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姉に全てを奪われた追放令嬢、辺境の村を再建します〜愛犬が転生した犬人少女と始める内政スローライフ〜  作者: 織部


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笑い声の夜


 彼女の涙は、ラファーガたちと彼女の間の見えない壁を溶かした。

「おかわりもありますよ。それにご用意した料理は他にもありますよ!」


 セラフィナが微笑んで、料理を勧めた。

「食事というのが、楽しいものだと忘れていたよ」

 そう言った孤独のエルフは、涙を拭いて照れたように笑った。その表情を見て、セラフィナも嬉しそうだ。


「それなら、たくさん食べてくださいね」

「ワールドエンドは、新鮮で素朴な味の野菜が多くて……」

 私が紹介するまでもなく、彼女にエルフたちが自ら挨拶を始めた。


 最初は少し遠慮がちだった。

 けれど、一人が声をかければ、また一人と輪が広がっていく。

「そっか、お前は水門のリグの娘か?」

「はい。父は既に病で亡くなりましたが。お会いできて光栄です」

「そうか……」

 相手は少しだけ目を伏せた。


「いや……それより、大変だったそうだな?」

 プラドは、一瞬だけ哀しそうな顔をしたが、すぐに表情を隠し、質問を続けた。

「いえ、シズカ様に助けてもらいましたので!」

「ああ、聞いた。無事でなによりだ。シズカは優秀で思いやりのある執政官だからな」


「はい。シズカ様の地に住めて、セラフィナ様の元、生き延びここにいる私たちは幸せです」

「セラフィナは、我が妹によく似ている。苦労をさせてしまったな」


 その言葉に、セラフィナが少しだけ目を細めた。何か言おうとしたのかもしれない。けれど、結局何も言わず、ただ微笑んでいた。

 探るように、少しずつだがお互いのことを聞く。過去をすべて話すわけではない。誰かが話せば、別の誰かが少しだけ自分のことを話す。


 私は、その様子に安心しながら、ワインを口に運んだ。

 ドワーフのワインは、口当たりが良いが濃い。まるで、日本酒のようだ。

 最初は美味しいと思った。


 だから、ついもう一口。

 そして、もう一口。

 酒の弱い私は、いつの間にか顔を赤く染めて、カリオンにもたれかかっていた。


「飲み過ぎじゃないか? シズカ」

「そんなことない。これくらいは……」

「それ、さっきも言ってなかったか?」

「言ってないわよ」

「言った」

「……そう?」

 カリオンが呆れたように笑う。


 呂律が回っていないことには気づいている。それでも、とても気分が良かった。

 いつもなら気になって仕方がないことも、今はどうでもよく思える。


 クロエが、炎石やガストンと骨付き肉を次々と食べているのも許してしまえるくらい。

「それ、私の分も残しておいてよ」

「シズカ様、食べるんですか?」

 クロエが楽しそうに笑う。


「食べるわよ。……たぶん」

 私は、答えながらも、頭の中ではずっとプラドとの会話が繰り返されていた。

「あの姉さんが私のために……」

「ん? 姉さん?」

「ううん。何でもないわ」

 クロエが驚いた表情でこちらを見る。


 私は笑って誤魔化した。いつの間にか口に出していた。

 今のは、聞かなかったことにしてほしい。

 そんな私の気持ちを知ってか知らずか、カリオンは尋ねなかった。


「私は秘密を聞き出すのが苦手だから、カリオン。貴方に任せるわ!」

「何を訊けばいいんだ?」

 彼はとても困った顔をしている。

「任せるわ。貴方ならわかるはずよ」


「いや、分からないから聞いてるんだが……」

「大丈夫よ。勘のいい貴方ならわかるでしょ」

 カリオンが深いため息をつく。

 私は思わず笑ってしまった。私は、再びプラドへ目を向けた。


 彼女は相変わらず、静かに話を聞いている。

 プラドは、私と似ている。

 だからだろうか。

 私は、彼女に妙な親近感を覚えていた。

 長い時を生きてきた彼女には、きっと私の知らないことがたくさんある。


 それでも、こちらから訊ねなければ、彼女は何も語らない。

 私も同じだ。

 訊かれなければ、自分から話すことはない。


「やはり、私が訊くわ」

 そう決意すると、再びカリオンにもたれかかった。

「……結局、自分でやるのか?」


「そうよ……」

 返事をしたものの、声には力が入らない。こんなに気が抜けたのは、いつ以来だろう。

 魔術書を読まないと。

 執政官としてやることもある。

 明日の予定も確認しなければならない。


 そんなことを考えているのに、どうにも瞼が重い。

 この場が、少しずつ遠くなっていく。

 眠ってはいけないと思っているのに、身体は言うことを聞いてくれない。


 遠くで、楽しそうな笑い声が聞こえる。

 珍しい。

 ラファーガの声だ。

 あの人が、あんなふうに笑うなんて。

 私は薄く目を開けようとした。

 けれど、もう無理だった。

 最後に聞こえたのは、皆の楽しそうな声だった。


※

 夜中に不意に目が覚めた。

 また、鼓膜に話し声が残っているのだろうか。

 微かに、人の声が聞こえる。


 私は寝衣に着替えさせられ、自室のベッドに寝かされていた。左右には、クロエとピクシアが眠っている。

「まだ、寝てなさい。夜明けは遠いわ」

 私が身を起こした気配で目を覚ました二人を、そう言ってもう一度寝かしつける。


 私はベッドを離れ、机に向かった。


お忙しい中、拙著をお読み頂きありがとうございます。もしよろしければ、ご評価をいただけると幸いです。又、ご感想をお待ちしております。

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