第33話:Sランクの到達点と蜘蛛の応接間
場所:フロンティエラ王国 シーニスの空洞迷宮 地上入り口
シーニスの空洞の巨大な石の扉がきしんで開き、湿った古代の空気の一吹きを午後の日差しの中に吐き出した。
抑圧的な暗闇から足を踏み出したのは、東方前衛だった。彼らの鎧は擦り傷だらけで、外套はモンスターの血と迷宮の汚れで染まっていたが、その姿勢は間違いなく勝利に満ちていた。詩織が先頭に立ち、彼女の銀のレイピアは腰に安全に納められていた。その後ろにはゆあ、めい、和良、翔太、佳志、そして聖女イヴリンが続いた。
彼らは成し遂げた。彼らは35階層を突破した――フロンティエラの記録された歴史の中で、地元の人間の冒険者が到達したことのない深さだった。
詩織はシステムの表示を呼び出し、その目でパーティーの全体データを確認した。
【システム状態:東方前衛】
平均パーティーレベル:150
推定ランク相当:S級基礎能力値
現在の魔力残量:34%
究極能力状態:封印中(重度の身体的・精神的反動ペナルティを防ぐため)
「36階層への階段を発見した」詩織は発表した。その声は簡潔だが、稀な満足感の片鱗を帯びていた。「しかし、未踏の迷宮で魔力が三十五%を下回るのは死を意味する。今日は休息し、補給し、明日再び進む」
「レベル150…」翔太は息を呑み、拳を握りしめた。彼の血管を流れる生の身体能力は陶酔的だった。「俺たちは技術的にはもうSランクだ。究極能力がなくても。もし別の悪魔司令官と遭遇しても、無力ではない」
「傲慢になるな」佳志は眼鏡を直し、その口調は完全に平坦だった。「基礎能力値は単なる土台に過ぎない。しかし我々は前進している」
一行はシーニスの冒険者ギルドへ向かい、その潜行を報告した。ティーンエイジャーたちが入ってきた瞬間、巨大な木造の広間は完全な静寂に包まれた。地元の冒険者たち、鋼鉄と革鎧を身に着けた歴戦の傭兵たちは、海が裂けるように道を開けた。詩織は casual に三つの重く輝く階層制覇の証明石を受付係の机に置いた――35階層が攻略された絶対的な証拠だった。
畏敬のささやきがギルドに広がった。地元の人々は召喚された英雄たちに驚嘆し、その一見無限の魔法の力を idolizing した。彼らは、英雄たちの真の世界を揺るがす力――彼らの究極能力――が恐ろしい生命を脅かす身体的・精神的ペナルティを伴うことを全く知らなかった。地元の人々にとって、ティーンエイジャーたちは単に触れることのできない戦争の神だった。
重い金貨の袋を持ってギルドを出ると、前衛は宿への長い帰路を歩き始めた。シーニスの空気は身を切るように冷たかった。東方大陸メリディアーナは西方大陸クレストヘイヴンよりも指数関数的に大きく、はるかに敵対的だった。フロンティエラと隣接するサンダーランド国は、どの西方王国の少なくとも三倍の大きさで、危険な山脈と厳しい吹雪が支配していた。
「サンダーランドの国境を越えるのが待ちきれないわ」ゆあは震え、外套を引き寄せた。「図書館で蒸気機関車があるって読んだの。もう凍えるような木製の馬車に乗らなくていいのよ!」
詩織はぼんやりとうなずき、ダンジョンのアドレナリンがついに切れ、精神的疲労の重い毛布を残した。彼女は歩調を緩め、聖女イヴリンの隣に並んだ。金髪の聖職者は青白く見え、彼女の呼吸は防御的な強化効果を維持し続けることで少し浅くなっていた。
「聖女」詩織は優しく言った。「私のペースがあなたにはあまりに過酷ではないか心配です。あなたは私たちを生かすために常に聖なる魔力を消耗しています」
イヴリンは驚いたように見え、そして温かく本物の笑みが彼女の顔に広がった。彼女は優しく首を振った。「私のことはどうか心配しないでください、詩織様。召喚される前、私の人生は大聖堂の大理石の壁の中に閉じ込められていました。今は、恐ろしいモンスターと絶え間ない危険にもかかわらず…私は世界を見ています。忘れられない経験をしています。そして最も重要なことに、私は真の友人を得ました」
