目覚めし凶悪。そのはじまり
今回はグロい描写があります。
苦手な方は読まない方がいいですよ。
「ここですか……」
「うん」
鋭乃は目の前の美術館を見つめる。
「じゃあ、行こうか」
隣のルナが先に入っていく。
鋭乃も後を追い、美術館に入る。
「は?何で亡霊達がいるんだよ」
一課の刑事が怪訝そうな顔で呟いた。
彼の言う『亡霊』とは妖怪課の刑事達のことである。
警視庁の墓場から来た刑事。だから亡霊らしい。
「今回の事件、妖怪絡みってことだな」
その男の隣にいた刑事が耳元で囁いた。
この美術館では昨晩、絵画が6点窃盗された。
四人組の窃盗団で、一人は既に逮捕された。
残り三人は今も逃亡を続けている。
周辺への聞き込みと現場の鑑識が進められている状況だ。
「それでどうして、私達が呼ばれたんですか」
ここまでの情報、そして現在の状況からすると。
妖怪の要素が全く無いのだが。
それなのになぜ、呼ばれたのだろうか。
「四人組の中に妖怪がいたんですか?」
浮雲がこちらに歩み寄りながら、尋ねる。
「いや。そうじゃないんだ」
「じゃあどうして―――」
「皆さぁぁん!!」
突然、元気の良い大声が聞こえた。
声のした方を見ると、蛇腹一がこちらに手を振っていた。
「やっぱり例の絵画、盗まれたみたいですー!」
(うるさっ……)
思わず顔をしかめ、耳を押さえてしまう。
耳を押さえる鋭乃の隣で、浮雲は一瞬息を呑んだ。
(ん……?例の絵画?)
少しして。彼の言った言葉を認識し、疑問を抱く。
「ルナさん。例の絵画って……?」
「ああ、後で話すよ。まず、一の方に行こうか」
鋭乃、ルナ、浮雲の三人は一の方に向かった。
「あれ。課長はどうしたんですか」
一がルナに聞いた。
そういえば課長こと隅啄毒太がいない。一体どこにいるのか―――
「毒太は周辺の聞き込みに回ってる。もしもの時に備えて、ベテランが良いかと思って」
「もしもの時……?」
「ええ〜?大丈夫ですかぁ。【流し】を持ってるルナさんが行った方がいいんじゃ―――」
(ながし?どういうこと?)
またもや置いてけぼりである。
「あ。鋭乃には説明してなかったね」
ルナが近づいてきた。
そして鋭乃の目の前で止まって、両手を広げた。
「鋭乃。ボクを殴ってみて」
「……はい!?」
『殴ってみて』突然言われたその言葉に、驚く。
「なっ。どうして―――」
「ボクの能力【流し】を説明するためだよ。百聞は一見にしかずって言うじゃん。実際に経験した方が良いかと思ってね」
「え。で、でも―――」
いくら指示されたとはいえ。先輩を殴るだなんて暴挙、とても自分にはできな―――
「妖怪課に入れるのが最適だと、人事に推薦したのはボクだよ」
「どおりゃああ!!」
全力の拳をぶつけに行った。
真っ直ぐ、ルナの顔目がけて振るった拳。
しかし、何か見えない道に誘導されるような感覚がして。当たらず、左に逸れてしまった。
「当たら……ない!?」
「これがボクの持つ能力、【流し】。ボクに真っ直ぐ向かってくる物の軌道を横に流すんだ。にしても―――」
ルナはゆっくり瞬きをした後、鋭乃に顔を向けた。
「妖怪課になったの、そんなに嫌だったんだね」
「え。あ、いや!その、それほどまで、嫌。というわけでは。決して―――」
慌てて取り繕う。
それも無駄かもしれない。一度本気で怒ったのだから。
「鋭乃ちゃん。石の上にも三年、住めば都。最初は嫌でも、耐えればきっと心地良くなるよ」
後ろから浮雲が肩を叩いてきた。
「は、はい……」
恥ずかしくなって俯く。
「皆さん。ここを見てください」
一が壁の一角を指差していた。こちらのことなど、全く気にも留めずに。
彼の指差す先には、絵画が掛けられていた跡がある。
「ここに例の絵画があったそうなんです」
「そうだったんだ」
一以外の三人も跡を見上げる。
「それにしても。よくもあんな絵を、お客さんに見せようと考えたなぁ。窃盗団もどうして盗もうとしたのか」
「本当はこっちを盗もうとしたんじゃないですか?」
浮雲が跡の隣にある絵画を指差した。
