第7話:狂気の君主と落ちゆく天
アウトランドの未踏領域の奥深く、世界の地表からはるか下に、深淵の玉座の間があった。想像を絶する規模の洞窟で、磨かれた黒曜石のそびえ立つ柱によって支えられていた。自然光はなかったが、部屋は玉座自体から放たれる不吉な血紅色の光に包まれていた。
その上に絶対的な支配力をもって座していたのは、部屋の空気そのものを絶望で重くする女性だった。
彼女はソフィア・ヴァイルブラッド。地上の大陸の人間たちは、恐ろしい伝説を通してのみ彼女を知り、狂える君主、あるいは血に染まった魔王と呼んでいた。彼らにとって、彼女は神話的な災厄であり、サンダーランドを荒廃させる終わりなき戦争の原因である古代の邪悪だった。彼女の真の名を知る mortal はいなかった。
彼女の深紅の裏地のついたマントは、新たに流された血の川のように足元に広がり、信じられないほど青白く完璧な肌と鮮やかなコントラストをなしていた。彼女は真夜中の黒いレザーコルセットを身にまとい、それはシームレスに優雅で流れるような深紅のドレスへと溶け込んでいた。それは恐ろしいほどに美しい majesty だった。彼女の長い髪は印象的なデュアルトーンで背中に流れていた。外側は純粋な深淵の黒、その下には鮮やかな血の赤いレイヤーが隠されていた。
普段、彼女の目は深く突き刺すような紫だった。しかし今、彼女は肘を膝に乗せて身を乗り出しながら、その目は鮮やかなネオン赤に輝いていた。
彼女は完全に魅了されていた。
彼女の前の空中に浮かんでいたのは、闇の魔法の巨大な半透明のスクリーンだった。それは100階層の生の透視映像を表示していた。具体的には、洞窟の床を必死に滑る小さな濃い紫のスライムにズームインしていた。
高位の男性悪魔が影から出てきた。彼は古典的な人間スタイルの執事のテールコートを完璧に着こなしていたが、後ろに撫で付けた髪から突き出た歪んだ悪魔の角が彼の真の性質を露わにしていた。彼は暗いワインのゴブレットを載せた銀の盆を抱えていた。
「お嬢様」執事は滑らかな絹のような声で話した。「サンダーランドの前衛部隊が新しい命令を要求しています。人間の軍隊は新しい装甲艦を配備しました」
ソフィアは瞬きさえしなかった。彼女のネオン赤の目は透視スクリーンに張り付いたままだった。邪悪で恍惚とした笑みが彼女の青白い顔に広がり、わずかに伸びた犬歯を露わにした。
「何世紀もの間、私はこの玉座に座り、この stagnant な世界の絶対的な退屈に溺れてきた」ソフィアはささやいた。その声は官能的で危険な喉を鳴らすような声で、広大なホールに反響した。「教会の英雄たちはいつも同じだ。傲慢で、予測可能で、脆弱だ。しかし、この…この小さな異常は…」
執事は彼女の視線をスクリーンに追い、スライムを見つめた。「何時間も君主としての義務を怠ってランクDの存在を観察されています、お嬢様。本当にそれほど興味深いのですか?」
「興味深い?」ソフィアは息も絶え絶えの狂気の笑いを漏らした。「それは陶酔的だ。見ていなさい、セバスチャン。女神のゴミが、真の悪夢と対峙しようとしている」
◆
場所:アウトランド 100階層
ドスン。ドスン。ドスン。
洞窟の床が振動していた。局所的な地震ではない。それは、高速で移動する何か巨大なものの、リズミカルで恐ろしい足音だった。
京也は揺れるのを止め、液体の体を冷たい石にべったりと押し付けた。「AI」彼は思考を投影した。ゼラチン質のコアに完全に人間的なパニックの塊が形成されていた。「あれがただの落石だと言ってくれ」
