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姉に全てを奪われた追放令嬢、辺境の村を再建します〜愛犬が転生した犬人少女と始める内政スローライフ〜  作者: 織部


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ヴァイスウルフェン家

「なんですか、それは?」

「簡単に言うと、私から大事な話があるの。だから領民の皆さんに直接話そうと思って」

「わかりました。知り合いに声をかけます。いつですか? 今日ですか?」


彼らはイベントごとが好きらしく、すぐに身を乗り出してくる。

「ううん。出来るだけ参加してほしいから、一週間後の夜。この場所で」

それから私は言葉を続けた。


「それと――アレンだけ残ってくれる?」

忙しい建築工房のアレンを呼び止めたのには理由がある。


応接室に移動して話をすることにした。

ミラーの屋敷から運び込んだ高級なソファとテーブルが並ぶ部屋を、アレンは興味深そうに見回している。


「アレン。まずは執政官邸の修理費用の件だけど、大金貨五枚で足りるかしら?」

それはレオと綿密に試算した金額だった。

「え? 貰いすぎです。作業はほとんど村人がやってくれましたし……材料費だけ頂ければ十分です」


「そう。ありがとう」

私は返された大金貨三枚を受け取った。

それから、彼の工房についていくつか質問する。

「つまり、村の人口が増えて、あなたの工房は大忙しなのね」


「はい、お陰様で」

「でも、それだけじゃないわよね?」

 ルーナの町には大きな建築工房が幾つもある。

 だから、それだけで仕事が増える訳がない。


「早い。安い。それに細かな修理も……」

「珍しく謙遜するのね」

 私は机の上に私の書いた完成予定図を広げた。

「これを冬までに完成させたいの。設計図と見積が欲しいわ。領民集会までに」


それは獣人族の長屋。学校。そして行政庁舎。三つの建築計画だった。

「え? もう数ヶ月も無いですよ」

「ルーナの村の工房にも一応見積依頼は出す予定よ。頑張ってね」

「……わかりました。負ける訳にはいきませんね」

アレンの顔が引き締まった。


私だって、本当は領内の業者に依頼したいのだから。


 私は、領民集会に向けた準備の一つ、領民集会の参加証を作っていた。文字書きの得意なセレディナが手伝ってくれた。

 ふと、彼女が口を開いた。


「シズカ様、お願いがあります!」

「どうしました?」

 彼女に渡した支度金で、エルフたちの仕事の道具を揃えていた。薬の調合道具と原料、仕立て道具一式に生地に糸。それと狩の道具。


「狩猟に行きたいとの要望があがりまして、森に行っても構いませんか?」

 一瞬だけ、思考が止まる。山脈の麓の森。魔物が出る場所。


「ええ、もちろんです。貴方達に失礼とは思いますが……怪我のないように」

「シズカ様は心配性ですね。じゃあ様子を見に行きましょう」


 屋敷の裏手に、レオナールや獣人族、エルフ達によって造られた簡単な練習場が完成していた。早朝から作業の音は聞こえていたが、もう完成するなんて。


 レオナールが、獣人族に丁寧に武器の扱いを教えている。

「全員、経験があるだろうが、私のいる間、基礎を教える。不満だろうが、より強くなれる」

「わかりました」

 全員が、礼儀正しく返事をする。


 統率が取れているのは、獣人族の特色だろう。

 その奥の弓の練習場では、エルフが真剣な顔で、手に入れた弓の調整をしている。


 的が並び、ドスッ、ドスッと、矢が突き刺さる音が響いている。矢は全て、的の中心にあたる。しかも威力がある。

 さらに、エンチャントした魔術の矢も。


「さすが、ラファーガの一族ね」

「それは褒めすぎです。お兄様には敵いません」

 だが、彼らの実力は本物だ。冒険者としても、中級以上だろう。私は、静かに頷いた。


「それじゃ行きましょう」

 私は、エレノアが準備した執政官の外出用の服に身を包み、静かに屋敷を後にした。布地は動きやすさを重視したものだが、防御力があり、“権威”を示す装いだ。


 領民集会の参加証を作成し、それを手に、私たちのもとへ顔を出さない領民たちを一軒ずつ訪ねて回る。


 古い情報のまま更新されていない地図は、ほとんど役に立たない。道は風化し、家は増え、あるいは空き家となって放置されている。


 ミラーの帳簿から把握できた領民の数は、およそ四百人。だが、そのうち私と面識があるのは百人にも満たない。

 ワールドエンド領は、エベレス山脈の麓に広がる広大な土地だ。


 しかし長らく、入植者はほとんどいないと考えられていた。