詩織の目がわずかに見開かれた。かすかで完全に特徴的でない紅潮が彼女の頬を染め、彼女はすぐに視線をそらしたが、小さな笑みが彼女の唇に浮かんだ。「私…そうですか。それを聞いて嬉しいです、イヴリン」
数歩後ろで、全く異なる会話が行われていた。
「おい、翔太」和良はささやき、肘で翔太をつついた。「金がある。暇がある。俺が考えていることと同じことを考えているか?」
翔太の目は即座に理解の輝きで光った。「商人地区の亜人メイド喫茶。ダンジョン潜行以来行ってないな」
詩織は精神的に疲れすぎていて彼らのささやきに気づかなかったが、すぐ横を歩いていたゆあとめいは、一言一句聞いていた。二人の少女は非常に楽しげでいたずらっぽい視線を交わし、完璧な瞬間を待つことに暗黙の同意をした。
「あの、詩織さん?」翔太は呼びかけ、信じられないほど説得力のない真面目な顔を作った。「和良と俺は…武器のための特別な注油を買いに行く必要があるんだ。宿で皆に追いつくよ」
詩織はこめかみを揉んだ。「わかった。夕方の戦術的見直しに遅れるなよ」
「遅れない!」和良は約束した。詩織が背を向けた瞬間、二人の少年は事実上脇道に全力疾走し、その疲労は奇跡的に消え去った。
彼らが聞こえない距離に出ると、ゆあはくすくすという笑い声を爆発させた。「注油? へえ、そうなの。詩織さん、彼らはまたあの亜人メイド喫茶に行って可愛い女の子を見に行くんですよ」
詩織は雪の通りの真ん中で立ち止まった。イヴリンの褒め言葉から来ていた温かく少し慌てたオーラは、一秒の何分の一で消え去った。前衛司令官の周囲の気温は氷点下をはるかに下回ったようだった。
「なるほど」詩織は言った。その声は恐ろしいほど冷静だった。「宿に戻りましょう。私たちは…彼らを待ちます」
◆
場所:シーニス市 「ふわふわ尻尾」喫茶店
ドアの上のベルが陽気に鳴った。店内の空気は温かく、甘い焼き菓子とバニラティーの香りがした。
「おかえりなさいませ、ご主人様!」
短い灰色の髪とピクピク動くふわふわの耳を持つ小柄な猫の亜人が彼らに跳ねるように駆け寄り、明るい太陽のような笑顔を向けた。翔太は即座に真っ赤になり、緊張して頬をかきながら席に案内された。
一方、和良は店内を見渡していた。突然、彼は肩を優しくつつかれた。振り返ると、美しい兎の亜人の少女が近くに寄り、彼の反応にくすくすと笑いながら長い耳を愛らしく垂らしていた。和良は驚いて悲鳴を上げた。
次の一時間、可愛い女の子たち、温かいお茶、そして陽気な会話に囲まれて、翔太と和良は完全に天国のようだった。アンデッドミノタウロスの恐怖と凍てつく迷宮の恐怖は、純粋で健全な癒しの波に洗い流された。
和良が壁の大きな時計を見るまでは。
「翔太」和良はささやき、その顔から完全に血の気が引いた。「戦術的見直しは十分前に始まってるはずだ」
翔太は茶碗をガチャンと落とした。「俺たちは死んだ」
◆
場所:前衛の宿
宿の部屋の重い木の扉がゆっくりときしんで開いた。和良と翔太は大量の汗をかきながら忍び込んだ。
中央の机に座って、その手を膝の上できちんと組んでいたのは詩織だった。彼女の目は閉じられ、微笑んでいた。それは二人の少年が見た中で最も恐ろしいものだった。
「あなたたちは正確に四分四十六秒遅刻したわ」詩織は述べた。その目がパッと開き、一切の温かみを欠いていた。「『注油』がふわふわ尻尾で売られているとは知らなかったわ。教えてくれ、なぜ苦労して手に入れた迷宮の資金を、可愛い女の子を見るためだけに浪費しているのか?」
「男の子って本当に単純ね、はっきり言って」めいはソファからからかい、お湯の入ったカップをすするとした。
「おい、佳志はやってないぞ!」翔太は弁護して反論し、隅で本を読んでいる眼鏡の少年を指さした。「あいつは男だ!」
「私は三次元の美学には興味がない」佳志はページから目を離さずに答えた。
翔太と和良は即座に佳志をにらみつけた。彼は俺たちが行くことを知っていた! きっと密告したんだ!
