オカ研との対面
一応、優生くん目線のお話です。
読み返したら少し変だったので、すぐ改稿しました。
梅雨が明け、蝉が鳴き始める7月。
エスピトラが、ついに営業を再開した。
再開当日。オカルト研究部の四人は事務所に来た。
「やっと営業再開かぁ〜」
押頼がう〜んと背伸びする。
「長かったね〜二ヶ月も〜フヒヒッ」
「こんにちはー。オカ研でーす」
代表して優生がドアをノックする。
「どうぞー」
中から声が聞こえた。
扉を開き中に入る。
「久しぶり〜!皆、元気にして―――ん?その子は?」
扉を開くと、目の前にナルがいた。
彼はいびつを見て、首を傾げる。
「オカ研の新メンバー、神代いびつくんです!」
「初めまして。神代いびつと申します」
いびつは一歩前に出て、丁寧に一礼した。
「へぇ。いびつくん、か。おれはナル。よろしくね」
ナルは握手を求めた。
いびつは一瞬眉を引くつかせた。が、何事もなかったかのように、握手に応じた。
「よお、久しぶりだな」
後ろからオキミも出てきた。
「オキミ。この子、オカ研の新メンバーで、いびつくんって言うんだって」
「ふ〜ん。新メンバーか。オレはオキミだ」
「オキミさんにナルさん。よろしくお願いします」
いびつはもう一度、一礼する。
「あれ。オグさんは」
押頼が聞いた。
周りを見渡す。確かにオグの姿がない。
「ああ。買い物だよ」
「そうですか」
「あ。お客さんを立たせたままじゃいけないね。どうぞ、座って」
四人はナルに促されるまま、ソファに腰掛ける。
「それで。今日はどういう用件で来たのかな」
ナルとオキミも四人と向かい合うように座る。
「いや、その。用件っていう用件はないんですけど」
押頼が気まずそうに頭を掻く。
「そうなの?」
「はい。あ。そういえば二ヶ月も臨時休業してた理由って―――?」
「ああ〜。それはね、人造妖怪と戦ってたんだよ」
「へぇ〜人造妖怪と……ん?」
人造妖怪!?
その単語に、他の三人も目を見開いて驚く。
「人造妖怪!?それって人工的に造られた妖怪ってことですよね!?造れるものなんですか!?」
押頼が立ち上がり、すごい勢いで食いついていく。
「急に食いつきエグいな」
「あ。で、でもね!人造妖怪っていってもロボットだよ。ロボット」
「ロボット……」
急に押頼がソファにへたりと座り込んだ。
力が抜け、ひどく落胆しているように見える。
「どういう経緯で戦ったんですか」
押頼の代わりに優生が聞く。
「ん〜とね。オグさんの知り合いに狒々川さんって妖怪が居てね。彼が人質をとって、自分の造った人造妖怪と戦うようにおれ達に迫ったんだよ」
「え……」
人質をとった……?
「ええ〜。強引だなぁ。人質の方々ってどうなったんですかぁ」
「大丈夫だよ。皆、無事。まあ……途中で勝負どころじゃなくなったんだけど―――」
「何かあったんですか」
いびつが真剣な表情で聞いた。
「えっとぉ……三人は前聞いたから知ってると思うけど。オグさんが本気モードになりかけて―――」
「え!?」
オグが本気モード。つまりは龍の姿に―――?
