表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
姉に全てを奪われた追放令嬢、辺境の村を再建します〜愛犬が転生した犬人少女と始める内政スローライフ〜  作者: 織部


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
69/85

懐かしい風


 残された配下のホブゴブリンたちも苦悶の表情を浮かべながら、足を引きずり逃げ出そうとしていた。

「クロエが……クロエが攫われてしまう」

「……」

 炎石は答えない。

 私の声が届いているはずなのに、他のホブゴブリンの排除に意識を集中している。


「ねえ、お願い、おじ様。私の大切なクロエが……」

 剣士は森の入口へ、あとわずかというところまで後退していた。

 あそこへ逃げ込まれれば、探し出すのは困難になる。


「ああ、安心しろ。奴の出番も必要だからな」

 その言葉と同時に、手下のホブゴブリンたちはすでに地面に倒れ、全身から血を流し動かなくなっていた。

 剣士が森へ逃げ込もうとした、その瞬間。突風が吹いた。


 森の木々が倒れかねないほどの強風。

 枝葉が千切れ飛び、夜の森が唸り声を上げる。

 セラフィナ――いや、彼女の魔術すら遥かに凌ぐ風魔術。

 剣士の身体が、軽々と宙へ浮く。

 まるで小石でも持ち上げるかのように。


 がしゃり。

 ホブゴブリンは怯えながらも、人質であるクロエを離すまいと網を握りしめていた。

 だが風の刃が網を切り裂く。

 その魔術の軌道は、私の目にはっきりと見えた。

 あまりにも鮮やかで。あまりにも懐かしい。


 クロエが空からゆっくりと落ちてくる。

 風に包まれ、守られるように。

「ほらよっ」

 炎石が片腕で、落ちてきたクロエを受け止める。

 まるで全て分かっていたかのように。


「はぁ……助かったぁ。シズカぁ、薬飲まないと!」

 クロエはそのまま飛び降りると、私の側に来て頬を寄せた。

 温かい。

 その温もりに、胸を締め付けていた不安がようやくほどけていく。


「おじ様に貰ったわ。心配しないで」

 私の体は、最上級治癒ポーションによって回復しつつある。

 それは、戦いの最中、炎石が私に与えたものだ。

 私は、鉱人に背負われると空を見上げた。


 空には、二つの影。

 片方は、ホブゴブリン。

 そしてもう一つは、マントを羽織ったエルフらしき男。

 その風を、私は知っている。忘れられるはずがない。

 どんな窮地でも、私を守ってくれた風。


「ラファーガ 貴方なの?」

「久しぶりだな、シズカ。間に合ってよかった」

 彼の優しい声が、風に乗って私の耳に届けられた。

 たったそれだけの言葉なのに。涙が出そうになる。


「我が友シズカを傷つけた者は許さない」

 一転して、怒りを露わにして魔物を睨みつける。

 空中にできた風の監獄。

 ホブゴブリンは届かぬ剣を振り回し、足掻き、咆哮を上げる。


「うるさい奴だな。静かにしろ!」

 ラファーガが手を振る。

 ホブゴブリンは最後の力を振り絞るように咆哮した。

 風の監獄が激しく震える。


「ほう。まだ足掻くか」

 ラファーガが僅かに目を細める。

 次の瞬間、風の監獄はさらに強固なものとなり、その身体を完全に拘束した。

 そして、そのまま遥か上空に昇っていく。悲鳴だけを残して。


 炎石の鉱人が、手を挙げる。

 地面から、剣山のような岩槍が一面に突き出した。

 次の瞬間。

 ホブゴブリンは、つんざく悲鳴とともに落下する。

 逃げることも、抗うことも、許されないまま。

 岩槍の上へ叩きつけられた。

 悲鳴と呻きが、暗い空へ溶ける。


「死んだら、耐性も無かろうて」

 剣士の肉体と、部下の死体は、炎魔術に焼かれた。

 赤い炎が揺らめき、やがて何も残さず呑み込んでいく。

 彼らは、普段こんな殺し方はしない。


『人の地への侵入の報い』

 森に潜む聡い魔物への警告だ。

 二度と同じ愚を犯さぬように。


「家はどこだ?」

 炎石が、私を担ぎ背負った。

「私が案内します!」

 クロエが、臭い匂いに顔を顰めながら、前を歩き出す。


「歩けるのに……」

 私は恥ずかしかった。なぜなら、ガストンたちドワーフが救援に到着してこちらを遠くから見ていたからだ。

「構わん。それよりも、あのドワーフたちは? いや、奴ら見覚えがある」


「それはそうよ。貴方の弟のガストン家よ。私の領民になったの」

「何だって! ドワーフを領民に……いや、シズカなら驚くことでも無いな」

 炎石の鉱人は、頷く。


「ガストンはどこかしら? 姿が見えないわね」

「隠れてますよ。さっき見つけましたから」

 クロエが振り返りながら言った。

「感動の再会をすれば良いのに……」

「合わせる顔が無いんだろう。主人を危険な目に遭わせた」


「違います、おじ様。彼らは、領民。本来ならば危険な戦場で戦わせてはいけないのです。私の力が足りないばかりに……」

 ファイヤーストーンは、優しく私の頭を撫でた。

「ありがとう。シズカ。実は合わせる顔が無いのは、わしの方だ。俺は長兄なのに家を捨てた」


「ええ、知ってるわ」

 私と炎石とは、身の上話をしあうほどに仲が良かったから。

「ここで再会出来たことは、神の導きだ。自ら奴らに、ガストンに、会いに行く勇気は無かったからな」

 今度は、私が炎石の頭を撫でた。


「彼らと話をしていてわかったことがあるの。おじ様は、彼らにとって英雄なのよ。すでに伝説の冒険者の炎石の鉱人に、失礼な言い方かな」

「シズカ、お前にかかると、冒険者は、伝説の冒険者だらけになるな」


「そうかしら……」

 会話をしていると、執政官の別邸であるドワーフの砦に着いた。

「あれ? ラファーガは?」

 彼の姿が見えない。


「それなら、心配に及びませんよ。そこに!」

 クロエが指差す先、砦の偵察塔に、腰掛けていた。

 彼はいつもそうだ。気付けば近くにいて。

 ああ、ああやって守ってくれているのだ。


お忙しい中、拙著をお読み頂きありがとうございます。もしよろしければ、ご評価をいただけると幸いです。又、ご感想をお待ちしております。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