がないですねぇ、解説しますか。


「はい、まず私が降参の意を示しにこちらへやってきた。ここまではいいですね?

 そのなかで公方様が譲れない条件である若狭武田の復帰を手土産にしました。

 そして魔王殿がそれを受け入れた訳です。

 ただ、あくまで私は朝倉家の被官でして、朝倉家を離脱し織田家の傘下に入る形となります」


「つまり大名同士の和睦ではなく、国衆が主君を替えるみたいなもんか?」


 公方様の理解が追い付いてきたところで、話を続けます。


「そんなようなものです。で、そうなると織田家の成長戦略に合わせる形で私らも成長先を選ぶ必要がありますよね?

 そこで魔王殿が提示した織田家の伸張先が伊勢・志摩・紀伊という、南海航路を抑えるものでした。

 浅井備前殿が近江を掌握し、京との連絡が容易になったため、つぎは大量に物資を運べる海路を求める。という形です」


「備前が裏切ったとしても公方様との連絡が可能になるよう保険の意味もある」


 わざわざ言わなかったのに。正直なことで。

 備前殿も意表を突かれた顔していますが、貴方達浅井家は一度織田家を裏切ってるんですよ?警戒するのも当然でしょう。


「そこで私どもは北陸。浅井家は畿内内陸へと伸張することで織田家の利害に噛み合わないようにする提案をしたところ、悪くない感触を得た。という訳です」


「うーん。説明されればわかるんやけど・・・よう話通じとるなぁ。ほとんど単語だけで会話しとったで」


 まぁ魔王殿の頭の回転速度についていくにはそうならざるを得ないのですよ。


「後の会話は仕官の条件すり合わせですね。当家の安堵の代わりに私は幕府と織田家のために働き、必要な戦場へ国替えを繰り返す。

 こういった条件で合意がなされた。という訳ですよ」


「えぇ・・・お前それでええんか?」


 公方様がドン引きしていますが、ブラック織田家に参画する以上は覚悟の上です。

 その上、柴田・丹羽・佐久間は消しましたし、明智は私の手元。

 浅井家が残ったとはいえ、史実よりハードモードは否めません。


「おい、妙な笑顔しとらんで返事せぇ。金ヶ崎では勝ったのになんでそんな酷い条件で納得するんや?」


「公方様。こ奴は物腰こそ柔らかいがその本質は我と同じ修羅でござる。迫りくる闘争が楽しみなのでしょう」


 む、失礼な。魔王と一緒にしないでください。

 とはいえ私の力がどこまで世界に、歴史に通じるか、それは楽しみです。

 織田の元で、日ノ本に静謐を、そしてあわよくば海の向こうへ。


 もうこうなったらいけるところまで行きましょうか!



という訳でノッブ生存の場合でした。


この世界線だと本能寺されない?

ならノッブ史実より長生きするかも。


ここで一旦完結としますが、第二部の書き溜めが終わったらこの続きに投下しますので、気長にお待ちいただけると幸いです。


・・・別作品を先に投下するかもなので、本当に気長にお待ち下さい。

おっちゃん今度ラブコメに挑戦するんだぁ~


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読んでいただきありがとうございます。


よろしければブックマーク・★評価・感想等お願いいたします。


・・・メンタル作者名どおりなんでお手柔らかだと嬉しいです。


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― 新着の感想 ―
まあ、6年かけた必殺の策を力技で乗り越えられたもうええわになりますよね。しかし、ノッブも自分の軍団を壊滅させた相手をあっさり配下に収めるあたり、さすがですね。
粥を延ばすように日常を繰り返すのではなく、人物がどう考え何故そうしてどうなったに絞って話が展開していくのでテンポがはやい。 朝倉景鏡や朝倉本家との決着も、ここまで隣国との経済も技術も隔絶してしまった領…
どうしてそこで諦めるんだ! 織田軍の中核を殲滅してこれから厳しいって事は勝てる可能性は余裕であるって事じゃないか! 負けても斎藤龍興くらい反信長勢力渡り歩けよ! 何でこいつここまで信長目の敵にしてんの…
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