↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
姉に全てを奪われた追放令嬢、辺境の村を再建します〜愛犬が転生した犬人少女と始める内政スローライフ〜  作者: 織部


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
88/112

懐かしい風


私の最大の秘密を知られてしまった。

「安心せい。わしは異人を知っておる。長く生きておるからな」

「異人というのは?」


「異なる世界の記憶を持つ者の総称じゃ。お前が読めたその文字も、その世界で使われていた文字なのだろう。この世界では神代の文字と言われておるが、それが間違った伝承であることくらい、わしには分かる」


 そう語るプラドの横顔は、どこか懐かしさを帯びていた。

「他にも異人がいるのですか?」

「残念ながら、もう墓の下じゃ」

 そこで一度言葉を切り、プラドは窓の外へ視線を向けた。


「……わしの友でもあった」

 その短い一言が、不思議と胸に残った。

 ただの昔話ではない。

 そんな響きが、その声にはあった。


「その友が書き残したのが、さっき渡した魔術書じゃ」

「そうですか……」

「お前たち異人は、漂わせている空気が違う」

 プラドは私をまっすぐ見つめる。


「……我が友と同じ、どこか異質な空気をまとっておる。懐かしい風じゃ」

 その表情は穏やかだった。

 けれど、その目だけは、遠い昔を見つめているようだった。


 そう言うと、プラドは鞄から一冊のノートを取り出し、私へ差し出した。

「これは?」

 受け取って開いてみる。

 そこには、先ほど渡された魔術書の内容が、一ページずつ丁寧に書き写されていた。


 余白という余白には、赤い文字で細かな注釈がびっしりと書き込まれている。

 まるで、読み手が理解しやすいよう作られた参考書のようだった。


 あれ……?

 この字は……。

 見覚えがある。

 私が顔を上げると、プラドは口元を緩めた。


「気づいたか。それは、お前の姉、アカリの字じゃ」

「プラド様は、アカリが異人だということも知っていたのですね?」


「ああ。とっくに知っておる」

 そう言うと、プラドは豪快に笑った。

 私の胸には、次々と疑問が湧き上がる。

 姉はいつ、どうやってプラドと出会ったのか。


 異人だと知っていて、なぜ誰にも話さなかったのか。

 もっと聞きたい。

 そう思って口を開きかけた、その時だった。

 馬車がゆっくりと速度を落とす。


「着いたぞ」

 窓の外を見ると、目的地であるドワーフの砦が見えていた。

「お前は、物事を理解するのに時間がかかりそうじゃ。頭も少し固そうじゃしな。まずは、それらから学べ。実戦はそれからじゃ」


「はい。ありがとうございます」

 馬車を降りる。

 執政官別邸のある丘は、私が数日訪れない間に、まるで要塞のような姿へと変貌していた。


 入り組んだ通路が縦横に巡らされ、あちこちに穴が掘られ、石壁が築かれている。

 これほどのものを、わずかな期間で造り上げたとは到底思えない。


 まさに、採掘にかけては一流と名高いガストン家らしい仕事だった。

「屋敷の中に入ってお待ちください。隠したところから取ってきますんで」

 ガストンと炎石は、そう言って足早にどこかへ向かっていった。


 しばらくして、二人が戻ってくる。

 二人で慎重に運んでいるのは、例の黒い箱だった。


「間違いない。これじゃ」

 箱を一目見たプラドは、満足そうに頷く。

「わしの馬車の荷台に載せてくれ」

「盗難避けは施してあるのですか?」


 思わず尋ねると、プラドは愉快そうに笑った。

「はっはっは。シズカ、心配するな。無いわけがなかろう」

 そう言って箱を見つめたあと、くるりと炎石たちへ向き直る。


「さて、用事も済んだことじゃ。せっかくだ、この砦を案内してくれんか」

「珍しいことを言うもんじゃな。エルフの魔女様が、わしらのねぐらを見たいとは……。まあ、よかろう」


 炎石は豪快に笑い、ガストンとともにプラドを連れて屋敷を出ていった。

「それじゃあ、案内はお任せします」

 私はその背中を見送った。


 正直なところ、砦の見学よりも、今は一刻も早く魔術書とノートを読みたかった。

 プラドが託したもの。

 アカリが書き残したもの。


 その二冊には、私の知らない世界の秘密が詰まっている気がした。

「あの婆さんに変なことをされなかったかい?」

 プラドたちを見送った後、ラファーガが心配そうに声をかけてきた。


「ええ。魔術を教えてもらうことになったの」

「婆さんだなんて……」

 私が少し呆れたように言うと、ラファーガは苦笑した。


「いや、本当に婆さんなんだよ。実は我らの一族でね」

「そうなの? 知らなかったわ。じゃあ、ハイエルフなのね?」


「ああ」

 ラファーガは頷いた。

「秘密の話じゃないの?」

「秘密……というほどではない。ただ、知る者が少ないだけだ。それにエルフは無口だからな」


「私の目の前にいるエルフは例外のおしゃべりさんなのね?」

「そうだな。俺はお前の前では口が多い」

「そうね。お兄様はシズカ様とだけはよく話をしますもの。ずるいです」


 セラフィナが拗ねたように会話へ加わる。

「俺も、プラド様の話を聞いていいのかな?」

 カリオンが遠慮がちに尋ねた。


「あなたは他言しないでしょう。それに、この話は別に禁じられているわけではありませんから」

 ラファーガは応接のソファに腰を下ろし、私の向かいに座った。


お忙しい中、拙著をお読み頂きありがとうございます。もしよろしければ、ご評価をいただけると幸いです。又、ご感想をお待ちしております。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。