↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
姉に全てを奪われた追放令嬢、辺境の村を再建します〜愛犬が転生した犬人少女と始める内政スローライフ〜  作者: 織部


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
92/112

草原での特訓

「どうじゃ、魔術について理解したか?」

 プラドが話しかけてきた。

「いいえ。ですが、最後までは読みました。あの本を書いた人は、優れた魔術師になったのでしょうか?」


「ははは、優れた……残念ながら、奴はへっぽこの魔術師どまりじゃったよ。実践向きではなかったから、魔獣の相手はわしがしておった」

「そうですか。魔術書は、まるで大魔術を使えるようになるまでの記録のようでした」


「そうじゃ。苦難の歴史を書いたと言っておった。奴は水を出すだけでも喜んでおったからな」

 それを聞いて、私は思わず苦笑した。

 いや、私たちからすれば、手から水が出れば、それは手品だ。


「プラド様のご友人は、ミゾグチ・ケンさんと言うんですね?」

「……ああ、そんな名前じゃったかな。ケンだ」

 彼女は懐かしそうな声を出した。


「それじゃあ、場所を変えよう! 集中できるところが良いだろう」

 プラドに連れられて、何もない草原へやって来た。

 同行者は、御者をしているクロエだけだ。

「ここなら他人の目も気にならないだろう。大声で、呪文を唱えてみろ!」


「はい」

「あ、その前に、目を閉じろ。そうじゃな……最初は風が良いかな」

 静かな草原に、心地よい風が、吹き抜ける。小川のせせらぎが聞こえる。


 自分と世界の領域が少しずつ溶けていくのを感じた。

 初歩の風魔術を唱える。


 『この世の理に従い、我に眠る力を使って、風よふけ!』

 今まで、数十回、数百回と唱えても何も起こらなかった世界に異変が起きる。

 微かに目を開けると吹き抜ける風に、私の起こした魔術が乗り、勢いを増している。


「成功だよぉ、シズカ」

 髪を風にたなびかせながらクロエが、跳ねながら喜んでいるのが目に映った。

 だが、それも一瞬だった。考え込んでしまった私のせいで、風は止んだ。


「これじゃ成功と言えない」

 魔術書の最後に書かれていた言葉が頭をよぎった。


『たとえ、この世界が夢でも幻でも、今、私の前にいるプラドを好きだと言う気持ちに嘘はない。それは紛れもない真実だ』

 私は、クロエを手招きした。

「どうしたの?」


「ううん、手を握っていて」

 魔術が消えてしまったのは、私の疑念のせいだ。私は再び、新たな呪文を唱える。


『偉大なる風の精霊よ、懇願する。我の眠る力を分け与える。風を起こせ!』

 祈りこそが、奇跡を起こす。クロと再会できたこの世界、そのものが奇跡なのだ。

 ありえないほどの突風が、私を包む。


「シズカぁ!」

 クロエは私を掴んだ。私たちは、私の起こした風魔術によって、天空高く運ばれてしまった。

「まずい!」

 このままでは、クロエが怪我をしてしまう。一つ間違えば、死んでしまうかもしれない。もちろん、私も。


「プラド様は?」

 彼女の姿を探すが、どこにもいない。

 私は冷静に、さらなる魔術を唱えた。覚悟が決まったからだ。


『偉大なる風の精霊よ、懇願する。我の眠る力を分け与える。風の膜で我らを包み、地上に降ろせ!』

 以前、ラファーガがやっていたことを、想像した。

 ゆっくりとはいかない。それでも降下していくのを感じた。


「シズカ、しっかりつかまって」

「あわわわ」

 いつの間にか、クロエに抱かれていた私は、飛行機のように地上に着陸した。

「大成功じゃな!」

 プラドの声がする。彼女は私たちの背後に隠れていたのだ。


「どこでその呪文を習ったの? エルフのものだけど」

「種族は関係ない。そうですよね?」

「そうじゃ、その通りじゃ」

 私にとって、自分を信じるよりも、この世界の神を信じる方が容易い。それだけだ。


※

 その後も練習を続けた。

 私は成功体験によって、意識の変化が起こり、少しずつ成功の確率が上がっていった。

「これからは、お前の魔術の種類と操作じゃ。出発地点に立ったと考えて良いだろう。わしが考えていたよりも、はるかに早かったな」


「それは、魔術書とノートのおかげです」

「そうか? 残念ながら、わしにはあの本が読めん。特別なことは書いてないだろう?」


 ケンさんの魔術書。

 最初の章は、概論。次の章は、魔術の体系。魔術書といえるのは、ここまで。

 そのあとは、彼の修行の日記。最後の方は、ただの日記だ。


『この本を読めるということは、同郷のものだろうし、プラドが心を許した者だろう。この内容を彼女に教えないで欲しい』

 私は、どうしようか悩んだ。


「そうですね。ただ、難解です」

「そうじゃろ、奴は元学者だと言っておったからな」

 とりあえず、誤魔化すことにした。

 だが、彼の本心はもしかしたら伝えて欲しいのかもしれない。


「まだ、全部写せて無いんです。もう少し借りていても良いですか?」

「ああ、構わんよ。じゃが、大切に扱ってくれよな?」

「もちろんです」

 陽が沈み、私たちは執政官屋敷に帰ることにした。


 精神的にかなり疲れていたようで、プラドと会話をすることもなく、客車で一眠りした。


 執政官屋敷の前が騒がしい。

 ゼルフィードも、上空を飛んでいる。

「新たな事件の予感がする」

 クロエが呟いた。


「執政官屋敷に、赤いウルフェンハルトの旗。あれはアカリの旗だ!」

 私の顔から血の気が引いた。


お忙しい中、拙著をお読み頂きありがとうございます。もしよろしければ、ご評価をいただけると幸いです。又、ご感想をお待ちしております。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。