第5話:最下位ランクと前衛の炎
意識は一度に戻ってこなかった。ひび割れた基礎から染み込む冷たい水のように、少しずつ戻ってきた。
痛みはなかった。京也の切断された腕の耐え難いリズミカルな痛みは完全に消え去っていた。息苦しい熱もなかった。深淵の冷たくギザギザした岩の代わりに、彼は奇妙で限りない柔らかさを感じた。地面に横たわっているというより、自分が地面であるように感じた。
その時、彼の心の暗い空虚の中で声が反響した。それは標準的なカスケディアシステムの冷たくロボット的なテキストではなかった。人間的に聞こえた。女性的で、鋭く、そして間違いなく乾いた皮肉のトーンが込められていた。
「遺伝子の上書き完了。宿主の正気が無事である確率を計算中…エラー。宿主は元々問題ありでした。ステータス更新を続行します」
京也は目を開けようとしたが、まぶたがないことにすぐに気づいた。ただ…見えた。彼の視界は、暗く煙った洞窟の360度パノラマビューだった。
「宿主の受動的知性【INT:∞】は、ローカルのシステムアーキテクチャと統合されました」声が彼の頭の中で続いた。「おめでとう。私はあなたの新たに進化した認知AIです。後で感謝しても構いません。今は、あなたの哀れな新しいパラメータを確認してください」
洗練された再設計された青いインターフェースが彼の心の中に投影された。
【ステータス】
名前:草薙京也
種族:スライム
レベル:9
HP:15 | SP:30 | MP:30
STR:10 | AGI:50
INT:∞(統合型AI)
【新規スキル獲得】
【吸収】(レベルC):有機物・無機物を摂取して質量を維持できる。
【サイズ変更】(レベルC):液体の体積を圧縮・拡張できる。
【柔軟な体】(レベルC):打撃耐性無効。刺突ダメージ軽減。
【水中呼吸】(レベルC):液体生物であるため酸素不要。
【変身】(レベルC):吸収した存在の形態を模倣できる(十分なバイオマスが必要)。
スライム。京也は心の中でため息をつき、ゼラチン質の濃い紫の体が洞窟の床でわずかに揺れた。
「おい、AI」彼は内側に向かって思考を投影した。「何が起こったんだ? ランクBの爬虫類型の狼みたいなやつを食べた。立派な頂点捕食者になる準備はできてたのに。なんでゼリーの塊なんだ?」
「あなたはレベル1で、濡れたペーパータオル並みの身体能力でしたから」AIは見下すような口調で答えた。「もし私があなたをランクBの頂点捕食者に変えさせていたら、あなたの細胞構造は激しく崩壊し、赤い霧になって爆発していたでしょう。私は、あなたの魂が実際に固定できる遺伝子配列を見つけるためにバイオマスを最適化しました。ランクDのスライムだけが実行可能な器でした」
京也は前にふらついた。足がないので、内部の質量を移動させることで自身を推進し、濃く粘性のあるインクの滴のように土の上を滑らなければならなかった。信じられないほど奇妙な感覚だったが、間違いなく解放感があった。
「まあ」京也は心の中で肩をすくめた。「スライムが転生して最強になるっていうマンガはたくさん読んできた。ただ物を吸収して、村を建てて、魔王になればいいんだろ?」
「否定」AIは嘲った。「SSSクラスのデスゾーンに、地球のフィクション文学を適用するのはお控えください。あなたはアウトランドの100階層にいるランクDのスライムです。この下のものは、単に強く踏むだけであなたを殺せます。あなたの『マンガ』の論理では、蒸発しますよ」
京也は揺れるのを止めた。AIの言う通りだった。彼は世界で最も危険な場所の食物連鎖の最下層にいた。しかし、より暗く、より必死な疑問が彼の心に残っていた。
「戻る方法はあるのか? もう一度人間になることは?」
AIは数ミリ秒間沈黙し、何十億もの計算を処理した。「確率は非常に低いです。しかし…不可能ではありません。十分な高ランクのスキルを獲得し、ランクAを超えてレベルアップし、適合する人型の器を吸収すれば、理論上は【変身】を使って人間の形態を構築できます」
純粋で絶対的な安堵が、京也の液体の核を洗い流した。まだチャンスはあった。今は世界の底に閉じ込められた濃い紫のスライムの塊だが、しかし生きている。そして這ってトップに戻るつもりだった。
◆
場所:東方大陸 サンダーランド
サンダーランドの上の空は、永遠の bruised な灰色だった。弾薬工場のそびえ立つ煙突からは太い黒煙が噴出し、巨大な軍事キャンプの上に垂れこめる息苦しいスモッグを作り出していた。
重く要塞化された作戦テントの中では、マナ駆動の発電機の唸りが床板を震わせていた。
「北部のフロンティエラ国は、吹雪と聖女たちの後ろに隠れている」傷跡のある軍将校が、テーブルの上の広大な地図を手で叩いた。「彼らは本当の戦争を知らない。そこの悪魔は人間の皮をかぶって教会に潜入していると主張している。だがここは? サンダーランドでは? これは、開かれた血みどろの戦争だ」
