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姉に全てを奪われた追放令嬢、辺境の村を再建します〜愛犬が転生した犬人少女と始める内政スローライフ〜  作者: 織部


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元婚約者 クライン


その時だった。

 微かに、屋敷の空気が変わった。

 静かな廊下の向こうから、誰かがこちらへ向かってくる足音が響く。

 一定の調子だった足音は、次第に速さを増していく。


「奴が部屋から出てきたぞ!」

 ラファーガが私に耳打ちすると、自然に私の斜め後ろへ移動した。

 炎石も反対側へ静かに位置を変える。

 二人とも何気ない雰囲気を装っているが、いつでも動ける態勢だった。


「誰が来てるんだ? クロード!」

 間の抜けた声が廊下に響く。

 クラインだ。

「カリオン殿下のご友人です」

 クロードは普段と変わらぬ口調で答えた。


「奴に友人なんているものか? 顔を見てやろう!」

 どたどたと廊下を走る足音が、迎賓室の前で止まる。

 どすっ。

 勢いよく扉が足で蹴り開けられた。

 王族とは思えない登場である。


「久しぶりですね。クライン殿下」

 私が静かに声を掛ける。

「…………」

 クラインは目を見開いたまま、その場で固まった。

 信じられないものでも見たように、私とラファーガたちを見比べる。

 そして次の瞬間。


「な、なんでお前がここにいるんだぁっ!?」

 情けない悲鳴を上げると同時に、腰から力が抜け、その場へ尻もちをついた。

「ワールドエンドの執政官ですので、ご挨拶に」

 私は立ち上がり、裾をつまんで優雅に一礼する。


「突然の訪問となり、申し訳ありません」

「い、いや……そういう問題じゃない!」

 クラインは床に座り込んだまま後ずさる。

「お、お前、どうやって入った!?」

「正門からですが?」

「正門!?」

 クラインは勢いよくクロードを振り返った。


「クロードォ!」

「はい」

 クロードは涼しい顔で一礼する。

「どういうことだ!」

「客人がお見えでしたので、お通ししただけでございます」

「勝手に!?」

「はい」

 あまりにもあっさりとした返事だった。


「お、お前なぁ……!」

 クラインは言葉を失い、肩を震わせる。

 クロードはそんな主の様子を見ても、どこ吹く風といった表情を崩さない。

 その口元だけが、わずかに笑っていた。


「融通が効かず、忖度をしない男」と評判の彼には、時間の無駄でしかないと、無能のクラインですらわかっているらしい。


「婚約破棄された時でもお会い出来ませんでしたし、久しぶりなのですから、少しお話ししましょう」

「いや……」

 逃げようと腰を浮かせたクラインだったが、不自然に体勢を崩し、そのまま椅子へと倒れ込んだ。

 ラファーガが風魔術でさりげなく椅子へ押し戻したのを、私は見逃さなかった。


「そういえば、一緒にいたという怪しい仲間たちは? 今日は同行していないの?」

 私は不審に思って尋ねた。

「仲間……あんな奴ら、仲間なんかじゃない。いつの間にか、いなくなってた。所詮、人族でない冒険者なんてそんなもんさ。大金払ってやったのに。やはり貴族でないとな」


「私の暗殺なんて危ないこと、貴族仲間は誰も加わらないでしょ?」

「……」

 都合が悪くなると黙り込む。その癖は、嫌でも覚えている。


「魔道具を盗んで、私を殺そうとした。私は貴方の前から消えてあげたのに、どうしてそこまでしたの?」

「それは……」

「話さないなら、どうなっても知らないわよ」

 ラファーガと炎石が一歩前へ出る。その鋭い視線に、クラインは明らかに怯えた。


「王族を手にかけたら、いや、怪我を負わせたら、お前も終わりだぞ!」

「そうね。クライン殿下が突然いなくなったら、困る人もいるでしょうね」

「待て待て。落ち着け。話す。俺は、頼まれたんだ。ばれないように始末してくれって……」

 そう言いながらも、クラインは貧乏ゆすりを続け、視線はせわしなく泳いでいる。


「嘘ね。ただ頼まれただけなら、宝物庫にある特別な魔道具のことまで知っている説明がつかないもの」

「馬鹿にするな! お前のそうやって人を見下すところが嫌なんだ! いつもいつも、偉そうに!」

 違う。


 私は彼を見下したことなど一度もない。ただ、王族としての振る舞いを教えようとしていただけだ。

「図星だろ! 何もしなくても、俺には情報が集まって来るんだ! 上手くいくはずだったのに……」


 そんなはずがない。誰かが情報を流したに決まっている。殺そうとした相手の前で、よくそんなことが言えるものだ。


「そんなに私を憎んでいたの?」

「まさか。婚約破棄できたのに、お前なんかに興味を持つわけないだろ。あいつがきっと喜ぶからさ!」

「あいつって誰よ?」

「……俺も男だ。それは言えないな」


 心当たりがありすぎて分からない。だが、クラインにこんな危険な役目を頼むほど愚かな人物は、そう多くはないだろう。

 ラファーガと炎石が、ゆっくりとクラインへ歩み寄る。


「わかった、わかった! お前も怪我ひとつしてないんだ。水に流そう! 許してくれるなら教えてやる!」

 なんと言う傲慢。それを決めるのは私だ。

「いいわ。二度と私の前に姿を見せないで!」


「はぁ!? お前が俺に会いに来たんだろ。まあいい。絶望するがいい。お前が死んだら喜ぶのは、お前の姉、アカリだ!」

 私は何とも思わなかった。

 だが、私の護衛である二人の冒険者は、わずかに表情を強張らせていた。


「さあ、帰れ! ここは王族の屋敷だ! 勘当された娘の田舎執政官ごときが来ていい場所じゃない!」

 私は肩を落として屋敷を出た。


「くそっ、アカリにやられた」

 クラインの最後の一言で、胸につかえていた違和感が、ようやく一本の線へと繋がった。


「ワールドエンドに戻りましょう!」

 答え合わせの時間だ。


お忙しい中、拙著をお読み頂きありがとうございます。もしよろしければ、ご評価をいただけると幸いです。又、ご感想をお待ちしております。

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