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姉に全てを奪われた追放令嬢、辺境の村を再建します〜愛犬が転生した犬人少女と始める内政スローライフ〜  作者: 織部


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ウルフェンハルト侯爵 2

父 ウルフェンハルト侯爵視点です


 問題に肩がつくと、侯爵は手持ちぶたさになった。

 屋敷は、アカリの部屋を中心に慌ただしく、家にいるのも肩身が狭い。居場所が無い。


「出かけるとするか……」

 執事長代行に声をかけようとしたが、彼も忙しそうに仕事をしている。

 侯爵は、ようやく御者を一人見つけ、出かけることにした。


「王城に行ってくれ!」

「わかりました。その方面に伝令も受けておりますので、早速出かけましょう」

 アカリの謎かけ話と、嘲笑は彼の心を傷つけた。

 誰よりも、人の機微に敏感な彼女のことだ。わざとだろう。


「姉妹揃って、酷い娘たちだ」

 そう口にしながらも、その言葉が妙に軽く響いた気がして、侯爵はわずかに眉をひそめた。女の、ましてや娘の気持ちを知るのは難しい。

 供を連れずに、外出するのは久しぶりのことだった。


 部屋の片隅に、埃をかぶっている剣を腰に差したら、気力が湧いてきた。かつては、これ一本で戦場に立ち、己の判断で状況を切り開いてきた。

 自然と胸を張った。

 会議も使節も来ないその日の王城は、とても静かだった。


「今日はどのような御用ですか? 侯爵会議も無く、国王もおられませんが……」

 警備の王国騎士団が声をかけてきた。

 別に、何かを疑っている訳ではない。退屈で雑談を仕掛けてきたのだろう。


「役所にでも顔を出そうと思ってな。ところで、カイゼン子爵はおるのか?」

「はい、ご案内します」

 騎士団員たちと、カイゼン子爵は武器庫で武器の手入れと掃除をしていた。


「これは、ウルフェンハルト侯爵、どうなされましたか?」

「いや、お前こそ何をしているんだ?」

「魔物討伐も一段落したので、雑用ですよ。いつも多大なる援助感謝しております。お茶でもいかがですか?」


 カイゼンは警戒しているようだ。

「ああ、そうだな……少し話を聞きたい」

 何か要件があった訳ではないが、暇つぶしとは言えない。

「魔物討伐のことだ? 一段落をしたと考えて良いんだな?」


「はい、既に冒険者の応援は受けていません。その事は先の国防会議でもご報告しましたが……」

「ああ、そうだったな。心配性でな」

 軽く笑ってみせたが、自分でもその言葉が場を取り繕うためのものだと分かっていた。彼は疑いの目を向ける。


「ところで、シズカをワールドエンドに追放したと噂になってますが?」

 娘を呼び捨てにしているのは、彼がシズカと仲の良い証拠だろう。魔物討伐隊の一員だったからだ。

「追放ではない。執政官として一時的に赴任してもらった」


 カイゼンの棘のある言葉に反論し、彼を睨んだ。

 事情は、王国の貴族なら知っているはずだ。第三王子に婚約破棄された者を王都に住まわせてなんておけない。罰とも言えぬ処分だ。ほとぼりが覚めるまでの。


「なるほど、これは失礼しました。あえて飛地の難しい地で執政の経験を積ませる。深慮には頭が下がります」

「そんな……」

 褒め言葉のはずなのに、どこか皮肉に聞こえるのは気のせいかと、侯爵はわずかに目を細めた。

 大きな体を近づけて、耳元で小声で、カイゼンが話す。


「第三王子との婚約破棄も仕組まれたのですよね?」

「……いや、つまらぬ妄想はするものでは無い」

 王族並びに四大公爵家の結婚は全て、国王が考えて決める。くだらない謀略を張り巡らすのは、ウルフェンハルト家には似合わない。


「ドラゴンの夫が、インプじゃ務まりませんからね。是非、我が息子も婚約者候補にして頂きたい。知恵は足りんが勇敢に育てたつもりです」

 シズカがドラゴン……。侯爵は、堅物で生真面目なカイゼンの冗談が理解できなかった。


「ゼルフィードは空に飛び立った」

 思わず、アカリの比喩で返した。

「なるほど、それは、好きに射止めろという事ですね」

 真剣な顔をしているカイゼンを見て侯爵は逃げるようにその場を後にした。


「それほどの子だと言うのか……さて、御者はどこだ?」

 役所の中を伝言を持って回っている御者を呼びに、王城から役所に続く中空の廊下を歩く。いつもの侯爵には見られない行動だ。


 そこから、階下に、広い一階の事務所が見渡せた。

 役人たちが蜂の巣を突いたような騒ぎの中、急ぎの仕事を必死にやっている。

 ――だが、どこか違う気がした。


「資料は準備出来たか? 馬車を回しておけ!」

「ああ、なんとかなる。しかし、ウルフェンハルト家の使いも、すぐに持ってこいとか酷くないか? シズカ様のお姉様が依頼主だとか」

 両手に書類を抱えて、役人たちが入り口に向かって走っている。アカリが役人たちを屋敷まで呼び寄せているのだ。


「あの高慢で傲慢な者たちが、慌てて出向くなんて……ウルフェンハルトの威光…」

 そう口にしながらも、わずかに違和感が残る。

「だが、シズカ様の耳に必ず届くだろうよ!」

「それなら、やる価値はあるな。喜んでくれるだろうな」

 その言葉に、侯爵はわずかに目を細めた。


 命じられたから、ではない――そんな響きだった。

「ワールドエンドの特産品が山ほど届くかもな」

「負担をかけてしまうな!」

「そうなったら、特産品をどうやって売るかを考えてやろう!」

「だが、良い案はシズカ様が出すに決まってるよ」


 その場に流れる雰囲気に、侯爵は驚きを隠せない。

 ――あの娘への親愛

 楽しげにすら見えるのは、気のせいか。


 そう言えば、シズカが役所に頻繁に顔を出していたことを思い出した。だがそれだけとは到底思えなかった。


拙著をお読み頂きありがとうございます。もしよろしければ、ご評価をいただけると幸いです。

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