木谷大翔はテーブルの先頭に立ち、長方形の眼鏡を押し上げた。クラスメイトとは異なり、木谷は女神の祝福によって身体的に変化していなかった。彼は鋭いハンサムな特徴とネイビーブルーの髪を保っていた。しかし彼から放たれるオーラは重く、息苦しいほどに強力だった。
彼のランクはAだったので、システムのプライバシーブロックを通過して、背後に立つ五人の変身したモンスターの真の名前を見ることができた。彼らは彼の最も親しい友人であり、今や大量破壊兵器へと作り変えられていた。
「魔王の軍は毎日我々の装甲艦に押し寄せている」将校は続け、地図上の赤いゾーンを指さした。「しかし魔王自身は? 彼らは一世紀もの間、前線に現れていない。彼らはアウトランド――中央の海にある未踏の島から統治している。400年以上の古代の存在だ。教会がアウトランドに送った英雄は皆、死んでいる。戻ってきた者はいない」
木谷は厳しくうなずいた。「賭け金は理解しています、司令官。我々が前線を守ります」
将校が敬礼してテントを出ると、木谷は自分の分隊に向き直った。彼らはもう高校生には見えなかった。
夏樹太陽は金属の柱にもたれかかっていた。彼の髪は二分割され、燃えるような深紅と深い海の青のギザギザした混合物だった。赤い目は、かろうじて抑えられた熱エネルギーで輝いていた。
【夏樹太陽 - ランクB】
究極:双晶の黒曜竜(S)
スキル:結晶雪崩(A)、氷魔法(A)、火魔法(A)、溶岩体(B)
彼の隣には、市ヶ上優斗がいた。彼の髪は純粋なまぶしい白で、一本のアホ毛が立っていた――京也がかつていたものとは皮肉な対照だった。優斗の銀色のダイヤモンドの目は、ほとんど神聖なエネルギーを放射していた。
【市ヶ上優斗 - ランクB】
究極:審判の光(S)
スキル:高位光魔法(A)
隅で拳を鳴らしていたのは、ケンジ・ロペスだった。彼はティーンエイジャーというよりはレンガの壁のように見え、褐色の髪のたくましい筋肉質で、知覚できない無地の茶色い目をしていた。
【ケンジ・ロペス - ランクB】
究極:生ける要塞・エデン(S)
スキル:土魔法(A)、石化茨(B)
テーブルに座って、巨大なマナを込めた狙撃銃を念入りに掃除していたのは、黒川零司だった。シャープな黒いスーツを着て、黒い髪と灰色の目は、英雄というよりも企業の暗殺者のような外見を与えていた。
【黒川零司 - ランクB】
究極:オメガトリガー・絶対死(S)
スキル:無限バースト(A)、武器生成・銃(A)、アイテムボックス(A)
最後に、地面から数インチ浮いて、霧島健人がいた。彼の紫と白の髪は煙のように漂い、紫の瞳は闇の魔法で渦巻いていた。
【霧島健人 - ランクB】
究極:死の爆発(S)
スキル:影魔法(A)、暗黒火(B)
木谷は全員を見渡した。彼自身の究極スキル、【リーダーシップ(レベルS)】が胸の中で静かに脈打っていた。彼らがパーティーを組んでいる限り、木谷の存在は全てのステータスを――そして彼自身のものも――10倍に受動的に増幅した。彼らは止められない戦術ユニットだった。
「聞いてくれ、皆」木谷は言った。その声は生まれつきの指揮官の自然な重みを帯びていた。「俺たちはサンダーランドのために戦う。レベルアップする。でも、第二の目的がある」
太陽が見上げると、小さな炎が彼のナックルを舐めていた。「何だ、木谷?」
「召喚されたのは俺たちだけじゃない」木谷は断言した。「詩織、ゆあ、めい、達也…そして草薙さえも。彼らはどこかにいる。この世界で1年A組がバラバラになるのを俺は許さない。力を付けていくんだ。そして、残りのクラスメイトを見つけるんだ」
零司はピストルをホルスターに納め、灰色の目を木谷に固定した。「草薙みたいな奴が、こんな場所で一週間生き残ったと思うのか? あいつは怠け者だ。一日目に低レベルのゴブリンに食われたんだろ」
「関係ない」木谷は眼鏡を調整した。「生きていれば、見つける。死んでいれば…復讐する。俺たちは団結する。分かったな?」
「分かった!」五人の少年が一斉に答えた。
◆
場所:西方大陸 ヴァエロリア王国
遠く離れて、危険な海を越え、サンダーランドのスモッグの届かない彼方で、伝統的な中世の王国ヴァエロリアは神聖な光の中にあった。
王城の奥深く、豪華なベルベットのソファに座って、湊達也は幻のマナで構築されたコントローラーのボタンを猛烈に叩いていた。彼はまだ大きなパーカを着ており、ボサボサの髪の下には灰色の隈が目立っていた。
隣の部屋で開かれている王の宴会など気にしない。木谷のチームワークに関する壮大なスピーチなど気にしない。そしてクラスの残りを見つけることなど、もちろん気にしない。
「バカども」達也は独り言ち、システムインターフェースに目を釘付けにした。「これはチームゲームじゃない。ソロのサバイバルホラーだ。そして俺はメタをぶっ壊す」
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