眠らない竜
「ほお、ここか……殺風景だな」
プラドが、禁足地である採掘場を見回した。
前の戦いで大きく損壊した採掘場は、あちこちが崩れ、荒れ果てている。かつてここで採掘が行われていたとは、とても思えない有様だ。
プラドは、四方にある封印石を見渡せる小高い場所へと歩いていく。そこに立つと、採掘場全体を見渡した。
「そこの地下です」
「ああ。わかる。不気味な気配が漂ってるしな」
プラドは、四方に配置された封印石へ視線を向けた。
「さて、始めるとするか」
天を仰ぎ、両腕を広げる姿勢をとる。
「石を倒した方が早いのではないでしょうか?」
「いや、苦労は何もないし、一瞬だ。わしらエルフは、自然にある魔力を取り込むのを得意としておる。ラファーガたちですら、意識せずに取り込んどる」
「そうなんですね。だから、あんなにも魔力が尽きないのですね」
「今のお前に言われてもな……。対象を決めて取り込むのは、わしぐらいしかできんがな」
次の瞬間、四方にある封印石から魔力が一斉に引きずり出された。
波打つ魔力が空間を駆け抜け、プラドのもとへと集まっていく。まるで、封印石そのものから力を奪い取っているようだった。
私には、はっきりとその波が見える。
「凄い!」
魔力が吸い上げられるにつれ、封印石の輝きが徐々に弱くなっていく。
そして、封印が解かれた。
「カリオン、先に行って!」
「ああ、任せておけ!」
カリオンが真っ先に駆け出し、その後を炎石とガストンたちが続く。
採掘場へ続く開口部まで来ると、カリオンが下を覗き込んだ。
「梯子を下ろすぞ!」
ガストンが梯子を下ろす。梯子が岩壁にぶつかり、カタン、カタンと乾いた音を響かせた。
「よし、降りるぞ!」
カリオンが梯子に足を掛け、降り始める。
その瞬間だった。
「再封印を始めます!」
私の声を合図に、再封印を担う者たちが一斉に動き、それぞれが自分の受け持つ封印石の前へとついた。
先発隊が採掘場へ降りていくのと同時に、封印石へ魔力を注ぎ始める。忌まわしき者を外に出さない為だ。
手順は先ほどとは逆だ。
今度は、私たちの魔力が四方から封印石へと流れ込んでいく。弱まっていた封印石の輝きが、少しずつ強くなっていく。
カリオンが梯子を下り、その後を炎石、ガストンたちが続いていく。
私たちは彼らの姿を見送りながら、魔力を注ぎ続けた。
最後の一つは、私たちが降りた後にセラフィナが完全に封印する。
この場に残るのは、セラフィナとレオンだ。
本当は、クロエも残って欲しかったが、彼女に拒否された。後方支援も大事な仕事だよなんて言っても通じなかった。
「シズカぁ、嫌だぁ。私も連れてって」
私の腕にしがみついてきた。クロエの力は普通の大人の男よりもはるかに強い。
「痛いわ、わかったから」
彼女が我儘を言う時は、何かを感じた時だ。
地面が揺れる。大きな振動だ。
それは、あの怪物の登場に違いない。
「土穿竜が向かってくるわよ!」
「ああ、わかっている」
その間にも、封印石へ流れ込む魔力は増していく。三つの封印石が、強い光を放ち始めた。
「私たちも続きます!」
セラフィナがクロエと私を抱えると、風を操って地下へと飛翔する。アカリはラファーガが、そしてプラドは自らの力で地下へと降りていく。
風を操れるエルフだからこその特技だ。
「それでは、お姉様。気をつけて! 叔母様とお兄様。しっかりシズカお姉様を守ってね」
「任せておけ! 何があるかわからん。セラフィナも気を抜くなよ」
「はい!」
セラフィナは私たちを降ろすと、最後の封印を行うため、再び地上へ戻っていった。
私たちは地下でカリオンたちと合流し、奥へと進んでいく。
その時だった。
再び、地面が大きく揺れた。
「来たぁ!」
クロエが叫んだ直後、前方から凄まじい轟音が響き渡った。
岩盤が崩れ、土煙が一気に吹き上がる。
その向こうから、巨大な影が現れた。
「やっと竜のお出ましだ」
怒りの目をした土穿竜が、私たちを睨みつけている。
「封印すれば眠るはず……」
私は竜から目を離さず、呟いた。だが、まだ最後の封印が残っている。
地上では、セラフィナが最後の封印石を完全に封じようとしているはずだ。
「シズカ、どうする?」
カリオンが武器を構える。
「まだよ。封印が完成するまで、ここで耐えるの」
土穿竜が低く唸り、地面を踏みしめる。
その振動が足元から伝わってくる。
私は竜の動きを警戒し、竜も私たちを警戒している。
すると――
「……何?」
突然、地下の天井が淡い光に包まれた。
そこに見えるのは岩盤だけだ。
セラフィナが、最後の封印石を完全に封じたのだ。
四方の封印石を中心に広がった魔力が、空を覆い、地下深くまで伸びてきた。
「結界が張られた」
プラドが呟く。
完全に封じられた。
これで土穿竜は眠る。
私は、そう確信していた。
「さあ……眠って」
土穿竜を見つめる。
だが――
竜は眠るどころか、その巨大な身体をゆっくりと起こし、再び私たちへと視線を向ける。
「……え?」
土穿竜は眠らない。
「そんな……」
セラフィナが完全に封印したはずなのに。
私は目の前の竜を見つめたまま、呟いた。
「封印すれば、眠ると思ったのに……」
私の予想は、外れてしまった。間違いを犯していたようだ。
竜は、私を倒すべき敵と判断して再び動き始めた。
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