「この絵って現代のアーティストの有名な絵画で、数億円するそうですよ。たぶん、暗い中で盗んでいたから間違えたんじゃないですかねぇ」
三人でなんか盛り上がっているが。
鋭乃はいまだに置いてけぼりである。
「あの。その、例の絵画というのは?」
意を決して聞いてみる。
すると、ルナが脇に抱えたタブレットを操作し始めた。
少しして手を止め、画面を見せてきた。
そこに映っていたのは一枚の絵画。
一人の男が手足を拘束され、体中に槍が刺さっている。
俯いていて顔は見えない。逞しい体つきをしており、立派な胸筋が描かれている。
その胸には虎のタトゥーが彫られていた。
(あれ……なんか、血の表現が変わってる―――)
男の流す血は滴っていない。
なぜか、煙のように描かれていた。
「これは何の絵ですか」
「嗜虐心の権化、サギッタリウスの絵だよ」
「……嗜虐心の権化」
嗜虐。他者を虐める時に、快感や興奮を感じることだ。
その気持ちが固まった存在―――
そう考えると、寒気がして少し身震いする。
「1969年から2003年までの34年間、大量殺人を行っていた妖怪ですね」
浮雲が真剣な表情で解説した。
「大量殺人―――」
「気まぐれに狙った人間を殺してたんだ。被害者達は年齢も性別も職業も、住んでいる地域もバラバラでね。まあ、多かったのは眼鏡をかけた40代から50代の女性だったんだけど」
「それはなぜですか」
鋭乃が聞くと、ルナは呆れたようにため息をついた。
「あいつの好みだよ。知的に見える熟女が好みらしいね。そういう人達は陵辱しながら殺される」
「っ―――!」
なんとひどい話だ。ただ殺すのではなく、その体を穢すというのか。
「許せませんね……」
拳を固め、それを震わせる。
そんな鋭乃の様子を見て、ルナが一言。
「オグさんの言った通りだね」
「え―――」
ルナの方を見ると、彼女は鋭乃の拳を見つめていた。
「鋭乃はとても正義感の強い子だって、そう言ってたよ」
「そう、なんですか―――」
彼女とは、時々会うくらいの間柄だが。
なぜ分かったのだろうか。
「その絵画って、サギッタリウスを描いた物ではなく。奴を封じ込めた物なんですよね」
横から一がルナに確認する。
(え……封じ込めた……?)
封じ込めた、ということは。
「まさか。中にサギッタリウスがいるんですか……?」
そう聞く声は、震えていた。
「うん。今はまだいるのか、分からないけど」
「どういうことですか」
ルナは俯いて、説明し始めた。
「妖術の中に【画封印術】っていうのがあって。それはね、対象を絵の中に封じ込める術なんだ。でも」
「でも……?」
「その封印している絵が破れたり、濡れたりすると。術の力が弱まって、対象は出られるようになる」
「そんな……じゃあ、もし絵に何かあったら―――」
鋭乃の言葉にルナは顔を見合わせて、頷いた。
「あいつは出てくる」
ルナの答えに息を呑んだ。
「そうならないように。課長が回収に向かっているんだよ」
浮雲が後ろから、鋭乃の肩をぽんと軽く叩く。
「課長が……」
その言葉を聞いて。
安心するどころか―――寧ろ不安になった。
これまで見てきて、隅啄が真剣に仕事をしているとは思えなかった。
あの男の目的はオグ。それだけである。
彼女が関与しない件には、そこそこの気持ちで取り組んでいるように見えた。
彼女が関与していても、解決できていない件もある。
捜索を協力してから二ヶ月ほど経ったが。いまだに天邪鬼の青年・ナナシを発見できていない。
「―――心配ですね」
「あれ?課長のこと、あんまり信用してない感じ?」
「鋭乃の目にはそう見えるか。あれでも腕の良い方なんだけどね」
ルナがため息をついた。
その時、一のスマホに着信が来た。
彼はすぐさまスマホを耳に当て、応対する。
「はい!こちらは警視庁、妖怪課の蛇腹一です!どのようなご用件で―――」
「長い!うるさい!こっちは急いでんだ、阿呆!」
相手は隅啄のようだ。
電話の向こうから、怒鳴り散らしてきた。
「一、スピーカーにして」
一はスピーカーモードにして、三人は傍に寄る。
「急いでるって、どうして?」
「ぬっ。ルナかよ―――」
「ボクだったら何か都合の悪いことでもあるのかな」