 理由は明白だ。

 冬の厳しい寒さ、痩せた土地、そして隣接する山脈の森に棲む魔物たち。


「……それなのに、なぜ人口が増えたのか」

 思わず、独り言が漏れる。

 本来ならば、その答えを知る機会はあった。


 ――ミラーは、すべてを知っていたはずだ。

 だが私は、それを聞かなかった。

 聞く前に、処刑した。

 胸の奥に、わずかに残るざらついた感情を、私は意識的に押し殺す。


 後悔ではない。ただ――あの男の言葉を最後まで聞くことだけは、どうしても許せなかった。

 これは、私の意地だ。

「ロン爺のところにお願い、レオナール」

「かしこまりました」


 クロエとピクシアも同行している。

 クロエは地図の作成、ピクシアは参加証の配布を担当している。どちらも初々しい様子で準備を整えていた。


 長老屋敷に近づくと、門の前で待っていたかのように、彼の愛犬が軽く尾を振りながら駆け寄ってくる。

「どうしたんじゃい?」

 すっかり顔なじみとなったロンが、少し慌てた様子で門まで出てきた。


「突然すみません。教えていただきたいことがあって」

「ほう……こんな老いぼれに、まだ役に立つことがあるかのう」

 軽く笑うが、その目は鋭い。こちらを値踏みするようでもあった。


「ええ。長老でないと分からないことです」

 私がそう言うと、ロンは一瞬だけ目を細め、それから小さく頷いた。

 どんな土地にも歴史がある。その積み重ねを知らずして、統治などできるはずがない。


「唐突な話だと思うがな……ウルフェンハルト家の子孫も、この領地に住んでおる」

「え? そうなんですか?」


「ああ。無論、お前さんのような直系ではない。北部に領地を広げた際、この地に残った傍系の者たちじゃ」

 私は家宰のレオに視線を向ける。


 彼はわずかに微笑んだだけだった――いつもの、答えを急がせない顔だ。

「……ちょっと待って」

 私は招待状をテーブルに広げる。それは各家の納税者代表宛てのものだ。その中に、同じ名が何度も現れている。


「……『ヴァイスウルフェン家』」

 私は顔を上げた。

「この方々ですか?」

「そうじゃ」

 ロンは頷き、少しだけ声を落とす。


「シズカ様には申し訳ないがの。彼らに執政官邸の掃除を呼びかけるのは控えた」

「……それは、どうして?」

「ミラーの強引な徴税でな。誇りを踏みにじられたと、相当腹に据えかねておる」


 なるほど、と私は小さく息を吐く。

「わかりました。直接、会ってみます」

 そして、もう一つ気になっていた名前を指差した。


「それと、この『ガストン家』。大家族みたいだけど……何をしている入植者なの?」

 ロンは一瞬、口元を緩めた。

「はは……大家族、か。あやつらは採掘家と鉱夫の集まりじゃ。森の奥に住んでおる」


「森の中に……?」

 私は思わず言葉を繰り返した。エベレスの麓の森には魔物が出るはずだ。

 それを避けて人は寄りつかない――そう聞いていた。


「詳しい場所までは分からんがの。あやつらは数年前から住み着いた」

「……ありがとう、ロン」

 ロンでさえ把握していない場所。そして、この北の地で鉱山が存在するという事実。


 ガストン家――数十名規模の領民。放置していい存在ではない。

(探して、会う必要があるわね)

 私はそう結論づけた。屋敷を後にし、馬車に乗り込む。

 助手席に腰掛けながら、私はレオナールに問いかけた。


「……もしかして、ヴァイスウルフェン家からは、これまで徴税していなかったの?」

 レオナールは、わずかに肩をすくめた。

「名前を見るまで、私も完全に忘れてました」

 責めるつもりはない。これは単純に、私の情報収集不足だ。


「いわゆる“不文律”です。彼らの籍は、形式上ウルフェンハルト家にあります」

「つまり……ミラーが徴税を始めるまでは、本家が肩代わりしていた?」


「その通りです」

 レオナールは一拍置いて、続ける。

「ですが、時代は変わりました。これからどうするかは――」

「私の判断次第、というわけね」


 彼は何も言わなかったが、それが答えだった。ワールドエンドの旗をつけた馬車は、寂れた道を進む。

 道沿いには、ぽつりぽつりと家が建っている。

 一軒見つけては止まり、訪ねる。それを繰り返すしかない。

「ワールドエンドの執政官が参りました」


 レオナールが告げると、扉の向こうで気配が動き、やがて住人が顔を出した。


明日も、20時更新します。


よろしくお願い申し上げます。

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