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姉に全てを奪われた追放令嬢、辺境の村を再建します〜愛犬が転生した犬人少女と始める内政スローライフ〜  作者: 織部


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結界修復


「ああ、本当に魔力があるわ」

 私が、結界石に触れると、石が点滅の光を灯す。体内から、溜め込んでいた魔力が流れ出す感覚がある――いや、それだけではない。


 どこまでも底が見えない井戸から汲み上げているような、不思議な感覚。

 やがて結界石は、もう充分だと言わんばかりに赤く輝き、私の魔力の流れは止まった。


「主様、具合はいかがですか?」

 クロエは、心配げに私に付き添っている。

「ええ、問題無いわ。受け持ちはもう一つね。やりましょう!」

「ですが……無理は禁物ですよぉ」


 対面にいるカリオンとセレディナの様子を伺う。まだ魔力を流しているし、顔色は良くない。額には汗が滲み、呼吸も浅い。

 まさか、膨大な魔力を持つ二人と比較してもこれほど私の魔力が多いとは……。


 自分でも信じられない。

 ――魔力を流しているはずなのに、減っている感覚が無い。どれだけ使っても、底に触れる気配すら感じない。


「いいえ、むしろ体が軽くなった感じがするわ」

 私が二つ目の結界石へ魔力の補充を終えた頃、二人は結界石にもたれて座り込んでいた。

「悪い、もう限界だ」

「私もです。しばらく魔力を使いたく無い……頭の奥が焼けるみたいで」

 負けず嫌いの二人からの泣き言に思わず笑ってしまった。


 ポーションで魔力を無理に回復しているセレディナは特にきついだろう。精神力が削られているのだろう。そんな状態なのに、彼女は私に微笑んで言った。


「シズカお姉様、やはり、わたしの見立て通りでしたね」

「ええ、貴女が教えてくれなければ気づかなかったわ」

 カリオンがその場で起きている変化に気づいて私に尋ねた。


「それで、結界のほつれは縫えたのかな? 中が見えなくなったが……」

 魔力を視認する私の目には、結界は姿を変え、何重にも巻かれた繭のように内側を覆い隠していた。


「完全に遮蔽されてますね。ドラゴンは巣に戻ったみたいですね。魔力の揺らぎがもうありません。……先ほどまで感じていた、あの異質な気配も」

 私を苦しめていた地下の異質な魔力は、結界の中に閉じ込められたようだ。


「さて帰りましょう」

 私たちは、再び神殿に戻ってきた。エイトラの配下の冒険者たちの姿は、そこにも無かった。

「どこに行ったのかな?」

「階段の方に匂いがします。逃げたようです」

 それは、地上へと戻る階段の方だ。


「まあいいわ、エイトラを連れて戻りましょう」

 エイトラは、私たちが閉じ込めた狭い暗黒の牢獄にいた。

 拘束されているというのに、その瞳にはまだ光が残っている。こちらの様子を窺うような、消えない意思の光。


「俺が、捕縛する。それでいいかな?」

「ええ、王都の騎士団への引き渡しは……」

「今回は、しないよ。一緒にトリス子爵のところに訪問しよう」

 エイトラは、私たちに次々と質問をしてきた。


「やはり、魔石の採掘場を見て惜しくなったんだろう。良質のものがあれほど採掘できる場所は大陸のどこにも無いぞ!」

「貴方には何も話さないわ。トリス子爵の前でしか」


「じゃあ、部下は? ドワーフは無事か?」

 情報を与えるヘマはしない。

「うるさいやつだな」

 カリオンは、エイトラの意識を刈り取ると、軽々と担いだ。


「分隊の特別監獄に入れておくよ。それとここの鍵は俺が預かる」

「そうね。お願いするわ」

 私は、カリオンに鍵を渡した。ほんの一瞬、何かが引っかかるような感触が指先に残り、すぐに消えた。


 洞窟を出たが、そこには誰もいなかった。エイトラの部下も、冒険者だけでなく全員が逃げ出していた。


「執政官の屋敷に来てもらえますか?」

「はい。お伺いします。隠し立ては致しません」

「ええ、信じてますよ。炎石の知り合いですから」

 本人たちは否定するが、兄弟なのだ。

 私は、ドワーフたちの住まいの一部屋を借りると、カリオンを治療した。


「ごめんね、無理させて……」

「いや、楽しかったよ。シズカ、魔力を使えるようになってよかったな」

「ええ……でも……」

 心底嬉しいのだが、私にはそれを素直に表現することは出来ない。


「俺は、とても嬉しい」

「私のことなのに……変なの」

「そんなこと無いよ。シズカの周りには本人以上に喜ぶ人たちがいるだろう?」

「そうね」

 私は、レオナールとエレノアの顔を思い浮かべる。このことを告げたらどれだけ喜ぶだろうか、想像するととても幸せな気持ちになった。


「ははは、やっと笑ったね」

 カリオンは激しい戦いを繰り広げていたが、呪いの傷口が開いてはいなかった。

「揶揄わないで、治療はおしまいよ! でもありがとう」

「どう致しまして」

 森を出ると、レオナールが待っていた。そこで、私たちとカリオンは別れた。


 私は、御者席に座る彼に手を伸ばし、いつものように助手席に乗り込んだ。

「ガストン爺さんはこっちだよ」

 クロエに背を押されて、客車に乗せられている。

「じゃが、執政官様が客車に乗るんじゃ……」

「鉱人族は気が利かないのね。お姉様は大事な話があるのよ。早く乗って」

 セレディナの疲れた声が響く。


 馬車が静かに走り出すのを待って、私はレオナールに尋ねる。

「ねえ、レオ。大魔熊の討伐に行ったんだけど、すごく嬉しいことがあったの。何かわかるかな?」


お読み頂きありがとうございます。もしよろしければ、ご評価をいただけると幸いです。

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