「いや。別にそういうわけじゃないけど―――」
「毒太がボクのこと嫌いなのは知ってる。それよりも、何があったのか伝えてほしいな」
「分かってる。奴らの一時的な潜伏場所を突き止めて、入っていったんだ。それでな」
「それで?」
電話の向こうからため息が聞こえた。
「手遅れだった。絵は少し破れていて、サギッタリウスはいなかった。それに―――」
隅啄は一拍空けてから、少し声のトーンを落とした。
「やられた。残りの三人のうち、二人が遺体で発見された。しかも四肢が切り取られていたり、内臓がそこらに散りばめられたりしてる。惨いぞ、本当に」
「残りの一人は?」
ルナが聞くと、隅啄はまたため息をついた。
今度は呆れの籠もったようなため息だ。
「相変わらず冷たいな―――残りの一人はここにはいない。それと、壁に血で手紙が書かれている」
「何て書いてある?」
「『警察諸君へ。俺が眠っていた20年間で、お前達がどんな進化を遂げたのか見てみたい。最後の一人を探してみろ』だとよ。完全に俺らをナメてるな」
「そうか。じゃあ早く見つけないとね」
一がスマホに少し顔を近づける。
「課長。他に何か、伝えることありますか?」
「いや、もうない。切っていいぞ」
画面をタップし、通話を終了する。
「犠牲者が既に二人―――」
鋭乃は俯いて、唇を噛む。
目には見えない、触れられない”悔しみ“を、噛みしめるように。
「過ぎたことは仕方ないよ。次の犠牲が出る前に、早く奴を見つけよう」
「……はい」
ルナの対応が少し気にかかった。
なぜ彼女は人が死んでも、これほどまで淡々としているのか。
「まずは毒太と合流しようか」
ルナについて行くような形で、三人も美術館を出た。
▲ ▲ ▲ ◆ ▲ ▲ ▲
件の潜伏場所に到着した。
そこは廃墟の雑居ビルの一室だった。
「課長〜。ただいま到着しましたぁ」
浮雲が隅啄に手を振る。
「着いたか。手紙はそこの壁に書いてある」
親指で差された先。
そこには、異臭を漂わせる赤黒い文字が並んでいた。
内容は電話で伝えられたのと同じ物。
最後の一文に添えるように、斜め下に『by Sagittarius』と書かれている。
「サインのつもりかよ―――」
毒太は忌々しげに呟いた。
「うん。奴の犯行だね。間違いない」
ルナは壁の血文字を見て、頷いた。
「毎回、こういう手紙とサインを残すんですよね」
浮雲も血文字を隣で見つめている。
「うっ―――」
目の前の凄惨な光景に、吐き気を催し口元を抑えた。
切られた腕と足がそこらに放って置かれている。
周りには、赤黒い物体が散らばっている。
一つだけある、細長い物体―――形状からして腸だと判断できた。
ということは、その他の物体も何かしらの臓器なのだろう。
その四肢や物体の他に、剥ぎ取られた爪もそこかしこに散っていた。
(なんて……惨い……)
鳥肌が立ってきた。それだけではない。
こんな悪魔のような所業が行える奴へ。
今まで感じたことがないほどの嫌悪と、恐怖と、怒りが渦巻いた。
(絶対に許さない。許しちゃ、野放しにしちゃいけないんだ。奴だけは絶対に―――)
目に強い敵意を宿らせ、血文字を睨みつける。
「最後の一人、連れて行かれたのかなぁ」
一が顎に手を当て、誰にともなく呟いた。
「どこかに拠点でも設けているんですかね」
浮雲のその言葉にルナが横から否定する。
「それはない。奴は拠点とか持たないんだ。封印される前も色んな場所を転々としてた感じだし」
ふと、鋭乃は宿主のことを思い出した。
「権化には宿主がいるんですよね?奴の宿主の住居とか、仕事先とかは」
鋭乃の質問に、ルナは首を横に振る。
「奴の宿主、星見 賢一の家も仕事先も。今では空き地と駐車場になっちゃってる」
「そうですか―――」
今のところ、手掛かりは全くない。
このまま奴を探せず終いなのか―――
その時。
隅啄のスマホに着信が来た。
「はい。こちら妖怪課の隅啄です。……はい。はい、は……え―――?」
彼の顔には驚きが見て取れた。
ゆっくり首を動かし、こちらを向く。
「最後の一人が見つかったそうだ」
(え……?ええ!?)
