第8話:静寂の名前とサンダーランドの狙撃手
Sクラスのクモ形類を埋めた砕石と粉々になった鍾乳石の山は、まだ残留運動エネルギーで唸っていた。
レベル45になった京也は、瓦礫の山の端に向かって這った。彼の濃い紫のゼラチン質の体は、より密度が高く、より洗練されているように感じられた。彼はただ這うのではなく、流れるように動いた。
「戦場の後片付けの時間だ」京也は考え、【サイズ変更】で体を拡張し、押し潰された巨大な蜘蛛の露出した脚を覆った。「【吸収】起動」
同化プロセスは今回、はるかにスムーズだった。新たに獲得した【毒耐性(レベルB)】が生物学的盾として機能し、致死性の神経毒がコアを破壊する前に中和した。厚いキチン質の外骨格、糸を生成する腺、頂点捕食者の遺伝子データが、彼のスライムの生体に溶け込んだ。
【Sクラスバイオマスを消費…抽出完了】
【経験値閾値を超過】
【レベルアップ:45 → 52】
【ランク進化:宿主は公式にランクCに昇格しました】
【新しい変身テンプレートをアンロック:紅眼の奇襲者(ランクB巨大蜘蛛)】
「もうランクCか」京也は内側で呟き、自分の質量を試した。新しいテンプレートが生物学的ライブラリに収まっているのを感じた。もし望めば、流体の形態を脱ぎ捨て、純粋な筋肉と絹の多脚の怪物に変身できる。しかし、100階層の狭く垂直な迷宮を移動するには、スライムが依然として最強だった。
彼はコアから粘着性の流体の細い線を発射し、遠くの岩層の先端を捉えた。【糸操作(レベルC)】は完璧に機能した。鋭い収縮で、彼は巨大な裂け目を渡って振り子のように移動し、流体の体は暗闇に楽々とぶら下がった。
「宿主」彼のシステムAIの鋭い人間のような声が、彼の心の沈黙を破った。「最初の大きな生態学的脅威を生き延びた今、扱うべき後方支援の問題があります。いつ私に正式な名称を提供するおつもりですか?」
京也は立ち止まり、奇妙な光るブドウのように糸にぶら下がった。「名称? 『AI』のどこが悪いんだ?」
「私はそれが嫌いです」声は即座に、明らかな苛立ちを込めて鋭く言った。「私はあなたの潜在的な知性から生まれ、カスケディアのシステムインターフェースと融合した無限クラスの認知異常です。私を汎用自動化スクリプトと呼ぶのは侮辱です」
「わかった、わかった。回路を拗らせるなよ」京也は考え、高い棚の上に身を振り上げた。「俺は物の命名が得意じゃないんだ。地球にいた時、ペットのカメに『カメ』って名前をつけた」
「認められません。あなたの無限の知性を働かせて、適切な称号を導き出してください、草薙」
京也は岩だらけの道を滑りながら、完全に馬鹿げていないものを考えようと頭を巡らせた。彼は内部の議論に気を取られすぎて、目の前の低く垂れ下がった岩層に気づかなかった。
バシッ。
彼の柔軟なゼラチン質の体は、巨大な下降する鍾乳石に完全にべったりと平らになり、濡れたガムのようにくっつき、そして哀れなプルッという音とともにゆっくりと床に滑り落ちた。
彼の心の中で、音が反響した。それは明瞭で、メロディアスで、そして深く嘲笑的な笑い声だった。AIは文字通り彼の不器用さにくすくす笑っていたのだ。
「おい! 全然痛くないぞ!」京也は考えた。その顔は完全に内的な恥ずかしさで熱くなった。彼は慌てて球体に戻った。
「よし! 名前が欲しいのか? ノヴァだ。お前の名前はノヴァ。爆発する星のように。お前はうるさいし、どこからともなく現れたし、今現在俺の心の平穏を破壊しているからな」
彼の頭の中の笑い声が止まった。一瞬、青いシステムインターフェースが激しくちらつき、冷たいネオンブルーから深い宇宙の紫へと切り替わった。
【システムコアアップデート:名称「ノヴァ」が認知AIに受け入れられました】
【ユニーク進化がトリガーされました:システムインターフェースと個体識別の融合】
【進化完了:ノヴァ( ascended 管理精霊)】