「佳志くんを見るな」詩織は鞭のように鋭い声で命じた。「彼は私に知らせなかった。しかし前衛の戦術家として、彼は手順違反を防ぐことに失敗した。彼は既に自分の罰を受け入れている。今度はあなたたちの番だ」
翔太と和良は恐怖で見下ろした。机の下、彼らの最初の視界の外で、佳志は完璧で耐え難い正座の姿勢で硬い木の床に跪いていた。彼の脚は明らかに震えていたが、その顔は完全に無感動のままであった。
「座れ」詩織は命じた。
敗北して、恐ろしい司令官に反抗する勇気を完全に失い、翔太と和良は硬い木の床に膝を落とし、佳志の隣で耐え難い正座の姿勢に入った。
「あなたたちの週ごとの金銭の割り当ては四十%減額する」詩織は宣言し、立ち上がった。「さらに、メイド喫茶はクラス全員が完全に再会するまで厳禁とする。戦術的見直しが終わるまで、その姿勢を保ち続けよ」
「はい、詩織さん」三人の少年は一斉にうめき、完全に自分の悲惨な運命を受け入れた。
◆
場所:サンダーランド国 トリトン港 政府迎賓館
大陸の何マイルも向こう、進んだ蒸気技術の都市トリトン港で、ケイン・アシュフォードは重く警備された邸宅の大理石の階段を上がった。彼は食料品の入った編み枝の籠を運び、深く苛立っていた。彼は大客間に入り、床に籠を落とし、都市の好色な貴族たちの餌として使われたことについてソフィアに大声で文句を言うつもりだった。
彼は重いオークの扉を開け、女性的な「アシュフォード」の persona の幻影を完璧に維持した。
「お嬢様、戻りました。そして申し上げねばなりません――」
ケインはその場で立ち止まった。
大客間は空ではなかった。ベルベットのソファに優雅に座り、繊細な磁器の茶碗を持っていたのは、三人の非常に裕福で高位のサンダーランドの貴族たちだった。その中には、先刻路地からケインを偵察していた太った宝石を身に着けた貴族もいた。
ソフィアは彼らの向かいに座り、歓迎する高社会の hostess の絶対的な姿だった。セバスチャンは彼女の後ろに忠実に立って茶を注ぎ、その悪魔の力の波動は完全に抑圧されていた。
「ああ、私の愛しいアシュフォード、戻ってきたのね」ソフィアは温かく微笑んだ。しかしその紫の目は紛れもない捕食者の輝きで輝いた。「絶好のタイミングね。さあ、来て、私たちの尊敬すべき客人たちに会いなさい。スターリング卿とその仲間たちが、首都の魅力的な政治構造についてちょうど話してくれていたところよ」
ケインは戸口に凍りついたように立った。彼は太った貴族を見た。その貴族は彼の女性的な姿を吐き気を催すほど貪欲な笑みで見つめていた。彼はソフィアを見た。ソフィアは単に腐敗を直接自分の応接間に招待することで、政府の自宅軟禁を巧みに回避していた。
彼女は市場で俺を餌として使っただけではなかった、とケインは悟った。彼の心は回転し、魔王の戦略の真の深さが明らかになった。彼女は俺を使って、都市の最も強力で情報に富んだ蜘蛛たちを直接彼女の網に引き込んだのだ。
ケインは編み枝の籠の持ち方を調整し、疲れたため息を抑えた。戦場は公式に、血に染まったアウトランドのダンジョンから、サンダーランドのベルベット張りの応接間に移った。生き残りのための政治的な駆け引きが始まった。
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