満ち足りた夜、目覚めの朝
それから、ガストンと話し合いをした。レオナールにも参加してもらった。
「……という事情なのです」
「わかりました。貴方達に罪はありません。カリオンも同行しているので問題無いでしょう」
「カリオン? あの強い戦士ですか?」
つい、いつもの癖で呼び捨てにしてしまう。
「あ、カリオン様ね。王国騎士団ルーナ分隊長なのよ」
「……てっきり護衛の者かと思っておった。態度がデカいし、強いから冒険者上がりと」
「ははは。それよりも、地下洞窟の採掘は?」
「鉱夫たちに話を聞いたところ、本格的な採掘は始めたばかりのようじゃ。ただ、すでに大きな魔石はいくつか掘り出して、それはエイトラが回収したようじゃ」
あとは私たちの仕事だ。きっと、すでにトリスの元に渡っているだろう。
さて、これからどの手を取るか――。
そう思案したところで、扉を叩く音がした。
あの叩き方は、クロエだ。私は遮音魔術の魔道具を停止する。
「何かしら?」
「主様、食事の準備が出来ました」
……その声には、
「お腹が減った。早く食事にしよう」と言っているような響きがある。
もちろん、エレノアの差し金だろう。
「わかったわ。今いく! ガストンもよ!」
「久しぶりのまともな食事にありつけるな。じゃが、わしのようなものが……」
「気にしないで! 酒を振る舞うって約束したでしょ」
食堂には、いつもよりもさらに豪華な食事が並んでいた。
そして、我が屋敷のルール。全員での食事。
「クロエ、つまみ食い我慢した。えらい?」
「そうね。えらいわね。今日は頑張ったから好きなだけ食べなさい!」
「シズカ様もですよ!」
エレノアにぴしゃりと釘を刺される。
私の魔力のことには箝口令が敷かれている。だから、誰も洞窟の話題には触れない。
代わりに、酒で陽気になったガストンが、過去にあった面白話を語り出した。
「ふん! 鉱人の法螺話なんて!」
そう言いながらも、セラフィナは酒を飲みつつ楽しそうに聞いている。
その様子は――まるで、魔物討伐隊の打ち上げのようだ。
活躍した者も、活躍しなかった者も。そして、私のような随行員も関係ない。
分け隔てなく、無事を祝い、同じ卓を囲んで笑い合う。
……悪くない時間だ。
「もう、お腹いっぱい」
「それでは、別腹の物をお出しします」
エレノアが運んできたのを見て、思わず目を見張る。
「え、何でこんなに大きいの?」
しかも三段になっているティアードケーキだ。
「好きなだけ食べられるでしょう! 三段とも味が違いますよ!」
完全に逃がす気がない。
「ここにいない人たちにもお裾分けを……」
「それは、シズカ様が満足してからです!」
にっこりと笑って、逃げ道を塞がれた。
「……わかったわ」
その結果――
動けないほど満腹になった私に、急激な眠気が襲ってきた。
※
私は夢を見た。
地下神殿での採掘場。
何者かが、私に話しかけてくる。
『私に会いに来なさい! お前を目覚めさせたろう? 待ってる』
体が重い。体を動かそうとしても、抑えられている。
私は瞼を必死に開ける。
「はぁ、貴女たち……」
私の体の上に、クロエとピクシアが乗っかって寝ていた。彼女たちを優しくのけて、私は立ち上がった。
そして、クロエのはめている防御の指輪に、魔力を込める。
指輪は、魔力を受けて光を放つ。
「良かった。夢じゃなかった」
それから、窓にかかるカーテンを手で持って少し開ける。雄大なエベレス山脈と外に広がる緑を眺める。
ふと、屋敷の裏にある訓練場からの音が耳に入る。
「ダメじゃ、踏み込みが甘い。どんな場合も躊躇をするな!」
そこには、必死に剣を振っているグレイと、それを指導しているレオナールの姿があった。
「あれ、もう起きられたのですかぁ」
二人の子供は、白い寝衣のまま、同時に起きてベッドの上に座ってこちらを見ている。まるで天使だ。
「そうだ、ガストンはどうしたのかしら? 話が途中だったわ」
きっと、エレノアに部屋を与えられたはず。
「それなら、下の広間に転がってますよ。いびきが聴こえますから」
クロエが答えた。
私たちは着替えると、部屋を出た。
「本当だ、豪快ね!」
酒瓶を大切に抱えて眠っている。その足元にも大量の酒瓶が転がっている。
ドワーフの飲む量を見くびっていた訳ではないが、約束なんてするものじゃない。
「主様、問題ありませんよ。エレノア様が、最低ランクの酒だと言っていたので」
「起こして。彼と話があるの」
「わかりましたぁ、爺ちゃん起きて!」
ピクシアとクロエが起こしている間に、私は井戸の冷たい水で顔を洗おうと、屋敷を出た。
その時、大きな一羽の鳥が急降下して、私に近づいてきた。
美しい羽根を羽ばたかせ、鋭い目で私をとらえる。
キュルルル、キュルルル
嘴から、独特の鳴き声をあげる。
人に使役されている賢い魔鳥だ。
狙いは私。
「シズカ様、逃げて」
「危ない、しゃがんで」
朝食の準備をしていたテント村の獣人族が驚いて、叫んだ。
私は逃げない。
魔鳥は、私の肩に上手にとまった。
「久しぶりね! ゼルフィード!」
私は、その鳥の頭を撫でた。