じわじわと驚きがきて、それが溢れ出す。
「ほ、本当ですか!?それで。その人の安否は!?」
隅啄は無言のまま、首を横に振った。
「そんな―――」
つまり、その人は死んでいるということだ。
「ふむ。ボクの推測が正しければ。たぶん、その人は逃げようとして殺されたんじゃないかな。あいつは、人間を苦しめて拷問して殺すのが好きなんだ。それがあまりにも苦しくて、逃げようとしたところを一息に」
「っ―――!」
やはり奴は許せない。
いくら被害者が犯罪を犯しているとはいえ。
身勝手な理由で、苦しめられて殺される筋合いは無いはずだ。
法の裁きを真っ当に受けること。これこそが、その人が正しく“裁かれる”ことなのだ。
鋭乃はそう考えている。
「また四肢を切られたりとか、内臓を取り出されたりとか。そんな、惨たらしい殺され方ですか」
一が聞くと、隅啄が怪訝そうな顔で返した。
「お前よく平然と口に出せるな、そんな言葉。まあ、それは置いといて。今回は背中を刺されているみたいだ。それ以外に詳しいことはまだ分からない。こればかりは現場に向かうしかないな」
▲ ▲ ▲ ◆ ▲ ▲ ▲
遺体の発見場所に着いた五人。
そこは雑居ビルから約4Km離れた、一軒家だった。
「かなり離れていますね」
「どうしてこんな場所まで連れて行ったんだろう」
浮雲は呟き、首を傾げた。
「あ!迫噛さん、裏在さん。あれ見てください!」
一が指差したのは斜め上。見上げると―――
「うっ―――」
「うわあ……」
鋭乃は口元を押さえ、浮雲は顔を引きつらせた。
二階の部屋の開いた窓に、男が倒れ込んでいた。
背中に大量の出血が確認できる。
おそらく、あれが死因だろう。
「鋭乃ちゃん、大丈夫?」
浮雲は鋭乃の背中を擦る。
「はい……大丈夫です……」
「迫噛さん、無理しない方がいいよ。辛いのなら休んだらいい。捜査は僕達で進めるから」
一の言葉は、鋭乃を心配して言った物だ。
しかし―――
(あ……?ナメてんのか……?)
それは鋭乃の中の何かに火をつけた。
その言葉を『戦力外通告』と捉えたのもあるが。
一が笑顔でそれを言ったのも原因である。
(私だって刑事だ。こんなことで捜査から外されるなんて、そんなのあっちゃいけない!)
