カリオン救出
ドラゴンの口に鍵を落とすと、神殿への扉は前回と同じように開いた。
「カリオン! カリオン! どこ?」
私は大きな声で呼びかけた。その声は、ラファーガたちの風魔術によって地下の広大な空間にこだまする。
「こっちです、シズカ様」
私はクロエに手を引かれ、階段を駆け下りた。
炎石は巨大な石柱や壁一面に刻まれた古代文字を興味深そうに眺めている。
セラフィナは俯いたまま、申し訳なさそうについてきた。
「悪いのは貴女じゃないわよ。そこの片棒を担いだ男のせいよ!」
私はラファーガを睨みつけた。
「それでも……」
セラフィナは小さく呟く。
私たちは神殿の中央部へ向かい、かつてガストンが幽閉されていた塔を駆け上がった。
「ここです、シズカ様」
そこは、ガストンが閉じ込められていた部屋でも、エイトラを放り込んだ空間でもない。立派な扉のある一室だった。
「カリオン! 迎えに来たわ!」
部屋のベッドには、一人の男が横たわっていた。
私は駆け寄り、その体を強く揺する。
良かった。息はある。目立った怪我もない。
張り詰めていたものが一気にほどけ、思わずその場に座り込みそうになるのを必死に堪えた。
彼はゆっくりと目を開き、私を見ると穏やかに微笑んだ。
「天国にでも着いたのかな。シズカが見える」
そう言うと、彼は私を抱きしめた。
「ごめんなさい。私のせいで……」
「君がそんな顔をする必要はない。俺はちゃんと生きてる。それで十分だ」
その一言に、胸を締めつけていた罪悪感が少しだけ軽くなった。
「ここにいると時間の感覚がなくてね。何日経ったのかな?」
「あなたは、どれくらい経ったと思っていたの?」
「数日ってところかな」
「正解よ」
「食事は大丈夫だったの?」
「ああ。非常食は持ち歩いていたし、ここには備蓄品もあったよ」
私は胸を撫で下ろした。
「すまん」
ラファーガは深く頭を下げた。
「俺の判断が、お前を危険な目に遭わせた。責任はすべて俺にある」
カリオンは静かにラファーガを見つめ、それから同行者たちを見回した。
「そうだ。紹介するわ。ガストンのお兄さん、炎石よ」
炎石は軽く頭を下げた。
「それから、セラフィナのお兄さん、疾風のラファーガ」
ラファーガは頭を上げ、改めて一礼した。
「ああ、知っている。二人とも有名な冒険者だ。国のために戦ってくれていると聞いている」
カリオンは穏やかに答えた。
私はクロエへ視線を向けた。
「クロエ、食事をお願い」
「かしこまりました」
クロエは一礼すると静かに部屋を出ていった。
残った皆を見回し、私は言った。
「治療するから、みんな部屋を出て」
炎石とガストンは無言で頷き、セラフィナは名残惜しそうにカリオンを見つめてから部屋を出る。ラファーガも黙って二人の後に続き、扉が静かに閉まった。
私はカリオンに治癒を施し、疲労した体を癒やしていく。
「生き返ったよ。ありがとう」
「ううん。本当にごめんなさい」
治療を終えると、私は椅子を引き寄せ、カリオンの前に腰を下ろした。
「それじゃあ、事情を説明するわ」
私は魔物襲来の時から今日までの出来事を、包み隠さずカリオンに話した。
「事情はわかったよ。俺としては閉じ込めた償いはして欲しいけどな」
「もちろんよ。私ができることなら……でも悪いことを考えている顔だわ」
「ははは、警戒しすぎだよ。何にしようか色々浮かんで……」
部屋の扉がノックされ、食欲をそそるスープの香りが漂ってきた。
「ご主人様、お食事をお持ちしました」
「ええ、治療は終わったから、みんな入って構わないわ。カリオン、お腹いっぱいお食べください」
「ちぇ……」
不満げなカリオンを横目に、危機を脱した私は微笑んでベッドから離れた。
「ところで、閉じ込められている間は何をしていたの? まさか結界を破ってないわよね?」
「そうしたいところだったけど、シズカに怒られるからな。代わりに、この地下洞窟を隅々まで探索したよ」
本人は身なりをきちんと整えているのに、部屋の床は土埃に覆われていた。
「何か見つけたの? でもここは閉じられた空間よね」
「ああ。出口は見つけられなかった。でも、気になる場所が一つあった」
「気になる場所?」
「通路だったと思われる場所が、岩で完全に塞がれていたんだ」
「崩落じゃないの?」
カリオンは炎石とガストンへ視線を向けた。
「俺には自然の崩落なのか、人の手で塞いだのか判断できなかった。頑張って掘ったんだが……」
炎石の目が鋭く光る。
「なるほど……それは見てみる価値がありそうだな」
ガストンも静かに頷いた。
空になった食器を置くと、カリオンは当然のように立ち上がり、剣帯を締め始めた。
「もしかして探索に行くつもり……疲れてるでしょ? 安静にしないと」
「いや、スープにハイエルフの癒し薬が入ってたからね。お陰でここ最近で一番元気かも」
「もう、ラファーガったら。お詫びの仕方が間違ってるわ。反動が出るかもしれないのに……」
呆れながらため息をつく私に、カリオンは苦笑した。
カリオンを先頭に、私たちは全員で洞窟の奥へと進んだ。
「この神殿のある洞窟は隅から隅まで調べたんだがな」
頭を捻りながらガストンはツルハシとハンマーを背負って歩いている。
炎石も同じように道具を背負っていた。
「ものすごく新鮮ね」
ドワーフの冒険者である彼が、そのような装備を身につけている姿を見るのは初めてだったからだ。
「ああ、俺も子供の時以来だ。何十年ぶりだろうな」
炎石は照れくさそうに鼻を鳴らした。
その背中は、ガストンが幼い頃に憧れていた兄そのものだった。
ガストンは目を細め、少年のような笑みを浮かべていた。
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