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姉に全てを奪われた追放令嬢、辺境の村を再建します〜愛犬が転生した犬人少女と始める内政スローライフ〜  作者: 織部


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私を狙う者


 私はカウンターの隣の席を指さした。

「ここに座って」

 ラファーガは軽く頷き、すっと腰を下ろす。

「ところで、セラフィナたちは?」

「ああ、女騎士と黒犬と一緒に買い物へ出かけたよ。それに、セラフィナたちが来るような場所じゃないだろう。ここは闇ギルドだ」


「その通りね。それで、何か情報は得られたのかしら?」

 ラファーガは懐を探り、一枚のしわくちゃな樹皮紙を取り出して広げた。

「これだ。廃棄されていた」

 それは冒険者ギルドの依頼公告だった。

 私たちは顔を寄せ合い、樹皮紙を覗き込む。


――――――――――

【ワールドエンドの森 調査案内】

期間:必要に応じて

報酬:現金支給 一日につき金貨十枚

応募資格:中級冒険者以上(上級冒険者歓迎)

内容:依頼主と同行し、探索・護衛・荷運びを行うこと。

依頼主:王都森林調査会

信用度:A

――――――――――


「廃棄されていた? 依頼書なのに?」

「誰も受けなかったんだ。だから掲示期限が過ぎて処分された。報酬の高さが冒険者たちの間でも噂になっていたよ」

「報酬が高いわね。でも、依頼内容が怪しいって躊躇したのかな?」

 私がそう言うと、エレンは首を横に振った。


「こんな辺境地にいるのは、駆け出しの冒険者がほとんどよ。中級以上になれば、みんな王都へ出ていくもの。依頼を受けたくても受けられない者しかいないの。例外的に引退間近の上級冒険者もいるけど、彼らは慎重よ」


「まあ、そうよね。この地ならね」

 自然豊かな、穏やかな湖の町。だがそれしか無い。上を目指す冒険者は去るだろう。

 エレンは肩をすくめ、小さく笑った。話しながらも、彼女の手は止まらない。


 透き通る青空のような、美しい蒼のカクテルがラファーガの前に置かれた。

「頼んでないぞ」

「座ったからには、一杯くらい飲んでいただきます」

 ラファーガは苦笑しながらグラスを手に取る。

「……わかったよ。美味いな」

「今日は私の奢りです」

 エレンは嬉しそうに指先でテーブルを軽く叩いた。機嫌がいい時の癖なのだろう。


「それで誰か受けたの? 依頼主はどんな人だったの? 結局、誰も受けなかったから、闇ギルドにも話が回ってきたでしょ?」

 エレンは少し表情を引き締めた。

「それは闇ギルドの掟です。本来なら、お教えできません」


「でも、ウルフェンハルト家の者に手を出すことは許されないはずよ。依頼人の秘密を守る掟より、そちらが優先されるでしょう?」

 エレンの視線が私へ向く。

「シズカの話は本当だ」

 ラファーガは静かに言った。


「依頼主はワールドエンドの森へ魔道具を運び込み、魔物を操ってシズカを襲わせた」

 しばしの沈黙の後、エレンは小さく息を吐く。

「そういうことね。口止め代も貰ったけど、話をするわ。どうせもう二度と会わないでしょうし」

 やはり、冒険者たちに相手にされなかった依頼主たちは、闇ギルドにもやって来た。


「わざわざ足を運んだのか?」

「よほど困っていたようね。真の依頼主は、従者のふりをして来たけど」

「よくわかったわね?」

「だって、『殿下』って呼ばれていたし、従者の態度も主人に接するそれだったもの。それに、あの偉そうな物言い。隠す気なんてなかったわ」


 背筋に冷たいものが走る。思わず顔が引きつった。天敵と言ってもいい男。きっと奴だろう。

「誰かもうわかったわ。でも暇な人よね。他にすることが無いのかしら」

 ある訳が無い。無能さゆえに、何も任されていないのだ。


「ちょっと待て。殿下って。そいつは元婚約者の馬鹿王子のことか?」

 ラファーガが尋ねた。

「私の予想があってるならね。情報通のエレンギルド長、答えを教えて!」

「当たりよ。王国の王太子、クラインよ」

 その名が告げられた瞬間、予想していたとはいえ、頭がくらりとした。


 王太子が、婚約破棄した婚約者、しかも四大侯爵家筆頭の娘を暗殺しようとする。どこまで馬鹿なのだろう。

 炎石やラファーガたちは、敵が明らかになったことで怒り、今にも暴れそうな雰囲気だ。


「私は知らなかったのよ。ワールドエンドの森で魔物を使った大規模な実験をするのが目的だったなんて。時期が大事だから猶予がないって……」

 度胸があり場数を踏んでいるエレンですら、その雰囲気に怯えた。


「それで、依頼を受けた奴は?」

「いないわ。本当よ。嘘じゃないわ。こんな僻地にいる闇家業の奴らは、怪しい仕事には手を出さないわ。地図と道具を高く売りつけただけよ」

 怪しい仕事しかないのが闇ギルドではないのか――そう思わずにはいられず、私は小さく笑った。


「奴はどこにいる?」

「さあ……でも、ここは王族の避暑地よ」

「そうね。王族がこの避暑地へ来たなら、滞在先はヴァルターク王族の別荘しかないわね。行きましょう」

 私たちは席を立った。


「お代を!」

 無料だったのは、ラファーガだけだった。

「また、お越しくださいね。ラファーガ様」


 猫撫で声のエレンに見送られながら、私たちは闇ギルドをあとにした。


お忙しい中、拙著をお読み頂きありがとうございます。もしよろしければ、ご評価をいただけると幸いです。又、ご感想をお待ちしております。

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