「否定」AIは彼の頭の中ではっきりとしたデジタルな声で響いた。「ソナーフィードバックは、Sクラスの存在があなたの正確な座標に接近していることを示しています。到着予想時間:14秒」
「吸収できるか?」京也は必死に尋ねた。「レベルアップしたばかりだ。ステータスも上がった。多分、食えるんじゃないか?」
「故意に私たちを殺そうとしているのですか?」AIは鋭く言った。「その運動エネルギーのみで細胞膜が破裂します。質量はあなたの吸収容量の50倍です。それを食べようとすれば、水風船のように破裂します」
「逃げる?」
「通常の逃走による回避確率:50%。その選択肢は即死です」
「その確率は嫌だ」京也は考えた。超加速された彼の脳がオーバードライブに入った。
彼の視覚は完全に適応していた。もはや手動で【暗視】を起動する必要はなかった。彼の新しい生物学的構造は、晴れた午後のように明瞭に闇を知覚した。彼の360度パノラマ視野が巨大な洞窟を掃引した。
爆発物が必要だ。石炭が必要だ。
「何もない」京也は心の中でシューッと吐き出した。「ただの普通の石英と岩だけだ」
「訂正」AIが割って入り、小さなナビゲーションウェイポイントを彼の視野に投影した。「3時の方向、45メートルのところにある石英鉱床に、高濃度の火水晶の塊が埋まっています」
京也は躊躇しなかった。彼は前方に飛び出した。スライムとしてジャンプすることは耐え難いほど遅く、空中で無防備になるため、彼は【柔軟な体】を利用した。自分を長く細い粘性のある線に伸ばし、ダンジョン床の最も狭い隙間や割れ目を素早く這い抜け、荒れた地形を完全にバイパスした。
背後からの音は、恐ろしいカチカチという轟きに増幅された。
振り返らなくても、それがSクラスのクモ形類であると分かった――ミノタウロスに毒を盛ったまさにそのモンスターだ。空気は毒と腐った肉の悪臭で重くなった。
「水晶のところに着いた!」京也は宣言し、光る赤い鉱物の近くで水たまりに再形成した。「で、どうする? 今回は火花を起こす黄鉄鉱がないぞ!」
「火花は必要ありません」AIは瞬時に計算した。「火水晶は非常に揮発性が高い。十分な運動エネルギーの衝撃がその封鎖格子を粉砕し、爆発を引き起こします。クモ形類自身の質量と速度を雷管として使わなければなりません」
「つまり、おとりをしろってことか⁈」京也は内部で叫んだ。「君はいつも俺に最も困難で自殺的な動きをさせるんだな!」
「あなたが私が扱える唯一の変数であるなら仕方ありません」AIは完璧に言い返した。「衝撃に備えなさい。5秒」
京也は自分を円盤状に平たくし、巨大な火水晶の塊の真正面に身を置いた。
闇の中から、Sクラスのクモ形類が飛びかかった。それは二階建ての家ほどの大きさで、8本の刃のような脚が石に深い溝を刻んでいた。その複数の目は、自分の食事を盗んだ小さな濃い紫のスライムにロックオンした。耳をつんざくようなシューという音を発し、毒の滴る巨大な大顎を開き、京也に向かって一直線に飛びかかった。
3。
2。
1。
「跳べ!」
京也は内部の流体圧力を操作し、コアを絶対限界まで圧縮し、それを巻きバネのように解放した。彼のスライムの体は目まいのするような速度で垂直に空中に打ち上げられ、モンスターのパチンと噛み合う顎をかわした。
その巨大な勢いを止められず、クモ形類は頭から洞窟の壁に激突した。
火水晶に直接だ。
ドォォン!
