策略
「他人行儀だけど、まあいいわ。それで質問はあるの?」
「ええ、アカリはどうしてこの地に来たの?」
「何を言ってるのよ。スタンピードがある時は、侯爵家から援軍が出るのが伝統でしょ?」
確かにそうだ。だけど、彼女がワールドエンドに来るのが早すぎる。
「嘘は言わないで。そのことは、レオナールは父様と面会して話をする予定なのよ。アカリが王都を出た後でしょ? レオンも会ってないって言ってたわ」
ウルフェンハルト侯爵軍が、すぐに出陣できるわけではない。
準備も必要だし、大軍を動かすには国王への許可も必要だ。
「さすが、シズカね。そこらへんの仕組みはよく知ってるわね」
「正直に言ってくれないなら、もう絶交するわ!」
きついことを言ったつもりだった。アカリなら気にも留めないと思っていた。
けれど、アカリの顔色が変わった。
「そうよね。また、私は大きな間違いをするところだった。本当のことを話すわ。私がここに来た理由は二つ。一つは、王太子クラインの捕縛よ」
「王族を捕まえるなんて……」
「そうね。普通ならできないわね。だけど、彼には国宝の持ち出しと、貴女への殺人未遂の罪があるわ」
それは二つとも事実だ。
「ここに、国王の勅命書があるわ。手に入れるの、大変だったんだから」
彼女は懐から取り出して、私に見せた。
「そうね。本物ね」
私は書状を隅々まで確認して答えた。
その様子に、彼女は鼻でふふっと笑った。
「協力を仰ごうとカリオン分隊長を訪ねたら、ここにいると言われてね」
何かがおかしい。
話の順番が合わない。
まるで事件が起こることを知っていて、アカリが行動を起こしているように思える。
しかも、限られた人しか知らないことだ。
「アカリ、あなたが仕掛けたの?」
「やっとわかったの?」
「私を殺そうとしたのね? 呆れたわ」
深く息を吐き、冷たい視線を彼女に浴びせる。
「全く違うわよ。炎石が来たでしょ?」
ああ、そうだ。
彼女は、クラインを罠に嵌め、国の貴重な魔道具を盗ませ、私を殺させようとした。
その一方で、私を守るための戦力を動かしていた。
「みんな、アカリの指示に従うのね……」
「違うわ。指示なんてしてない。みんな貴女のためだから、行動してくれただけよ!」
「でも。ラファーガは裏切ったわ」
彼を責めたりしているわけじゃない。
ただ、とても悲しかった。
私に秘密を持っていたことが。
「それは、私と同じ思いだったからよ。クラインを罠に嵌める――そのために、手を汚したの」
「ラファーガは、そういうのが一番似合わないの!」
「だけどね……それは分かるけど。彼のような一流の人間が、他人の考えだけで動くと思う?」
アカリは、ことの一部始終を話し始めた。
「長くなるわよ!」
今回の策略は、ラファーガが訪ねてきたことから始まったらしい。
「シズカを傷つけたクラインに罰を!」
「そうね。私もそのつもりだった。決心がついたわ。手伝ってくれる?」
そうやって、二人の計画が始まったという。
「そこまでしなくても……」
「我儘と思うかもしれないけど、貴女に恥をかかせ、不幸にしたクラインを許せない。彼の気持ちや行動を裏切りとは思わないで!」
それは、彼女自身のことを言っているみたいだった。
「……」
ラファーガがそこまで思い詰めていたことに、私はショックを受けた。
「もう一つの理由は何?」
「魔石採掘を、王国の許可もなく行っているとの告発があったの。告発されたのは、シズカとカリオンよ。そして獣人を集めて反乱まで起こそうとしていると」
「何を馬鹿な! 告発人は誰なの?」
「ガストン家の家人が、トリス子爵に告発をしたと。まあ、トリスね」
奴は先手を打って、私たちより先に行動を起こしたのだ。自分の犯罪を隠すために。
「奴こそが、犯人よ!」
「わかってるわよ」
王国の閣議で、トリスが訴えを起こした時のことを教えてくれた。アカリは、父の代行としてその場に出席をしていた。
「カリオン分隊長とシズカ執政官の解任と拘束を! そして、捕えられているドワーフのエイトラを解放して事情を聞こう!」
トリス子爵が、閣僚と侯爵の並ぶ中、声高に発言した。
「はぁ、馬鹿なことを言うな! あのくそ真面目な子が、そんなことをするとは思わん」
魔物討伐隊長のカイゼン子爵が立ち上がり、怒鳴った。
「ああ、却下だ。それより、あの子から直接事情を聞こう。その方が本当のことがわかる。久しぶりに会いたいしな」
冒険者ギルド長のクリス子爵も続いた。
「お前たち、私が言うことよりも、ど田舎の新米女執政官の言葉を信じるつもりか?」
「ああ、そうだ」
二人は頷いた。
「魔石採掘の件は、財務大臣である私の管轄だ。私が手筈をとり、二人を連行する」
トリスが発言し、彼の派閥の貴族が同調する。
「少しお待ちください。ワールドエンドは我が領地。その地の執政官任命は、我が侯爵家の専権事項。それは、ルーナ分隊長の任命権を国王が持つのと同じこと。違いますか?」
沈黙していたアカリが口を開いた。
「この件は、ウルフェンハルト侯爵家の所領で起きたこと。侯爵家として調査し報告します。そして、必要だと判断した場合、私が連れてきます。連行なんてさせません」
「は、生意気な小娘がここにもいた」
トリスは馬鹿にした態度をとって貶めようとした。
だが、彼女の意見に三大侯爵家が賛同し、カイゼンやクリスも同意したことで、トリスの要求は退けられた。
話を聞き終えて、私はアカリに礼を言った。
「信じてくれてありがとう。トリス子爵よりも意見を通すなんて驚いたわ」
「シズカ、何の為に他の貴族と遊んでたと思ってるのよ。侯爵会もこんな時のためよ」
「私の持たない特技だわ」
「シズカに初めて褒められたかもしれない。貴女は他の人はよく褒めるのに」
「そうかも」
お互い競争意識を持っていたのだ。私も知らぬ間に態度に出ていた。
私たち顔を見合わせて笑った。
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