長い眠りのあと
私は、みんなに見守られながら食事をした。
まるで撮影中の映画のワンシーンを演じる女優になったような気分だ。私には少し量が多かったが、どうにか最後まで口へ運んだ。残すことなど許されない雰囲気だった。
「ごちそうさまでした」
私が空になった皿にスプーンを置くと、クロエが満足げに頷く。
そして、まるで監督が撮影終了を告げるように、クロエが言った。
「それでは、主様はお着替えをされますので」
騒がしいエルフ達を部屋から追い出すと、代わりにピクシアが洗濯された服を一式持って入ってきた。
「シズカ、心配したよぉ!」
綺麗に畳んだ服をベッドに置くと、私に抱きついてきた。
彼女達は、人前では主様とか執政官様と呼び、こういう時はシズカと呼ぶ。
「離れなさい! ピクシア!」
クロエが怒る。
「ずるい! クロエばっかり甘えてる!」
「違う。私はシズカのお世話をしているだけ。エレノア様にも炎石様にも頼まれた」
「ありがとうね、二人とも。じゃあ、支度を始めましょうか」
ピクシアを優しく引き離すと、ようやく着替えを始める。
私は、他人に手伝ってもらって身支度をするのが好きではない。むしろ苦手だ。
「まるで何もできないお嬢様みたいだし、討伐隊ではそんな甘えは通じないから」
過去には、そう言って世話を断っていたことも、今では笑い話になっている。
甲斐甲斐しく世話をしてくれる彼女達を拒めば、悲しませることくらいは分かっていた。
「椅子にお座りください」
エレノアの教育を受けた彼女達に髪を梳かされるのは気持ちが良い。
「何をしてるの?」
「長い髪をそのままにしておくのは、戦いの時に危険ですので……」
二人は顔を見合わせて笑っている。
嫌な予感がした。
「さあ、できました」
鏡を見た私は思わず声を上げる。
「ツインテール⁉︎」
「子供じゃないんだから!」
思わず抗議の声を上げた。
子供の頃から、姉のアカリはツインテールで、私はポニーテールだった。
だから私の中では、ツインテールはアカリの髪型だ。
今さら自分が結ぶなんて、何だか姉の真似をしているみたいで落ち着かない。もう子供でもないのだから。
「セラフィナ様と同じですよ!」
「そうです。とてもお似合いです」
二人は満足そうに頷いている。
鏡を見れば、そこには見慣れない自分の姿が映っていた。
「ねえ、ピクシアはいつ来たの? 昨日? 夜遅く?」
「どうもシズカは誤解してるみたい」
クロエ達の話を聞くと、どうやら私は二日以上寝ていたらしい。
ポーションは精神に大きな負担をかける。人の自己防衛本能は、眠ることで精神力を回復しようとする。今回、私が飲んだのは最上級のポーションだ。反動も大きい。
だが、冒険者達は飲んでも仮眠程度で済む。そのため影響の度合いを見誤っていた。化け物じみた体力と気力を持つ彼らとは違うのだ。
「さあ、完成です」
お人形遊びを終えた彼女達の許可を得て、私はようやく部屋を出た。
だが、屋敷の中は暗く静まり返り、領民達の姿が見当たらない。
「昨日、避難を解除した。もちろん、魔物の森を調査した結果だ」
階下から声をかけてきたのは、炎石だった。
「おじ様、ありがとうございます。護衛の依頼を送ったばかりなのに、すぐ来てくれたのですね?」
「依頼? それは受け取っていないな。既に家を出ていたからな。わしは隠居の地としてお前の領地に住もうかと様子を見に来たんだ」
「私の領地ではありませんが。それなら運がよかったです」
「ははは、間違いない!」
運の良さ、それが生き残る為に一番重要なことだ。私たちはそれをよく知っている。
炎石の隣には、ガストンが仲良さげに立っていた。
「残念だわ。感動の再会に立ち会えなくて」
「何年、いや何十年ぶりに会って色々話をさせてもらった」
「酒を飲んで、喋っていただけだ」
二人は歳をとり、お互いの考えや思いを認め許せるようになったのだと言った。
一人は、古の鉱人の魔術を使える孤高の冒険者として高みにのぼった。もう一人は、探鉱家として有名な一族を率いた。
それぞれの長い旅の末、二人は同じ場所に辿り着いた。
「良かったわ」
私は、兄弟が分かり合えたのを羨ましく思った。
私には無いものだ。
「他の方もお待ちです」
クロエが、応接室を指差した。
「ああ、そうだ。そろそろシズカが起きる頃だと思って、主だった者達に来てもらっている」
「はい、執政官としての仕事を再開します」
応接室には、私が予想していたよりも、多くの人が参加していた。
ラファーガもセラフィナもプロストもいる。領民代表として、ロン爺も。さらに、ヴァイスウルフェンからも家主のカーティス、それと王国騎士団の騎士達もだ。
王国騎士団の団員の中の一人は、ルーナの駐屯所で、私たちを睨んでいた女の団員だった。
どうやら、私が眠っている間に事態は大きく動いていたらしい。
「それでは、早速だけど。今の状況を教えてください!」
「昨日から、わしとラファーガで森を歩いてきた。その報告をしよう!」
炎石が口火を切った。
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