爆発は壊滅的だった。この100階層では、空中の周囲マナ密度が非常に高く、火水晶はただ爆発するだけでなく、局所的な魔法反応を連鎖させた。轟く深紅の炎の巨大な柱が洞窟の壁を飲み込み、クモ形類を局所的な地獄に飲み込んだ。衝撃波が空中の京也の体を後方に吹き飛ばし、遠くの石筍にぶちまけた。
【システム分析:対象「Sクラスアビサルアラクニド」は高位火魔法に対して深刻な弱点を有しています】
京也は岩から体を剥がし、形を再形成した。「ははは! やったぞ!」
「まだ祝うな、馬鹿」AIは警告した。いつもの皮肉は完全に消えていた。「見ろ」
煙と炎が晴れていく中、恐ろしいシルエットが現れた。クモ形類はひどく焦げていた。刃のような脚のうち2本は完全に吹き飛ばされ、甲羅にはひびが入り、酸性の緑色の血をにじませていた。しかしその複数の目は、猛烈な殺意に燃えていた。
【対象:Sクラスアビサルアラクニド】
【状態:激昂】
【HP:28,000 / 42,000(33%損失)】
「三分の一だけ⁈」京也はパニックになった。「至近距離のマナ爆発を生き延びたのか⁈」
「Sクラスですから」AIは彼に思い出させた。「その物理防御パラメータは非常識です。爆発物は使い果たしました。回避行動のみが…」
「いや」京也は彼女の言葉を遮った。
初めて、京也の【INT:∞】は単にAIのプロンプトに従っているだけではなかった。純粋な絶望によって研ぎ澄まされた彼自身の潜在的な天才が主導権を握った。彼のパノラマ視野が環境をスキャンした。彼はクモ形類のひび割れた甲羅に気づいた。頭上にある洞窟天井の構造的完全性に気づいた。そして、周囲に散らばる巨大な鉄のように硬い石筍に気づいた。
「AI、全てのマナを【吸収】と【サイズ変更】に回せ」
京也は床から突き出た巨大な槍のような石筍の上に這い上がった。彼は同時にスキルを起動した。硬い石を急速に体内に吸収したが、消化する代わりに、生のギザギザした岩を粘性のあるコアの中に保持した。
クモ形類は金切り声を上げて突進してきた。
京也は質量を膨張させ、次に激しく収縮させ、柔軟なスライムの体を高圧空気圧式の大砲のように使った。
バシッ! バシッ!
吸収した石の破片を弾丸のような速度で発射した。数発がクモ形類のひび割れた甲羅に当たり、その下の柔らかい肉に沈み込んだ。モンスターは痛みでシューッと鳴き、突進の速度を落としたが、殺すには十分ではなかった。
「あれは試し撃ちだ」京也は冷たく考えた。
次の斉射はモンスターに向けなかった。真上を狙った。
京也は数十発の重くギザギザした石の弾丸を、クモ形類の頭上にある洞窟天井に直接発射した。先ほどの爆発の衝撃波がすでに洞窟天井の構造的完全性を損なっていた。京也の石の弾丸は、彼の無限の知性が計算した正確な応力点に命中した。
ガゴンッ。
クモ形類が見上げた、まさにその時、天井全体が崩れ落ちた。
数百トンもの巨大で剃刀のように鋭い鍾乳石が、神の処刑の雨のように暗闇から落下した。
モンスターは叫ぶ間もなかった。落下する岩の山が、終末的な力でクモ形類に激突し、その外骨格を押し潰し、その重要な臓器を串刺しにし、容赦ない石の山の下に埋めた。
洞窟は激しく揺れ、巨大な塵の雲が京也の上に押し寄せた。
100階層に静寂が訪れた。
青いシステムウィンドウの一陣の嵐が京也の心の中で噴出した。
【対象を撃破:Sクラスアビサルアラクニド】
【多大な経験値差を検知。計算中…】
【レベルアップ:21 → 45】
【スキル獲得:酸分泌(レベルB)】
【スキル獲得:糸操作(レベルC)】
京也はゼリーの体を床に投げ出し、精神的に疲労困憊していたが、完全に無傷だった。
長い間、彼の頭の中のAIは完全に沈黙していた。そして、彼女は静かに話した。
「私…計算を誤りました」
「何が?」京也は弱々しく尋ねた。
「私はあなたの歴史に基づいてあなたの心理的プロファイルを評価しました」AIは認めた。その口調には以前のような見下しは一切欠けていた。「あなたは怠け者でした。あなたは前の人生で、野心、意欲、戦術的先動手順をまったく示しませんでした。私はあなたがここでパニックに陥って死ぬ確率を99%と計算しました」
京也は心の中でくすくす笑った。「俺がそこまで無能だったから怠けてたわけじゃないんだ、AI。退屈だったから怠けてたんだ。頑張っても意味がなかった」
「承知しました」AIは答えた。「行動モデルを更新します。あなたは…命がかかっているときには驚くほど有能ですね、草薙」
京也は奇妙な誇りを感じた。ランクDのスライムとしてSクラスのモンスターを倒したのだ。
彼らのはるか上で、透視スクリーンの後ろに安全に隠れて、ソフィア・ヴァイルブラッドは頭を後ろに投げ出し、純粋な喜びの豊かで反響する笑い声を上げた。彼女のネオン赤の目は、小さな暗いスライムに完全に夢中になっていた。
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