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武田の姫ですが、越後の味が恋しくてたまりません  作者: ぬぁ。


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2/5

第二話 熊と姫君

 


 年は十一。

 あと四年もすれば元服し、名をもらう。



 将来お仕えする主君を一目見たい、そんな軽い気持ちで館まで来てしまった。



 来てしまったのだが。……ここから先、どうしたら良いのか分からない。

 呆然と立っていると、躑躅ヶ崎館の裏門を、ひとつの人影がくぐった。



 小柄だ。女だろうか。いや、子ども……?



 ……怪しい。



 このまま、見なかったことにするべきか。

 追うべきか。



 ……少しだけなら。



 山へ入る小さな背を追った。

 いや、追っていた。そのはずだったが。見失った……。



 ……どこ行ったんだよ!!!



 人の気配が無くなったとたん、急に山の静けさが気になった。

 手が震えている。いや、震えているのは手だけではなかった。



 山は危険な場所、そう教わった。



 山には、猪や鹿、熊、それに、賊や落武者などがいる。

 子どもが一人で入るような場所ではない。

 その教えを今、思い出した。



 思い出したとたん、急に口の中が乾いていく。



 ――ガサッ



 まん丸い目に、ふわふわな毛。

 茂みの中から音をたてて現れたのは、小熊だった。



「……っ、小熊……?……可愛いな」



 小熊に近寄ろうと足を向けた瞬間、子ども特有の高い声がした。



「近づいちゃダメ!!!小熊がいるなら、親熊も近くにいるはずよ!」



 声のした方を見る。



 そこには、見失ったはずの女子がいた。



 そして、女子の口が止まり、開いたままになった。女子の視線の先には、こちらをじとりと見る、大きく、成熟した、親熊がいた。



 気がつくと女子が傍にいて、自分の手を握っていた。



 ……柔らかい。それに、小さい手だな。

 ちょっと力入れたら潰しちまいそうだ。



「小熊に触っちゃダメ!後ろも向いちゃダメ!ゆっくり……ゆっくり下がるの!」



 そこから先は無我夢中で覚えていない。



 山の出口まで来て、熊の姿が見えなくなった。

 そのとたん、女子の力が抜けて、倒れそうになる。



「おいっっっ!!?」



 女子は気絶していた。



 もう一度呼ぶ。



「おいっ!!?」



 返事はない。



「おい!!!」



 返事はない。



「どうすればいいんだよ!!」



 このままおいてくわけにもいかず。

 背におぶる。



「館まで、……遠いな」



 落とさぬよう、小さな足を持つ手に力を込めた。



 これが、後に内藤昌秀と禰々姫の運命を大きく変える出会いとなった。





6/7 内藤昌豊→内藤昌秀へ修正。

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