表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
姉に全てを奪われた追放令嬢、辺境の村を再建します〜愛犬が転生した犬人少女と始める内政スローライフ〜  作者: 織部


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

43/64

土穿竜、覚醒


 その声に、縦穴の中で作業していた男たちが一斉に振り向いた。突然現れた私たちを見て、監督者たちの顔色が変わる。


 監督者は、エイトラの配下として雇われた冒険者たちだろう。

「おい! エイトラ様はどうした!?」

 監督者たちは、私たちと同じ地上にいた。

「エイトラなら投獄された。こちらにおられるシズカ執政官様によってな!」


「何だって……」

 監督者たちは顔を見合わせる。

 そして次の瞬間、一斉に剣を抜いた。鋼の擦れる音が、採掘場の汚れた空気を鋭く裂いた。

 その前へ、カリオンが静かに歩み出た。たった一歩。だが、それだけで監督者たちの足が止まる。


 それでも彼は、剣を抜かない。彼の剣の速さなら、その必要すらないのだろう。

 わずかに腰を落とす姿は、勇者の佇まいだった。

 ガストンもまた、戦おうと前へ出る。


「おじいちゃん、邪魔よ」

 クロエに服を掴まれ、ガストンの体がじりじりと後ろへ引きずられていく。

「お前さん、力が強いな!」

 ドワーフの老人が感心したように声を上げた。

「へへへ、そうみたい」


 場違いなほど無邪気な笑みに、張り詰めた空気がわずかに緩む。私の周りの女性は、どうやら力持ちが多いようだ。

「どうしますか? シズカお姉様」

 セレディナの問いに、私は荒い息を整えながら採掘場を見渡した。


 息を吸うたび、胸の奥が焼けるように痛む。視界の端が、黒く欠けていく。

 ――まずい。

 思考が、ほんのわずかに遅れる。

 地下から滲み出る異様な魔力。掘り返された地面。


 その魔力は、まるで、この大地そのものが呼吸しているかのようだ。

 この場所で大きな魔術を使えば――起こしてしまう。


「……誰も、魔術を使わないで」

 掠れた声は途中で途切れ、言葉の端が空気に溶けた。それでも全員に届いたらしい。セレディナがすぐに頷く。

「わかりました」


 戦闘が始まった。

 冒険者たちの実力は、上級冒険者には届かない――私にはそう見える。

 剣を持つだけの男でも、力量は魔力が語る。そして私には、それが“視える”。


 それでも、エイトラの配下の冒険者たちも、それなりの実力者だ。彼らは目の前にいるカリオンが、自分たちより遥かに強いことを一瞬で悟った。

「容易に近づくな! 距離をとれ! やむを得ん、魔術を使用しろ!」


 ――やめて。

 エイトラも、この場で魔術を使うことの危険は感じていたのだろう。だからこそ、これまでは禁じていたに違いない。

 私の警告すら無視する。その直後だった。


 詠唱が始まった瞬間、空気が歪んだ。

 地面が大きく揺れる。

 一度。

 二度。

 続いて、小刻みな震えが足元を走った。

 壁に立てかけられていた工具が跳ね、鉱車が独りでに軋みながら動き出す。


 壁の亀裂から砂がぱらぱらと落ち、地下の岩盤が不気味に軋む。

 採掘場の奥――見えないはずの闇の中で、何かが擦れる音がした。

 ……引きずるような、重い音。


 地下の採掘場へ、土砂が大量に崩れ落ちていく。

「採掘してる場合じゃねぇ! 勘弁してくれ!」

「この場を離れた方がいい、まずいぞ、これは!」

 採掘場の階段へ、使役されていたドワーフたちが我先に殺到する。


 悲鳴と怒号が入り混じり、狭い通路はたちまち混乱に呑まれた。

 足を挟まれて動けない者が叫び、仲間が一瞬だけ振り返り――それでも、歯を食いしばって駆け上がる。


 ガストンは、彼らを助けるため走り出した。

「お前たち! 慌てるな、順番に上がれ!」

 怒鳴り声とともに、老人は暴れる階段を押さえる。


「戦いはやめて! ここから逃げましょう!」

 喉が裂けそうな痛みに耐えながら、私は必死に声を張り上げた。

 地震――違う。

 地の底で、何か巨大なものが身じろぎしたのだ。

 腹の底まで震わせる重低音。

 音ではない。意志だ。

 長い眠りを破り、何かが目を覚ます気配。


 岩盤のさらに奥。闇の底から響いてきたのは――

 咆哮だった。

 一瞬、すべての音が止んだ。


 次の瞬間。

 岩壁が内側から膨らみ、ひび割れる。

 押し上げられるように土と岩が弾け飛んだ。

 エイトラの配下は我先に、神殿に向かい逃げ出した。

 地下を何者かが這いずり回る音がする。


 遅れて、ようやくそれが“姿”を持った。

 地下の採掘場の奥から魔物が姿を現した。

 まず現れたのは、目だった。――いや、目が“ない”。

 空洞のまま、三つ並んだ首が、ゆっくりとこちらを向く。


 銀色に輝く大きな三つ首のドラゴン。首の先には、立派なツノを持つが――どれも盲目だ。

 だが、よく見ると土色の胴体が、膨大な魔力で銀色に光っている。

 ドラゴンが長い鎌首をもたげると、地上にまで届いた。


「助けてくれ! 喰われる――」

 それは一瞬だった。

 恐怖で動けなかったドワーフの工員を、一飲みにする。

 ……違う。

 動けなかったのではない。


 その場に“縫い止められていた”。

 見えない圧が、周囲の空間そのものを押さえつけている。

「間に合わん。壁だ、壁を登れ!」

 足の遅い彼らはすぐに追いつかれる。そう判断したガストンは、ドワーフたちを壁に誘導した。


 壁にクサビを打ち込み、ロープをかけて、ドワーフたちは壁をよじ登っていく。

 いつものおっとりとした動作とはまるで違う。

 セレディナは、私を抱いたまま空中高く飛んだ。


「クロエは?」

「もう、あそこにいますよ!」

 ドワーフたちを先導するように、壁を登っている。

「カリオン、気をつけて。目を見てはダメよ」

「任せておけ……これは、楽しみだな」


 地上に現れたドラゴン。

 だが、彼らの象徴である魔力の翼が見当たらない。

 長い首を地面に這わせて進むその姿は――

「まるで蛇だな! 土穿竜か!」


 行手を阻むように、カリオンはその前に立ち、目を閉じた。

 その瞬間、場の空気が変わった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