そう思うと。背筋がピンと伸びた。
「心配してくれてどうも、ありがとう。でも大丈夫だから!私、この後も捜査できるから!」
若干、強い語気で返した。
一はその答えに、輝かしい笑みを浮かべた。
「大丈夫なら良かった!」
彼はどうやら、鋭乃がキレているのに気づいてないらしい。
その様子を見て、浮雲は苦笑いを浮かべる。
「おい、お前らトロトロするな。早く入って来い」
隅啄が玄関の戸を開き、荒い手招きをする。
「分かってますよぉ!」
鋭乃の不貞腐れたような返事に、隅啄が眉を曲げる。
口には出さないが、ひどく不満そうな顔をしている。
「あ。すみませ〜ん。今すぐ行きま〜す」
「はい!」
三人は家の中に入った。
「こっちだ。ガイシャは二階にいる」
廊下を西から東へ進み、一番奥にある階段を上って二階へ。
「遺体は向こうの、左側の部屋にある」
今度は廊下を東から西、先ほどとは反対方向に進む。
突き当たりの左側の部屋。
ここに彼が、惨たらしい姿にされた被害者がいる。
ドアノブに手をかけるも、すぐには開けられない。
指先が震え、上手く力が入らないのだ。
そっと―――誰かの手が、鋭乃の手に重なる。
その手の主は、浮雲だった。
「いいよ鋭乃ちゃん、ゆっくりで。ゆっくりゆっくり落ち着いて。慣れていこうね」
「はい……」
なんて優しくて、温かい人なんだろう。
目頭が少し熱くなった、気がした。
浮雲が支えてくれたからか、今度はしっかり握れた。
ゆっくり静かにノブを回し、戸を押す。
開いた先に見えた物は、やはり遺体だった。
遺体から意識を逸らし、部屋を見渡す。
至る所に血痕が確認できた。
今度は口元を押さえない。
歯を強く噛み合わせ、目の前の惨状と向き合う決意を固めたのだ。
ゆっくり、一歩ずつ進み部屋に入る。
あの異臭、人の死の臭いが漂う部屋。
吐き気を必死に抑え込み、鋭乃はさらに進む。
すると、左の壁に血文字があるのに気づいた。
『残念だったな、警察諸君。お前達が遅いせいで、こいつは死んでしまった。次は守りきれるといいな。
by Sagittarius』
そう書かれていた。
見た瞬間、鋭乃の中で怒りが爆発した。
しかし、彼女は叫ぶことも物に当たることもしなかった。
ただ静かに。静かに怒りの炎を内で燃やした。
「ふざ、け……」
その先の言葉がつっかえて、出てこなかった。
握った拳を震わせ、血文字を睨みつける。
「迫噛」
後ろから肩に手を置かれた。
振り返ると、そこには隅啄がいた。
目が合うと、彼はギョッとした表情になった。
「お前、顔怖すぎだろ。般若かよ。て、そんなことはどうでもいい。ガイシャについて調べたんだ。こいつの名前は巻添 奪取。情報によると、ここは自宅らしい」
「え……」
自宅……?
「サギッタリウスから逃げて自宅に……?」
鋭乃が聞くと、隅啄は首を傾げた。
「さあな。それは分からない。もしかしたら奴が脅して。ガイシャの自宅に自分も連れて行くように、要求したのかもしれないし」
「それはどうして―――?」
「だから分からん。そういった情報はこれから調べていくしかないだろうな」
時刻は午後6時を回ろうとしていた。
6月の下旬、空はまだ明るい。
あとは鑑識に任せ、妖怪課は周辺への聞き込みに回ることになった。
一軒家から出て、少し歩いたところ。
鋭乃は振り返り、巻添が倒れていた窓を見上げる。
遺体は既に運び出され、そこには大量の血痕が残っているだけだった。
「巻添さん。あなたの無念は私が晴らします。絶対に奴を―――サギッタリウスを捕まえてみせますから」
そう宣言する。
その時。
「甘いなぁ。俺を捕まえるだけで抑えられると思っているのか?」
後ろから、男の声が聞こえた。
バッと勢いよく振り返るも。そこには誰もいなかった。
雑居ビルのシーン、自分で書いていてゾッとしました。
爪を剥ぎ取られるとか、想像しただけでゾゾゾとしますね(恐怖で)。
巻添の家は、彼が倒れていた窓が南を向いている間取りで考えました。
図が無いので、分かりにくいと思いますが。
巻添は、他のメンバーが絵を破って出てきたサギッタリウスに殺されました。
そのため『巻き添えを食らった』という訳です。




