第26話:影の脱出と鉄の巨獣
場所:ヴァレリウス首都 大聖堂の地下深く
深夜が首都を重く不穏な静寂で包んでいた。大聖堂のブラックストーンの牢獄の奥深くで、松明は弱く揺らめき、魔力を吸い取る大気と戦っていた。
ヴェイン将軍は天井から吊るされ、その巨体はルシウスの輝く対魔法の鎖によって支えられていた。彼の目は閉じられ、呼吸は浅かった。牢獄の絶対的な静寂は精神を壊すためのものだったが、ヴェインはただ待っていた。
突然、ヴェインのブーツの真下の暗闇の溜まりが波打ち始めた。それは揺らめく松明の光に逆らい、厚い黒いタールのように泡立った。
「遅かったな」ヴェインは呟いた。その声は乾いた疲れ果てた嗄れ声だった。彼は目を開けさえしなかった。
「あら、そんなに大げさにしないでよ、将軍」メロディアスで恐ろしく陽気な声が床から反響した。
巨大な骨の鎌の柄を握る青白い手が暗闇から現れた。クリムゾン・スカーレット、深淵の死神は、ヴェイン自身の影から優雅に現れた。彼女はゴシックドレスの埃を払い、その輝く深紅の目で抑圧的な牢獄をスキャンした。彼女は北の要塞での戦闘中にテレポートしたわけではなかった。彼女が空気を砕いた瞬間、彼女はシームレスに戦場の最も暗い地点――巨大な裏切り者自身の影に滑り込んでいたのだ。
「この鎖、本当に不気味ね」スカーレットは口をとがらせ、金色の聖なる鎖の輪の一つをつついた。対魔法のルーンがシューッと音を立てたが、スカーレットの深淵のエネルギーは、鎖が容易に抑圧できない純粋で濃縮された概念的な死だった。「シラスと私、教会の小さなペットに私たちのお気に入りの前衛を消されるわけにはいかないのよ。やるべきことはまだたくさんあるから」
彼女はだらりと手の中で魂刈りを回した。鋭く恐ろしいほど速い弧を描いて、彼女はヴェインの手首を吊るしていた鎖を打った。純粋な聖魔法と絶対的な死の概念化の衝突が、くぐもった衝撃波を引き起こした。壊れないはずの鎖は輝く塵に粉々に砕けた。
ヴェインは石の床に落ち、片膝で体を支えた。彼は生々しく水ぶくれになった手首を擦った。「要塞は失われた。君主の命令は?」
スカーレットの狂気の笑みは、はるかに深刻なものに変わった。「それが問題なの、ヴェイン。命令がないのよ」
ヴェインは顔を上げ、残りの目を細めた。「説明してくれ」
「魔王の存在が…消えたの」スカーレットはささやいた。その深紅の目は暗くなった。「数日前、アウトランドダンジョンの島から放たれていた絶対的な抑圧の力の波動が、世界的な登録から完全に消えたの。下級の悪魔たちはパニックに陥っている。君主がついに亡くなったと言う者もいる。彼女が単に元の領域に戻っただけだと言う者もいる」
ヴェインは凍りつき、その巨体の肩が緊張した。「戻った? しかし次元の門は…」
「私たちは皆、彼女が本当にこの世界に属していなかったことを知っていたわ、ヴェイン」スカーレットは遮った。その声はいつもの遊び心を完全に欠いていた。「彼女が何であれ、彼女はこの深淵から生まれた悪魔ではなかった」
ヴェインがこの啓示のあまりの大きさを処理する前に、牢獄の重い鉄の扉がきしんだ。素早い装甲の足音が廊下に反響し、息苦しい聖なる圧力の波動を伴っていた。
「ルシウス」ヴェインは唸り、持っていない武器に手を伸ばした。
「行く時よ」スカーレットはくすくす笑い、狂気のエネルギーが即座に戻った。彼女はヴェインの襟を掴み、その鎌が牢獄の空間構造に裂け目を裂いた。
一瞬後、鉄の扉は激しく蝶番から吹き飛ばされた。ルシウスが牢獄に足を踏み入れ、その天空の青い瞳が空間をスキャンした。彼の背後には、十二人の大聖堂衛兵が槍を構えて立っていた。
しかし彼らは遅すぎた。牢獄は空だった。ブラックストーンの床に残っていたのは、砕け散った神の金の破片だけだった。
「周囲を捜索しろ。首都を封鎖しろ」ルシウスは命じた。その声は無感情でぞっとするような平板さだった。「私は王冠に報告する」
