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姉に全てを奪われた追放令嬢、辺境の村を再建します〜愛犬が転生した犬人少女と始める内政スローライフ〜  作者: 織部


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神鳥は巣を結び、山は歪む


 再び、私の頭上を旋回しながら、何度も短く鳴く。

 キュルルル――その声は、どこか落ち着かない。まるで、何かを急かすように。


 風が、ざわめいた。ただの風ではない。肌を撫でるその流れの奥に、わずかな乱れが混じっている。

 ゼルの視線は、はるか遠く――エベレスの山を捉えている。

 その瞬間、胸の奥が、はっきりとざわついた。

 ただの再会ではない。


 ――あの山は、何かがおかしい。魔力の流れが、かすかに歪んでいる気がする。

「わかってるわ。大魔熊が縄張りを離れてたから!」

 私が頷くと、魔鳥は執政官屋敷の屋根へ舞い降りた。


 ゼルは一瞬だけこちらを見て――すぐにまた山へと視線を戻す。

 次の瞬間、森からもう一羽の鳥が近づく。

 ゼルの隣に並んで脚をつけ、仲良く体を寄せ合う。


 羽をすり寄せる仕草は愛らしく、ほっとする光景だ。けれど、その羽先がわずかに震えているのを、私は見逃さなかった。


「あら、番を見つけたのね。おめでとう!」

 思わず声が弾む。

 南の森から渡ってきた魔鳥は、エベレスの麓の森の異常さに気づき、避難してきたのだろう。

 安全な場所を探して、そして私と再会した――そう考えるのが自然だ。


 私が屋根から目線を戻すと、その地にいる全員が、集まってきて屋根を眺めていた。

 ざわめきはあるのに、不思議と誰も大声を出さない。神聖なものを前にしたときの、あの空気だ。同時に、声を潜めてしまうような、恐れも。


「シズカお姉様、あの鳥はゼルフィードですよね?」

 セレディナが、そっと声を潜めて尋ねる。

「ええ、そうよ」

「エルフにとって、あの魔鳥は神の使い。深き森に住み、人を嫌います。私たちですら滅多に姿を見られないのに……それを、こんな近くで……」


 言いながら、彼女は胸の前で手を重ねる。

「しばらく、ここに住むよ! 巣を作ると思う、たぶん」

 軽く言ってみせると、


「……さすがお姉様です。ゼルフィードと心を通わせる方は、やはり違います」

 セレディナは、半ば呆れたように、それでもどこか誇らしげに微笑んだ。

 彼女以外のエルフたちは、両足を地面につき、両手を合わせて魔鳥に祈りを捧げている。


 ゼルフィードを保護していたことを知ったラファーガにも、

『ありがとう、シズカ。貴女に感謝を』と言われたことを思い出した。

「美しいですぅ、近くで見よう」

 クロエが目を輝かせ、壁に手をかけてよじ登ろうとする。


「やめなさいよ! 怒られるわよ」

 ピクシアが慌てて袖を引く。

「ありゃ、森人の守護獣だ。そんなことすりゃ怒られるぞ!」

 ガストンもクロエを掴んで離さないが、その目はしっかりと鳥に釘付けだ。


 まったく、何をやってんだか……。

 思わず苦笑が漏れる。

 ドワーフや獣人族も、魔鳥の美しさと神々しさに見惚れている。

 誰もが目を奪われているのに――誰一人として、完全に気を緩めてはいなかった。


「こんなこともあるんですね」

 エレノアが穏やかに言い、

「ええ……だが、理由があるはずだ」

 レオナールは静かに続け、その視線は鳥ではなく、遠くの山へと向けられていた。


 まるで、そこに答えがあると確信しているかのように。

 私は、周りの会話を聞きながら、再会が出来たことを喜んだ。

 けれど――胸の奥のざわつきは、消えなかった。


これが執政官の苦しみなのか?

 幾つもの課題を抱えながら、過ごしていかないといけない。

 私から見ても、統治者に向いていない父の苦しみが、少しわかった気がする。


 歴史を持つ筆頭公爵家の当主の重責。片腕であるレオナールは私の元に来ているし。

「でも、アカリがいるからね」

 解放されたクロエが側にいて、思案している私の発言に口を挟んだ。


「アカリ? よくわかりませんが、シズカ様には私がいます」

「そうね。さ、行きましょう」

 魔鳥は、屋根に巣を作り始めていた。

 私たちは、朝食をとると、ガストンと打ち合わせをした。


「採掘を続けるのは構わない、でも一時的に退避して欲しいの。危険だわ」

「ああ……それは感じている。だが生活が出来ない。奴らを喰わせていくのが、家主の務め。新しい場所も簡単に見つけられなし……」


「それなんだけど……」

 私の考えを説明した。

「元々、ガストンのところを訪ねたのは、二つの理由があるの。一つは住民の集会をするから参加して欲しい。もう一つはミラーが不正に徴税していたお金を返金する為よ」


「わしらを、領民と認めてくれるのか? そんなこと初めて聞いた」

「それが一般的かも。でもこの地では領民よ。納税して、五年もこの地にいるんだもの。嫌なら……」

「いや、流浪の民である我らを領民と認めると他の住民が反対するじゃろう?」


「ここはワールドエンドよ。流れてくる人々が多いの。それを受け止める土地柄よ。もちろん、嫌になったら他に移っても構わないわよ」

 ガストンは、信じられないという顔をして、レオナールを見た。


「この地の執政官は、シズカお嬢様です。その決定はこの地の法です」


お忙しい中、拙著をお読み頂きありがとうございます。もしよろしければ、ご評価をいただけると幸いです。

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