表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
姉に全てを奪われた追放令嬢、辺境の村を再建します〜愛犬が転生した犬人少女と始める内政スローライフ〜  作者: 織部


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

35/61

静寂の森へ


「もしかして……クロエ、広間に置いてある袋を持ってきて!」

 私が声を上げると、彼女はすぐさま、袋を引きずって持ってきた。


「重いです。主様」

「開けていいわよ」

 袋の中は、魔物のツノや爪などの部位と魔石が詰まっていた。


「凄いぞ、どれも貴重な物だ。高く売れる」

「ああ、それもどれも珍しい魔物だ」

 グレイやエルフの狩人たちは、手に取り品定めしながら言った。


「そうだろう!」

 カリオンは自慢げに叫んだ。

「ありがとう、カリオン」

 礼を言うと、彼は恥ずかしそうな表情をした。

「だから、大魔熊の一匹くらい任せておけ!」


 このまま放置する選択肢は、最初から存在しなかった。

「カリオン、魔熊の習性からして夜は行動しないわよね。だから明日の朝、狩りに出ましょう。もちろん、私も行くわ。又、貴方の力見せてくれる?」


「ああ……」

 彼に本当に必要なのは、休養だろう。ほんの数時間でも。今の彼は立っているだけで、無理を重ねているのが分かる。

「それなら、クロエも行きます! 私ほど耳がいい者はいませんから。魔熊の索敵には必要ですよね、カリオン様、主様」

 彼女は自慢げに言い、私に抱きついた。


「それでしたら、ぜひ俺を……」

「いや、警備兵である我々が……」

「不意打ちを受けて逃げましたが、エルフの誇りとして……」

 グレイや警備兵、狩人たちまでもが、討伐への参加を懇願してきた。


 だが、相手はカリオンですら逃してしまう強者で動きが素早い。討伐の参加者は、上級冒険者レベルに限られる。

「いやあなた達は、屋敷の警備を命じます」

「……はい」

 それぞれの不服そうな顔に、悔しさが滲んでいる。だが、自分たちの力不足も知っているのだろう。


「シズカお姉様の警備が必要ですね。私がエルフ族の代表として同行します」

 セレディナが、他の者を押し除けて、部屋に入ってきた。

「でも……」


「我が一族で、最強の魔術師は私です。目に物をお見せしますわ。お姉様」

その瞳には、確かな自信と——わずかな闘志が宿っていた。

セレディナの瞳は静かに燃えていた。普段の気品ある微笑みとは違い、どこか張り詰めた気配がある。


「……分かったわ。でも無理はしないで。今回の相手は、ただの魔物じゃない」

 私がそう言うと、彼女は優雅に一礼した。

「承知しておりますわ。ですが——お姉様のお役に立てる機会、逃すつもりはありません。カリオン様にだけ任せておけません」


 その言葉には、揺るぎない意志があった。エルフたちも頷いている。セレディナの実力を知っているのだろう。

 部屋の空気が、少しだけ変わる。先ほどまでの慌ただしさとは違う、戦いの前の静かな緊張が、確かにそこにあった。


「決まりね。明日の朝、夜明けと同時に出発するわ」

 私は全員を見渡して告げた。

「参加するのは、カリオン、セレディナ、クロエ、それと私。最低限の人数で確実に仕留める」

「了解だ」

 カリオンが短く答える。先ほどまでの軽さは消え、戦士の顔に戻っていた。


「ふふ、楽しみですわね」

 セレディナは指先だけで口元を隠しながら微笑む。

「主様!任せてください!」

 クロエは元気よく手を挙げた。

「他の皆は屋敷と村の警備をお願いするわ。もし魔熊が別個体なら、こちらに来る可能性もある。魔物で村が壊滅することもあります」


「承知しました」 レオナールが力強く頷いた。

 ようやく話がまとまり、皆がそれぞれ動き始めた。

「……行くんだな」

 カリオンが、ぽつりと呟いた。

「ええ。当然でしょう? 私はこの地の執政官よ」

 ほんの一瞬、沈黙が落ちる。


 カリオンは何か言いかけて、視線を逸らした。

「お前は――……いや、なんでもない」

 結局何も言わなかった。ただ、静かに頷いた。

「……分かった。守ってみせるよ」

「だから今日は、絶対に安静にしてなさい」


「はいはい……」

「返事が軽い!」

 思わず声が強くなる。

 そのやり取りに、近くにいたクロエがくすっと笑った。



翌日、私たちは、エルフの狩人たちが、森の中の大魔熊に遭遇した場所に向かった。木々が倒され、熊の爪痕や足跡がついていた。

傍には、無残に引き裂かれた獣たちの死骸が、まだ乾ききらぬ血の匂いを漂わせて転がっていた。


「こっちです」

 クロエが、周りを注意深く見回して指差した。

 足跡は、森の更に奥地に続いていた。森は深さを増し、木々の枝により光が届かなくなった。


 ——妙に静かだ。

 風はあるのに、葉擦れの音がやけに遠い。鳥の気配もない。森そのものが、息を潜めているようだった。

「ちょっと待って。暗視ができるようにするわ」


 クロエは、犬人族の特性で、セレディナとカリオンは、スキルで暗視ができるらしい。私は、ポシェットから取り出して目薬をさした。

「背負って行こうと思ったのに」

 カリオンが軽口を言う。


「馬鹿なこと言ってないで。あなたの戦闘の邪魔になるでしょ」

「お姉様、薬が効くまで私が手を引きます」


 セレディナが手を差し出した。森の中の彼女は、水の中の魚のように自由に見えた。


お読み頂きありがとうございます。もしよろしければ、フォロー、評価をいただけると幸いです。


モチベがあがります。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