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場所:王の間 ヴァレリウス城
一時間後、ヴァレリウスの大宮廷は大騒ぎだった。国王、王妃、公爵たち、そして高位枢機卿たちが、巨大な金箔の戦術テーブルの周りに立ち、ありえない報告を聞いていた。
ルシウスは中央に立ち、支配階級の集団的なパニックに全く動じていなかった。
部屋の中の全ての貴族と聖職者は真実を知っていた:ルシウスは到着した瞬間に中庭でヴェインを処刑すべきだった。その遅延は壊滅的な戦術的誤りだった。しかし公爵たちが汗をかき、国王が玉座を握りしめる中、誰も叱責の一言を口にしようとしなかった。選ばれし者に疑問を呈することは、女神カミヤ自身に疑問を呈することだったからだ。
国際教会内でルシウスに命令できる唯一の権威者、最高大枢機卿は、現在海を隔てた西方大陸に駐在していた。彼が戻るまで、ルシウスは恐ろしいほどの無制限の自治権で活動していた。
◆
場所:1階層の島 アウトランドダンジョン
人間の王国の政治的混乱から遠く離れて、未踏の島の上の夜気は、鍛冶屋の金槌のリズミカルな音で満たされていた。
温かくパチパチと燃えるキャンプファイヤーが砂浜を照らしていた。ソフィア・ヴァイルブラッドは滑らかな流木の上に優雅に座り、その顎を手のひらに乗せてケインが働くのを見ていた。暗い背広の十代の少年は動きのブレであり、【絶対強欲】を利用して原材料を直接彼の持ち物から精錬し、圧縮し、鍛造していた。
浜辺の静寂は、突然、非常に非悪魔的な音によって破られた。
グゥー。
ソフィアは硬直した。彼女は即座に足を組み、海の方へ視線をそらし、打ち寄せる波の音が自分の胃の裏切りの音を隠してくれることを必死に願った。
しばらくして、金槌の音が止んだ。ケインが歩いてきて、圧縮された鉄で鍛造された皿を手に持っていた。その上でジュージューと音を立てていたのは、分厚く完璧に焼かれたオークの肉の切り身で、彼が島のベリーとハーブから合成した風味豊かな香りのソースで艶やかに仕上げられていた。
「食べろ」ケインは言い、彼女の隣に座って皿を手渡した。
<宿主>ノヴァの声が彼の心の中で得意げに響いた。
<あなたは私に0.4秒で完全に栄養価が高く味を最適化したペーストを合成させることもできたのに。あなたは肉を焼くために火の熱を手動で調整するのに四十五分も費やした。あなたは自分の料理の腕前を誇示しようとしているのですか?>
黙れ、ノヴァ。それを紳士的というんだ、とケインは内部で言い返した。
彼は地球での孤立した十代の年月を料理によって生き延びてきた。寮の優しいおばさんが、安い肉の切り身を豪華な食事のように味わう方法を教えてくれた。彼は自分の心から誇りに思っている唯一のものをAIに取って代わらせるつもりはなかった。
ソフィアは湯気の立つ肉を見下ろした。彼女の紫の瞳は文字通り一瞬きらめいたが、彼女はすぐにそれを高慢な貴族的な鼻息で隠した。「私はこの物理的な器を維持するために栄養を必要とするわ。それで十分よ」
彼女は一口食べた。味が彼女の舌の上で爆発した。彼女はもう一言も発しなかったが、オークの肉が皿から消える速さが雄弁に物語っていた。
ケインは彼女が食べるのを見て、両手を後ろについて体を支えた。ゆっくりと、ソフィアのまぶたが重くなった。過去三日間の圧倒的な疲労が彼女に追いつき、彼女は横に倒れ、火の温もりに寄りかかって深い眠りに落ちた。
ケインはため息をついた。彼は立ち上がり、船の帆のために新しく織った麻のキャンバスの山のところへ歩いていった。彼は大きくて柔らかい部分を切り取り、眠る魔王の上に優しくかけ、彼女の肩の周りに包み込んだ。
彼は彼女の平和な顔を見つめた。前衛の図書館の歴史書は彼女を人類の最も不気味で血に飢えた悪夢として描いていた。しかし今彼女を見ると、ケインにはただのシステムの犠牲者に見えた。