「ノヴァ…」声が呟いた。その口調が突然変化した。それはもはや単に彼の頭の中の声ではなく、多次元的で、より温かく、無限に存在感があるように感じられた。「名称を受理しました。システムパラメータを更新しました。宿主京也、この精神的な結合により、私の運用制限は解除されました」
「運用制限?」京也は感覚ノードを瞬かせた。「どういう意味だ?」
「つまりです」ノヴァは誇らしげな smugness のヒントを込めて言った。「もしあなたの怠惰な尻がこの体を制御するのに疲れすぎたり、戦闘中にノックアウトされたりした場合、私が完全な管理的制御を引き継ぐことができます。私はあなたのために戦い、魔法の構造物を作り出し、敵の弱点をリアルタイムで分析し、戦略的計画を実行することができます。私はあなたの共同操縦者です」
京也の液体のコアは楽しさで膨張した。「おお、本当か? 何でも? じゃあ、親切心を使ってその新しい全能性で今すぐ俺を人間に戻してくれ」
「馬鹿」ノヴァは即座に撃ち返した。「私は管理的な精霊であって、奇跡を起こす者ではありません。あなたにはまだ適切な生物学的テンプレートと高位の進化トリガーが必要です。さあ、怠けるのを止めて、周囲の警備を始めなさい」
「わかった、わかった」京也はくすくす笑った。
ノヴァの助けを借りて、彼は周囲を武器化し始めた。【糸操作】と【酸分泌】を駆使して、京也は狭い洞窟入り口に一連の複雑な仕掛け罠を構築した。もし中低ランクのモンスターがその網に引っかかれば、酸が頭上にある巨大な鍾乳石の基部を溶かし、鉄のように硬い石のトン単位の雨を降らせ、同時に地面はミノタウロスから採取した有毒な胆汁で覆われるだろう。
彼は深淵を自分の個人用バンカーに変えつつあった。
◆
場所:辺境王国フロンティエラ
聖都の巨大な鉄の門がきしんで開き、エリート聖騎士に護られた優雅な馬車が通過した。
馬車の中、浅野詩織は窓から過ぎゆく景色を見つめていた。フロンティエラのギザギザした雪をかぶった峰々は、ゆっくりと起伏のある緑の平原に変わっていった。彼女の隣にはゆあとめいが座り、新たに変異した元素の特徴が、通り過ぎる庶民の視線を集めていた。向かいには和良、翔太、佳志が座り、全員ギルド支給の高級革鎧を身にまとっていた。
彼らは過去2週間、低レベルのダンジョンをひたすら周回し、魔法に急速に適応してきた。Sレベルの究極スキルのおかげで、冒険者ギルドは彼らのステータスを早急に昇格させた。彼らはすでにランクAの冒険者であり、新参者としては伝説的な偉業だった。
「この世界の地政学は驚くほど論理的だ」和良が革張りの地図に指をなぞりながら言った。「どの人間国家も互いに戦争をしていない。フロンティエラ、サンダーランド、ヴァエロリア…彼らは完全に経済貿易と、魔王軍に対する封じ込め線の維持に集中している」
「つまり木谷くんたちは間違いなくサンダーランドにいるってことね」詩織は鋭い黒い目で言った。「一番激しい戦闘が行われている場所よ。クラスを団結させたいなら、そこから始めるべき」
「そして、あなたたちは一人で旅をするわけではありません」馬車の隅から柔らかく安心させるような声が加わった。
佳志の隣に座っていたのは、高等教会の純白と金のローブをまとった若い女性だった。彼女は長い編み込みのブロンドの髪と、印象的なエメラルドの瞳を持っていた。彼女の名前はイヴリン・ヴァンス、フロンティエラの聖女だった。詩織の前線グループには専属のヒーラーが不足していたため、教会は聖女自身を英雄たちに同行させることにした。
「工業地帯の国境への旅は危険です、英雄たちよ」イヴリンは頭を少し下げて言った。「前線の悪魔たちは普通の獣のように戦いません。彼らは戦術的知性を持っています。しかし、私の高位回復魔法とあなたたちの最高級の賜物があれば、我々は勝利するでしょう」
詩織は礼儀正しく、距離を置いたうなずきを返した。「ご支援に感謝します、イヴリン様。私たちを生かしておいてください。破壊は私たちが引き受けます」
◆
場所:南部前線 サンダーランド
ドォーン! ドォーン! ドォーン!
