静寂の森へ
「もしかして……クロエ、広間に置いてある袋を持ってきて!」
私が声を上げると、彼女はすぐさま、袋を引きずって持ってきた。
「重いです。主様」
「開けていいわよ」
袋の中は、魔物のツノや爪などの部位と魔石が詰まっていた。
「凄いぞ、どれも貴重な物だ。高く売れる」
「ああ、それもどれも珍しい魔物だ」
グレイやエルフの狩人たちは、手に取り品定めしながら言った。
「そうだろう!」
カリオンは自慢げに叫んだ。
「ありがとう、カリオン」
礼を言うと、彼は恥ずかしそうな表情をした。
「だから、大魔熊の一匹くらい任せておけ!」
このまま放置する選択肢は、最初から存在しなかった。
「カリオン、魔熊の習性からして夜は行動しないわよね。だから明日の朝、狩りに出ましょう。もちろん、私も行くわ。又、貴方の力見せてくれる?」
「ああ……」
彼に本当に必要なのは、休養だろう。ほんの数時間でも。今の彼は立っているだけで、無理を重ねているのが分かる。
「それなら、クロエも行きます! 私ほど耳がいい者はいませんから。魔熊の索敵には必要ですよね、カリオン様、主様」
彼女は自慢げに言い、私に抱きついた。
「それでしたら、ぜひ俺を……」
「いや、警備兵である我々が……」
「不意打ちを受けて逃げましたが、エルフの誇りとして……」
グレイや警備兵、狩人たちまでもが、討伐への参加を懇願してきた。
だが、相手はカリオンですら逃してしまう強者で動きが素早い。討伐の参加者は、上級冒険者レベルに限られる。
「いやあなた達は、屋敷の警備を命じます」
「……はい」
それぞれの不服そうな顔に、悔しさが滲んでいる。だが、自分たちの力不足も知っているのだろう。
「シズカお姉様の警備が必要ですね。私がエルフ族の代表として同行します」
セレディナが、他の者を押し除けて、部屋に入ってきた。
「でも……」
「我が一族で、最強の魔術師は私です。目に物をお見せしますわ。お姉様」
その瞳には、確かな自信と——わずかな闘志が宿っていた。
セレディナの瞳は静かに燃えていた。普段の気品ある微笑みとは違い、どこか張り詰めた気配がある。
「……分かったわ。でも無理はしないで。今回の相手は、ただの魔物じゃない」
私がそう言うと、彼女は優雅に一礼した。
「承知しておりますわ。ですが——お姉様のお役に立てる機会、逃すつもりはありません。カリオン様にだけ任せておけません」
その言葉には、揺るぎない意志があった。エルフたちも頷いている。セレディナの実力を知っているのだろう。
部屋の空気が、少しだけ変わる。先ほどまでの慌ただしさとは違う、戦いの前の静かな緊張が、確かにそこにあった。
「決まりね。明日の朝、夜明けと同時に出発するわ」
私は全員を見渡して告げた。
「参加するのは、カリオン、セレディナ、クロエ、それと私。最低限の人数で確実に仕留める」
「了解だ」
カリオンが短く答える。先ほどまでの軽さは消え、戦士の顔に戻っていた。
「ふふ、楽しみですわね」
セレディナは指先だけで口元を隠しながら微笑む。
「主様!任せてください!」
クロエは元気よく手を挙げた。
「他の皆は屋敷と村の警備をお願いするわ。もし魔熊が別個体なら、こちらに来る可能性もある。魔物で村が壊滅することもあります」
「承知しました」 レオナールが力強く頷いた。
ようやく話がまとまり、皆がそれぞれ動き始めた。
「……行くんだな」
カリオンが、ぽつりと呟いた。
「ええ。当然でしょう? 私はこの地の執政官よ」
ほんの一瞬、沈黙が落ちる。
カリオンは何か言いかけて、視線を逸らした。
「お前は――……いや、なんでもない」
結局何も言わなかった。ただ、静かに頷いた。
「……分かった。守ってみせるよ」
「だから今日は、絶対に安静にしてなさい」
「はいはい……」
「返事が軽い!」
思わず声が強くなる。
そのやり取りに、近くにいたクロエがくすっと笑った。
※
翌日、私たちは、エルフの狩人たちが、森の中の大魔熊に遭遇した場所に向かった。木々が倒され、熊の爪痕や足跡がついていた。
傍には、無残に引き裂かれた獣たちの死骸が、まだ乾ききらぬ血の匂いを漂わせて転がっていた。
「こっちです」
クロエが、周りを注意深く見回して指差した。
足跡は、森の更に奥地に続いていた。森は深さを増し、木々の枝により光が届かなくなった。
——妙に静かだ。
風はあるのに、葉擦れの音がやけに遠い。鳥の気配もない。森そのものが、息を潜めているようだった。
「ちょっと待って。暗視ができるようにするわ」
クロエは、犬人族の特性で、セレディナとカリオンは、スキルで暗視ができるらしい。私は、ポシェットから取り出して目薬をさした。
「背負って行こうと思ったのに」
カリオンが軽口を言う。
「馬鹿なこと言ってないで。あなたの戦闘の邪魔になるでしょ」
「お姉様、薬が効くまで私が手を引きます」
セレディナが手を差し出した。森の中の彼女は、水の中の魚のように自由に見えた。
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モチベがあがります。




