表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
姉に全てを奪われた追放令嬢、辺境の村を再建します〜愛犬が転生した犬人少女と始める内政スローライフ〜  作者: 織部


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

45/61

魔力


その時。

 カリオンが踏み込む。

 土穿竜の巨体が押され、じりじりと後退していく。反対側の地上出口まで、あと一歩という距離――外へ逃げることもできるはずの位置。


 だが。

 そこで、ぴたりと止まった。

 動かないのではない。

 ――踏み出さないようにしている。

 三つの首が同時に動き、カリオンではなく地下へと続く穴を庇うように位置を取る。


 押されながらも、その一点だけは決して明け渡さないという意志があった。

「……?」

 私は視線を落とす。

 地下から吹き上がる魔力の流れ。激しい戦闘でこれほど傷ついているのに――その流れは、少しも乱れていない。


 減っていない。

 弱まっていない。

 むしろ一定のまま、安定して脈打ち続けている。

 ――おかしい。

 普通なら、原因となる存在が傷つけば流れは乱れる。弱まる。止まる。


 けれどこれは違う。まるで“別の場所”から供給されているかのように、変わらない。

「……おかしい」

「どうしました?」

「魔力が……減っていないのよ」

「何?」

「これだけ傷ついているのに、流れが変わらない。普通なら、原因を叩けば収まるはずでしょう? でも違う……これは、あれが原因じゃない」


 確信が、形になる。

 カリオンの剣が振り上げられる。首を断ち落とす、決定的一撃。

 その軌道を見た瞬間、思考が完全に繋がった。


「待って、カリオン! 倒してはだめ!」

 剣が、ぴたりと止まる。

「なぜだ!」

「……違うの。あれじゃない」

 私は首を振り、地下の穴を睨む。

 脈打つ魔力。変わらぬ流れ。そして、あの竜の動き。


「守ってるのよ」

「守ってる……だと?」

「ええ。あの竜は、外に出ないんじゃない」

 一つ一つ、言葉を噛みしめるように告げる。

「出ないの。守るために。……あれは“蓋”よ。それとここから先に、誰も通さないための」

 場の空気が凍りつく。


「……なら、どうする?」

 低く唸るようにカリオンが問う。

 その声には、まだ斬る覚悟が残っている。いや私は一瞬だけ目を閉じた。


 ――ここで誤れば、取り返しがつかない。

「あの竜は門番よ。倒してはいけない。だから――眠らせるの」

 決着をつけたいだろう彼だったが、その思いは飲み込んだようだった。

「わかったよ、シズカ。結果は見えてるからな」

 だが、それは彼の願いとは反対の言葉だった。そのことを私はその時知らなかった。


「じゃあ、結界石を立てよう!」

 避難した横穴から、クロエとガストン、それとガストンが選んだ数人のドワーフが地上に向かう。

 私も、セレディナに抱かれて地上に向かう。

 クロエが、地面に捨てられていた埃まみれの太い網を見つけ、叫んだ。


「これを使うのね?」

「ああ、きっとそれで倒したんだ、だな?」

 ガストンは、じろりとドワーフの工員を見た。

「へえ……あの、しかたなかったんでさぁ、やらねえと棟梁を生かしちゃおかねぇって……」


「話は後だ。包んで引いて立てるぞ!」

 ドワーフたちが網を石にかける。全員で上手に引くと、巨石はゆっくりと傾き――やがて立ち上がった。一番戦力になっているのがクロエだった。

 そして、結界石が立っていた位置に正確に戻す。その場の地面だけは、受けとなる石が地下に埋め込まれている。


 かちゃり、と鍵がかかる音がした。

 それを四隅、つまり同じ作業を四度繰り返した。

 四つめの結界石が、定位置に正しく収まった瞬間に、結界の光がドーム状に地下の採掘場を覆うはずだった。


「光が薄いですね。それによく見ると穴が空いています」

 セレディナが、目を凝らして指差した。

「どうしてかしら?」

「考えられる理由としては、結界石に溜まっていた魔力が長い年月で減ってしまったですかね」

 不完全であるが、一応結界は貼られた。


 暴れていたドラゴンは、動きを止めて、天井を盲目の目で見上げていた。

 まるで、それでは足りないとでも言いたげに。

 カリオンは、片足を地につけて、肩で息をしている。


「お疲れ様。手当てをするわ。痛む?」

「ははは、魔剣を出さなければ、それほど痛まないよ」

「でも、心配だわ」

 だが、ここで治療をする訳には行かない。余裕そうに見えていたが、実際はそれほどではなかったのかも知れない。無理をする彼のことだ。


 私は、ポーションを彼に飲ませた。

「甘やかし過ぎですよ。自分で飲めますよ!」

 セレディナは、自分のことを棚に上げて文句を言った。

 クロエとガストンたちも、作業を終えてやってきた。


「現状復帰は出来た。だが、見ての通りだ。完璧ではない」

「石に魔力を込める。それしか方法はなさそうですね」

「じゃが、我らドワーフ族の魔力は少ない……失われてしまった」

 ガストンは下を向いた。


「でも、ストーンファイヤーは違ったわよ?」

「あああいつは例外だ」

「情けない鉱人族ね」

 セレディナは、見下したように言った。

「言い過ぎよ。じゃあ、疲れているところ悪いけど、セレディナお願いできるかしら?」


「私やカリオン様で、各々石を一つ受け持ちましょう。それが限界です。それでも満タンには程遠いでしょうがしばらくは持つでしょう」

「残り二つは後日ということね」


「いいえ」

 セレディナは強く首を振った。

「残り二つは、シズカお姉様が担当して下さい!」

「私……魔力が無いのよ……」

 セレディナの思いがけない言葉にそう返すしかなかった。


「お姉様、私は魔力は見えませんがなんとなく気配を感じることは出来ます。今この場に桁違いの魔力の気配を感じてきました」

 そして、私を指差した。


「え?」

 私は、自分の手を、腕を、足を見る。

 内側から、何かが押し上げてくる。熱とも違う、何者かが全身を満たしている。

「炎のように魔力が噴き出ている。なぜ?」

 それが異常な量であることはわかる。


「古文書で読んだことがある。魔力が無いのではなく、その通り道が閉じられている者がいるらしい」

 ――閉じられていた。

 この地下洞窟の魔力。あの底にある“何か”。

 それらに触れたことで、内側に溜まり続けていたものが――

 こじ開けられた。


「でも、魔術を使えないわ」

「いえ、魔力を移すだけですから。今のお姉様なら触れるだけです。それに魔術を知らない方が効率的なのです」


「わかりました。やってみます」

 生まれてこれまで、魔力が無い、魔術が使えないと馬鹿にされ続けてきた。

 違った。無かったんじゃない。


 ――ずっと、在った。溢れるほどに。

 ただ、出口がなかっただけ。

 その事実が、胸の奥で静かに灯る。


 私に、初めて“使える力”が宿った瞬間だった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