ワールドエンドの闇
「心配だけど……カリオンは安全ってことで合ってる?」
「ピィー」
ゼルフィードは、問いに答えるように鳴いた。
「ありがとう!」
ゼルフィードは羽ばたくと、役目を終えたと言わんばかりに飛び去っていった。
ここに居ても何もできない。
「又、来ましょう」
「ですが……」
ミズホは不満げだ。
「彼は無理をするから心配よね。鍵を作ることは出来ないかな? ガストン」
「それなら、数日くれれば出来る。作り方がわかったからな」
「でも、大きな魔石が必要なのよね?」
「それなら、安心しろ。エイトラから預かってるやつがある。わしも奴に騙されてばかりじゃない」
私たちは、探鉱から帰還することにした。
「入り口を閉じておこう」
炎石が魔術で、石の柵を作る。
「シズカ、少し気になるものを見つけた。先に帰っててくれ!」
「じゃあ、私も行きます。お姉様」
「気をつけてね!」
ラファーガとセラフィナと別れると、砦に立ち寄った。
「慣れない森を歩いて疲れたでしょう? 足を治療してあげるわ」
炎石の背中から下ろされたミズホに、私は言った。
「これくらい、ポーションを飲めば」
「ううん、ポーションはどれくらい弱くても劇薬よ。出来るだけ飲まない方がいいの。冒険者たちもそうしてるの。薬を塗ってあげるわ。私も最初そうだったから」
「でも……」
「遠慮はいらない。こっちよ! これは順番なの」
私は、寝室に彼女を招き入れて、慣れた手つきで、彼女の皮膚の裂けた足を洗い、薬を塗り包帯を巻いた。
多くの冒険者にそうしてきたし、私もエレノアに看護してもらった事がある。
「もし、又魔物の森に入るなら、服装を選んであげるわ」
「ありがとう……」
素直に頷くミズホ。
「少し休んだら、執政官邸に戻るわ」
クロエが呼びに来たので、彼女に後を任せて、カーティス達が待つ応接室に向かった。寝室からは、ミズホとクロエの楽しそうな会話が聞こえてくる。
「さすが、クロエね。誰とでもすぐに仲良くなるな」
応接室に入ると、書き込みのある地図が広げられていた。
「何かわかりましたか?」
「はい。情けのないお話ですが、調べてやっとわかった事があります」
カーティスは説明を始めた。
簡単に言うと、数十年に一度必ず、魔物がワールドエンドへと侵入してきた。侵入してくる場所は、決まってこの砦の近く。ワールドエンドの中部。
「今、ワールドエンドの中部にいる領民は、前の侵入があった後の入植者がほとんどだ」
「わしも知らんかった。そんな土地だと知っていたら移り住む者も減ったろうな」
ロン爺が呟いた。
「じゃあ、前の住人はこの地を売って逃げたのかしら?」
「いや、前の住人は死んだと聞いた。理由は知らなかった」
酷い話だ。中央部に住む新しい住民は囮になる。
執政官邸は、ワールドエンドの中ではルーナへ通じる道の近く、東部に外れ。すぐに逃げられるように建てられているのだ。
「ヴァイスウルフェン家あたりの古くから住む家の防柵が高いのは、風だけじゃないのね」
「そのようです。不勉強でした。それとこの砦。ミラーが造ったものではない。元々古くからあったのだ」
「魔物防衛用に建造された要塞なのね」
魔物が大量に出た時、ウルフェンハルト侯爵家から派兵されて、東西から掃討作戦をとり、この砦で合流して、魔物を森に押し戻す。
過去に何度か行われた作戦が古文書には書かれていた。
――そんな規模の戦いが必要だった。
そしてこの地を研究し尽くしただろうミラーの意図がやっとわかった。
「父から一言もこの話は出なかった。どういうつもりなのかしら」
知らなかったのか、それとも私が厄災は発生して頭を下げるのを待っているのか。一瞬私の頭をよぎった
「少し気になったのですが、過去には集団で領地に侵入してきたという記録はありませんでした」
「ええ、異常な行動よね。わかってるわ」
「それと、強力な個体が多くこの地に侵入したと言う記録があります。これから本格的な侵入が起きるのでしょうか?」
その点には心当たりがあった。
「炎石おじ様、どう思われますか?」
「森は静かだった。他の森と比較しても、強力な魔物の気配は無かった。強力な魔物は探鉱でたくさん死んでたな」
そう、数十匹、いや正確に数えてはいないが、百匹近く。
カリオンが一人で身を挺して戦った。無理を重ねて。
「今回の侵入はもう起きないかもしれない、でも警戒体制はしばらく解かないで行きましょう」
※
打ち合わせを終えると、久しぶりに執政官屋敷に戻ることにした。
「執政官様、お帰りなさい!」
「ご無事ですかぁ!」
獣人族を始めとした領民たちの出迎えを受けた。
「主様はお疲れです。ご挨拶は致しませんよ!」
クロエが仕切る。私は大人しく従い、屋敷に入った。
「ラファーガと炎石のおじ様の部屋を準備してください!」
「それなら、すでに準備してあります」
「順番が逆になってしまいましたが、おじ様。私の警備をお願いできますか?」
炎石は笑みを浮かべながら頷いた。
「この地に住むつもりで来たからな。喜んで引き受けよう」
私は彼に手を差し出した。
その大きな手が私の手を包み込む。
討伐隊時代から幾度となく握ってきた、懐かしく頼もしい手だった。




