残された遺物
王国騎士団の隊員は、ミズホを残して一度、ルーナの村へ戻ることになった。
「ミズホ、貴女は今、どこで寝泊まりしているの?」
「テントがあり、そこで寝起きしています」
「じゃあ、私の屋敷に部屋を準備するわ。客室もまだ空いているから。今後は騎士団から派遣してもらって、常駐する方向でカリオンとも話をしているの!」
ミズホは遠慮がちに頷いた。
「わーい、案内しまーす!」
クロエはミズホの手を取ると、テントの片付けと荷物を取りに向かった。本当に彼女は、どんな相手ともすぐに仲良くなる。
「ピクシア、ラファーガたちの部屋は?」
「はい。でも、セラフィナたちが隣の部屋を片付けて、勝手に飾り付けを……」
「構わないわ。だって、エルフたちの部屋は既にそうなっているじゃない」
「はい」
ピクシアはくすりと笑った。
エルフたちに与えた四部屋は、一時的に仕事部屋も兼ねている。そのため棚を増設したり、レイアウトを変更したりしていた。壁の色も明るく塗り替えられ、鉢植えの花や植物が並べられている。
「彼女たちには、住む場所へのこだわりがあるからね」
討伐隊時代、私はラファーガの部屋を何度か訪ねたことがある。
だが、それとは対照的だった。
灰色の壁に、必要最低限の家具と道具だけ。飾り気など皆無だったのだ。
「彼の困惑した顔が目に浮かぶわ」
そのとき、森の調査から戻ったラファーガの声が聞こえた。
「誰が困った顔をしているんだって?」
振り返ると、噂の本人が立っていた。
「ふふふ、どうしたの?」
「森で別れただろう。怪しい気配を感じたから追っていたんだ。だが途中で消えてしまった」
「怪しいって、魔物じゃなくて?」
「ああ。間違いなく人族だろうな。足跡が残っていた。それで見せたいものがある。来てくれ」
私はラファーガの馬の後ろに乗せてもらい、目的地へ向かった。
「珍しいわね。馬なんて」
「そうだな。良い馬だろう。実は馬は嫌いじゃないんだ。王都では飼いづらかっただけで」
優しく、馬を撫でる。
「そうなの、知らなかった」
彼の新たな一面を知った。
到着すると、ガストンとファイヤーストーン、それにプロストが待っていた。
「え? ここは何?」
「何が起こるか分からない。かといって、その場に放置もできない。だから森のはずれに簡単な処理場を作った」
そこには、かまくらのような小さなドームが建てられていた。
そして、その中心に置かれていたのはアダマンタイト色の小箱だった。
どう見ても人の手で作られたものだ。
だが、近づくほどに違和感が強くなる。
魔力は感じない。音もしない。匂いもしない。
箱の表面には見慣れない紋様が刻まれていた。文字なのか、装飾なのか、それすら分からない。
「これは何かしら?」
私は慎重に近づき、持ち上げようとした。しかし、まったく動かない。
「えっ?」
さらに力を込める。それでも一ミリたりとも浮かなかった。
「ははは、重いじゃろう! わしと兄者でやっと運べたくらいじゃ」
ガストンが胸を張って笑う。
確かに、この大きさからは想像もできないほどの重量だった。
「私の専門ではないので詳しくは分かりませんが、王国大学の宝物庫で似たものを見た記憶があります」
プロストが言った。
「何なのですか?」
「一度見たきりですので断言はできません。専門外でもあります。ただ、宝物庫にあったものと同じだったように記憶しています。倉庫番に問い合わせてみましょう」
ベテラン冒険者であるファイヤーストーンも知らない。
エルフも知らない。ドワーフも知らない。
そんな物を、なぜ誰かが魔物の森へ持ち込んだのか。それとも、持ち去ることができずに置いていったのか。
「そうしてください。魔物の森へ入るのに許可は必要ありませんが、一体誰なのでしょうか?」
「逃げ足の速さから考えて、それなりの手練れの集団だろうな。方向的にはルーナの町だ。まあ、行ける場所はそこしかないがな」
ワールドエンドはエレベス山脈に囲まれている。
その険しい山脈を越えるのは、一流の冒険者ですら容易ではない。
「それじゃ、わしは作業に戻る」
ガストンには鍵を作るのをお願いしている。
「進捗はどう?」
「魔石に細かな刻印を刻まないといけない。これに時間がかかる。一週間と約束したが……」
「無理はしないで。カリオンが出てくるかもしれないし……」
私は空を見上げた。
胸の奥から、嫌な予感が離れない。
何も問題が起きていないのなら、彼はとっくに帰ってきているはずだ。
「細かな作業ならば、我らエルフ族の得意とするところ。作業を見せてくれないか? 手伝えるかもしれない」
「ああ、今や隠し事などしない。見てくれ。セラフィナに馬鹿にされるのが癪だがな」
全員で顔を見合わせて笑った。
そしてガストンの作業場へ向かう。
説明を聞き終えたエルフたちは、刻印の施された魔石を手に取った。
「繊細な彫刻ですが、それほど難しくはないと思います」
「そうか。じゃあ、お願いしてもいいかな?」
「はぁ、本当、鉱人というのは不器用ね」
予想どおりのセラフィナの言葉に、私は思わず微笑んでしまった。
お忙しい中、拙著をお読み頂きありがとうございます。もしよろしければ、ご評価をいただけると幸いです。又、ご感想をお待ちしております。