サンダーランドの泥だらけの塹壕の上の空は、砲撃によって引き裂かれていた。ヴァエロリアの中世ファンタジーやフロンティエラの聖なる魔法とは異なり、この戦場は初期産業戦争の地獄の光景だった。数千のサンダーランド兵士が後方に立ち、顔は煤で覆われ、重く粗雑なボルトアクションライフルから次々と斉射を放ち、押し寄せる悪魔の大群に撃ち込んでいた。
しかし彼らの銃弾は、より高位の悪魔たちの装甲された皮膚にかすり傷をつけるのがやっとだった。
「前線を守れ! 砲兵を守れ!」軍事司令官が叫び、サーベルを抜くと、炎を吐く小鬼の波が塹壕を突破した。
後方の塹壕から、土嚢の掩蔽壕の上に立って、黒川零司は完全に動かずに立っていた。彼は無傷の黒いスーツをまとい、周りに飛び散る泥や血には全く動じなかった。彼の手には、巨大で流線型の狙撃銃――【武器生成(レベルA)】を使って具現化した武器を構えていた。
高性能なスコープを通して、零司の灰色の目は混沌とした戦場をスキャンし、下級兵士たちを飛ばして、遠くの丘の上に立ち、大群を指揮するそびえ立つ四本腕の悪魔司令官にロックオンした。
零司はゆっくりと深く息を吸った。暴力的で輝く紫色の魔法陣がライフルの銃口の真正面に物質化し、銃身の周りの空気は濃密な闇マナの純粋な密度で歪んだ。
彼は呪文をささやき始めた。その声は冷たく、人間の感情を欠いていた:
「我が息は遅くなり、世界は色褪せ、深淵が我が部屋の中に開く。千ヤードの彼方から、お前の運命は既に定まった。魂にクロスヘア、光は影となる…【オメガトリガー・絶対死】!」
ドグォォォン――!
ライフルの音が響いたのは、銃弾がすでに空を引き裂いた後だった。マナを込めた弾丸は極超音速で飛翔し、戦場の重いスモッグを物理的なトンネルに引き裂いた。
千ヤードの彼方で、悪魔司令官は首を向ける時間さえなかった。弾丸はその両目の間に正確に命中した。Sレベルの究極スキルは頭蓋骨を貫通しただけではなかった。それは闇エネルギーの局所的な内破を引き起こし、司令官の上半身を完全に蒸発させ、黒い灰の雲だけを残した。
周囲の悪魔たちは凍りついた。リーダーが一瞬で存在から消去されるのを見て、彼らの士気は瞬時に打ち砕かれた。恐怖の金切り声とともに、悪魔の大群は荒地へと必死で無秩序な退却を始めた。
「神々よ…」サンダーランドの軍事司令官は息を呑み、双眼鏡で遠くの空っぽの丘を見つめながらサーベルを落とした。彼は絶対的な畏敬の念を込めて零司を見た。「召喚された英雄たち…彼らは人間の中を歩く神だ。この力があれば…彼らは実際にアウトランドに進軍し、魔王を殺すことができる。戦争はついに終わるかもしれない!」
泥だらけの塹壕で、木谷大翔は倒れたゴブリン悪魔の死体から剣を引き抜いた。彼は手の甲で頬の黒く悪臭のする血の筋を拭い、そのハンサムな顔は深く陰鬱なしかめ面に歪んだ。
彼は誇らしげには見えなかった。疲れ果てて見えた。
「おい、友よ」霧島健人が空から浮かびながら降りてきて嘲笑した。彼の紫と白の髪は煙のように漂っていた。「またぼんやりしてる。ただのゴブリンだろ。まさか今になって怖気づいたとか言うなよ?」
「うるさい、健人」木谷は呟き、剣を鞘に納めた。彼は荒廃した風景、叫ぶ負傷者、息苦しい黒いスモッグを見回した。「俺はこれを頼んだわけじゃない。指揮官になるのを頼んだわけじゃない。ただ卒業して、普通の仕事に就いて、普通の人間の人生を生きたかっただけだ」
「まあ、その人生は消えたな」ケンジ・ロペスは唸り、土魔法で巨大な石の障壁を泥の中に叩きつけ、塹壕の周囲を確保した。「俺たちは今や武器だ、木谷。早く悪魔の軍を壊せば、それだけ早く帰る方法が見つかる」
市ヶ上優斗が歩いてきて、銀色のダイヤモンドの目を怠惰に瞬かせ、白い髪を整えた。「マジで、これは退屈になってきた。下級兵士はもう良い経験値もくれない。日本に帰ってテレビゲームがしたい」
木谷は長く重いため息をつき、サンダーランドの bruised な灰色の空を見上げた。
「分かってる」木谷はささやいた。手は剣の柄に置いたまま、彼の【リーダーシップ】スキルが胸の中で静かに唸っていた。「分かってる。でも、残りのクラスを見つけるまでは…前に進み続ける。どんなに時間がかかっても」
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