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姉に全てを奪われた追放令嬢、辺境の村を再建します〜愛犬が転生した犬人少女と始める内政スローライフ〜  作者: 織部


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幻影のドラゴン


執政官屋敷の上空を、魔鳥ゼルフィードが警戒して飛んでいる。

「大丈夫よ。敵じゃないわ」

 私は、安心させようと声をかけた。


 魔鳥は、私の言葉を理解したようで、高度を下げてゆっくりと旋回すると、やがて私の肩に止まった。


 その時、執政官屋敷に一台の馬車が駆け込んできた。扉に「王立学園」の紋章が描かれた立派な馬車だ。


 隣のキャンプ地にいる獣人族が、何事かと動きを止めてこちらを見ている。

 王立学園の副学長――魔女と呼ばれる老婆が馬車から降りてきた。私と同じ黒衣を全身にまとっている。立ち振る舞いはきびきびとしていて、年齢を感じさせない。


「あら、珍しい人たちがお出迎えとはね!」

 彼女は、私の隣に立つ炎石やラファーガを見て言った。

「長旅、お疲れ様です。私がこの地の執政官、シズカです」

「王立学園副学長のプラドよ。よろしく」

 差し出された手を握る。


 その瞬間、細い電撃のような魔力が、全身を駆け抜けた。

「っ……」

 思わず息が詰まる。

 痛い。私の奥深くまで、無理やり探られているような痛みだった。

 まるで、レスィと同じだった。


「あら、ごめんなさいね。噂の有名人の方ね」

「それは光栄……なんでしょうか? 悪い意味で、でしょうか?」

 王子との婚約破棄。学校にもろくに行かず、冒険者と遊び歩いている――そんな噂のことだろうか。


 魔女は私の問いには答えず、意味深な笑みを浮かべると、杖でコツンと地面を叩いた。

「やっぱり、あなたは自分の評価が異常に低いのね。あなたは救国の英雄なのに」


「何を言ってるんですか? 救国の英雄は、ここにいる炎石おじさまやラファーガです」

「その人たちの首領が、あなたでしょう?」

 ひどい誤解だ。

 私は魔物討伐隊について行っただけだ。魔術は使えず、剣も振るえない。ただ皆の後ろをついて歩いていただけなのに。


「ああ、そうじゃ。わしらの大切な姫じゃ」

 炎石が冗談めかして笑う。

「もう、おじ様ったら。変な誤解を招くようなことを言わないでください」


「誤解? わしは本当のことしか言っとらんぞ」

 炎石は悪びれもせず笑い、ラファーガも「その通りだ」と小さくうなずいた。

「ほら、みんな同じ考えじゃ」


「だから違いますって……」

 私が困り果てていると、魔女はくすくすと喉の奥で笑った。

「ふふ。本人だけが、自分の価値に気づいていないというわけね」

 クロエたちは、すでに馬車から魔女の荷物を降ろし始めていた。


「お疲れでしょう。部屋の準備ができております。ご案内します」

 セラフィナが、メイド長代理として手際よく応対する。

「そうね。少し休ませてもらってから話を聞こうかしらね」

 権威を振りかざしているわけでも、尊大な態度をとっているわけでもない。


 だが、彼女の持つ何かが、場の空気を静かに支配していた。

 長い年月を生き、魔術の頂点に立つ者だけが持つ重み。

 私は自然と背筋を伸ばしていた。


「それにしても……」

 魔女は歩きながら、ちらりと私を見る。

「あなたが噂通りの人なのか、とても興味があったのよ」

「噂ですか?」


「違うわ。あなたのことをみんな自慢げに私に話すから、会ってみたかったのよ」

 彼女は楽しそうに目を細める。だが、その目の奥には、私を見定めようとする力を感じた。


※

「さて、盗難にあった魔道具を回収に来たのだけれど? もちろん、森の外れにある箱は偽物なのはわかったわ」

 応接で、セラフィナが淹れたハーブティを優雅に飲みながら私に尋ねた。


 部屋には、出迎えた者たちが揃っていた。

「プロストから場所を聞いたんですね?」

「お前、なかなか用心深いな。罠もあったし、監視もいた。我が行ったのも知ってるだろう?」


「はい。木っ端微塵に壊したと監視から報告を受けました」

「ガハハハ。せっかくの罠だ。ハマってやらんとな」

 魔女は魔術で、偽黒箱のドーム型の囲いを壊すと上空に持ち上げたと思ったら地面に叩きつけたらしい。


「精密に複製したわしの力作が……」

 古の魔道具らしい緻密な彫刻を時間をかけて作っていたガストンが嘆いた。

「それでは保管場所にご案内します」


「いや、それは後でいい。あなたを信頼しているから。それよりも魔物の襲来のことを聞かせてもらえないかしら?」


 副学長が、この地に足を運んだ目的は、国宝である魔道具の回収よりも、その件だったのだ。

「遅くなりました」


 応接室に入ってきたのは、プロストだった。

「やっと来たのね。早速だけど報告をお願いするわ」

「はい。わがライフワークの集大成をお話しします」


「え?」

 プロストがこの地にいるのは、寒冷地の調査だとばかり思い込んでいたが、そうではなかったようだ。


「数十年に一度、周期的に魔物が襲来する。おかしいと思いませんか? かと言って、モンスターパレードでもない。この目で確かめました」


「魔物の縄張りが変わってしまい、押し出された弱い魔物が、やむおえず人の領域に出現する。そうよね?」

 私は思わず口を挟む。この現象を私は過去にも見たことがあるからだ。


「そうです。ですが、今回は大きな被害にはなりませんでした。理由は」

「カリオンよね。森の真ん中で多くの強い魔獣を殺したから」

 そう。彼のおかげで今回の被害が少なく済んだのだ。


「正解です。縄張り移動の連鎖が止まってしまいました」

 魔女が杖をつく。

「それで、原因は掴めたのか?」

「はい、足跡だけですが。だが、姿を見つけれません」


「幻影のドラゴンじゃな」

 ニヤリと彼女は笑った。


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