【対象状態:存在ソフィア・ヴァイルブラッド】
【究極能力:不死】
【呪いの条件:永遠の孤独】
他の全ての者が枯れ果てていく中で永遠に生きること。それは彼がよく知りすぎている呪いだった。
◆
場所:1階層の島 夜明け
朝日の最初の光が地平線に昇ると、ソフィアは目を覚ました。彼女は重いキャンバスの毛布を肩から押しのけ、目を擦った。そして、海岸線の方を見て、息を呑んだ。
浅い水の中に横たわっていたのは、工学の絶対的な驚異だった。
鉄の巨獣。それは過度に巨大ではなかったが、流線型で、危険で、見事に建造されていた。船体は信じられないほど密度の高い魔法で圧縮されたオークから形作られ、重ね合わせたリベット留めの錬鉄の板で覆われていた。船の中央には重い鋳鉄のボイラーエンジンが置かれ、磨かれた真鍮のパイプと圧力計が輝いていた。二本の高い頑丈なオークのマストが甲板から立ち上がり、無垢な白い麻の帆が装備され、海風を捕らえて後部のスクリュープロペラを補完していた。
ケインは舷門に座っており、レンチが彼の手からぶら下がっていた。彼の目の下には恐ろしいほど暗い、打撲のような隈があった。
「眠ってなかったのね」ソフィアは言い、彼のところへ歩いていった。
「試したんだが」ケインはあくびをし、こめかみを揉んだ。「しかし出航する必要があった。だからノヴァに一時的に俺の運動機能を乗っ取らせた。体が鉄板をリベットで留め続けている間、俺は自分の心の中で眠っていたんだ。二日酔いのような感じだが、船は完成した」
ソフィアは船を見て、それから疲れ果てた少年に視線を戻した。彼女の高慢な仮面は完全にひび割れた。彼女は柔らかく深く誠実な微笑みを浮かべた。「心から感心したわ、ケイン。そして…ありがとう。昨日の食事と、毛布を」
ケインが賛辞をはぐらかす前に、背後でアウトランドダンジョンの重い石の扉がきしんで開いた。
二人とも振り返り、ケインは即座に暗い刃を具現化した。
影から現れたのは、背が高く威圧的な姿で、完璧な上流社会のテールコートを着ていた。彼は後ろに撫で付けた黒曜石の髪と、かすかな悪魔的な紫の色合いで輝く目を持っていた。
「セバスチャン?」ソフィアは尋ねた。心から驚いて。
セバスチャンは深くお辞儀をし、右手を胸に当てた。彼は高位の悪魔貴族であり、ソフィアの到着が彼を力強く追い落とすまで、何世紀にもわたって100階層のボスとして君臨していた存在だった。
「お嬢様」セバスチャンは話した。その声は絹のように滑らかだった。「ダンジョンがあなたが去られたことに気づいたとき、下層は完全な無政府状態に陥りました。私は無分別な獣たちを支配することに興味はありません。もしお許しいただけるなら、私は影として仕え続けたいと思います」
ソフィアはケインに目を向けた。これは彼の船であり、彼の脱出計画だった。
ケインは悪魔を隅々まで見渡し、その魔力の密度を見積もった。「コーヒーは淹れられるか?」
セバスチャンは瞬きした。「私はあらゆる料理と家事の技術に精通しております、旦那様」
「採用だ」ケインは即座にうなずいた。「だが紫の目と悪魔の力の波動は隠せ。人間の領土に行くんだ」
セバスチャンはかすかに微笑んだ。彼の姿がきらめき、悪魔の圧力は完全に消え去り、厳格な人間の紳士執事の完璧な姿を残した。
「正確にはどこに向かうのですか、船長?」セバスチャンは尋ね、カフスを整えた。
「東だ。蒼の海を渡って」ケインは言い、巨大な蒸気船の方を見るために振り返った。「サンダーランド国へ。100階層の図書館には、サンダーランドの大聖堂が神の領域に直接繋がる古代の繋がりを持つという記録があった」
ケインの金色に縁取られた目が細められ、危険な笑みが彼の疲れた顔に浮かんだ。「女神カミヤについて少し調査する時が来たようだ」
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