「その……それで暴走してしまった、というか」
ナルは目を泳がせ、言いづらそうにしている。
「暴走―――?」
いびつが目を少し細めた。
「なんか。オグの本気モードの“憎龍“って、暴力的な性格みたいだぜ」
オキミが欠伸をしながら答えた。
「え。オグさんとは違う人格なんですか」
「ん〜。なんか、そうみたいだよ」
「そうみたいって―――」
いびつが呆れの籠もったため息をついた。
「どうして伝聞の言い方なんですか」
「オレら二人とも、見てないんだから仕方ねぇだろ」
「見てない―――?」
共闘したのではないのか。
「人造妖怪は三体いたんだ。おれとオグさんとオキミは、それぞれ別の相手と戦ってたんだ。なかなか手強い相手でね。ギリギリ勝って、戦いが終わった直後に気絶しちゃって」
「その戦闘で大怪我を負ったんだ。一ヶ月も入院する羽目になったぜ……」
「え!?」
驚いた。まさかそんな事態になっていたとは。
「怪我は治ったんですか!?痛みとかは」
二人の全身を見渡す。今は無傷に見える。
「大丈夫だよ。完治してる」
「それならいいんですけど―――」
とりあえず。今は大丈夫らしい。
しかし驚いた。
それで二ヶ月も臨時休業していたのか。
「あの。すみません。聞きたいことがあるのですが」
突然、いびつが声を発した。
「ん?どうかした?」
「皆さんはなぜ、この仕事をしているんですか」
「え……?なぜこの仕事をしているか?」
「便利屋やってる理由ってことか」
「はい」
ナルは顎に手を当て、空を見つめる。
「ん〜。そうだねぇ―――おれはちょっとワケありで、社長に助けてもらってね。第一の理由はその恩かな。第二の理由は、自分の力で誰かを笑顔にしたいって思いがあったからだよ」
(素敵な思いだなぁ……)
ナルの理由に少しばかり感動しつつ、相槌を打つ。
「オレもまあ、似たようなもんだ。ワケあって社長とオグに助けてもらって。最初はその恩返しでな」
「そうだったんですね」
オキミの理由にも相槌を打つ。
二人の“ワケ“とやらは、少々気になるが。
そういうデリケートな問題は触れてはならない。
それくらいの分別はつく。
「ただいま〜」
突然ドアが開き、二人、入ってきた。
一人はオグ。もう一人は、6歳くらいの男の子だ。
両手に膨らんだ袋を持っている。
「あ。お久しぶりです、オグさん」
「あ。こんにちは、オカ研のみなさ―――」
そこまで言って、オグは固まった。
ただ一点を見つめている。
まるで幽霊でも見たような表情で。
「あなたは……!?そんなまさか―――」
「オグさん。どうかした?」
様子のおかしいオグを心配し、ナルが近づいていく。
「ナルくん。あの、赤い瞳の彼は―――?」
顔を強張らせて、ナルに聞いた。
「え。ああ。彼は神代いびつくん。オカ研の新メンバーなんだって」
「神代……いびつ……さん」
名前を聞いた瞬間、オグの表情が少し和らいだ。
「オグさん。どうかしましたか?」
あまりにも様子がおかしいため、気になった。
「いえ、何も。ただ―――」
オグは真っ直ぐいびつを見据えた。
「私の昔の知り合いに、とてもよく似ていらしたので。それで驚いてしまって」
最後は苦笑して、理由を説明した。
すると突然。男の子がオグの後ろに隠れた。
小さな子が初対面の人を警戒して、親の後ろに隠れる、あの動きだ。
「ん?ひなとくん、どうかした?」
ひなとと呼ばれた男の子。彼は顔を強張らせて、こちらを見ている。
「えっと……。ごめんね〜。いつもはこんな感じじゃないんだよ。初対面の人にもちゃんと挨拶できる子なんだけどね―――」
ナルが取り繕うように言った。
「あ!」
今度はオグが声を上げた。
「どうしたんだよ急に」
「すみません、買い忘れがありました」
「え。そうなの?」
「はい。じゃあ、もう一回出かけてきます」
オグはひなとを連れて、そそくさと出ていってしまった。
「行っちゃった……」
押頼が残念そうに呟いた。
「聞きたいことがあったんですがね―――」
いびつもため息をついて落胆したように見える。
「あの。さっきのひなとくんっていう、あの子は―――」
先ほどから気になっていたことを聞いてみる。
「ああ。あの子はねぇ、ちょっと社長の都合で預かってる子なんだよ」
ナルがソファに座りながら答えた。
「へぇ……そうなんですね」
「うん。本人いわく、鷹の妖のクォーターらしいよ」
クォーター。四分の一が妖怪だということか。
「彼のご両親は?」
押頼が横から入ってきた。
「それは分からない。社長も、おれらに詳しいことは教えてくれなかったし。ただ『しばらくの間、預かっていてほしい』って頼まれただけなんだ」
ナルは目を伏せ、難しい顔で答えた。
「そうなんですね―――」
「取材の時にいなかったのは?」
押頼が尋ねた。
確かに。取材した時、彼はいなかった。
「ああ。あの時は社長と遊びに行ってたんだよ」
「社長と?」
「うん。実はひなとくんって、ちょっと子どもらしくないんだよね。おもちゃを欲しがったりとか、遊園地に行きたがったりするとか。そういう子どもらしい面がなくてさ」
ふぅとため息をついて、ナルは俯いた。
「でも。きっとそれは、我慢してるんだよ。だから時々、社長が遊園地に連れて行くんだよね」
「子どもが子どもらしくいられるようにってな」
オキミが横から補足した。
「それに。社長は、すげぇ年取った爺さんだから。社長自身も孫を連れてる感覚で楽しいのかもな」
「え。オグさんが社長じゃないんですか」
「あれ。言ってなかったっけ」
オキミが顎に手を当て、考える仕草を見せる。
「確かに。会社の話はしてないな」
「そうかぁ。あのね、うちの会社の社長はね。桜寿様っていって、桜の木精なんだ」
「木精……植物が進化した妖怪ですね」
「おお〜。押頼くん、よく覚えてるね!」
ナルが親指を立て、押頼に称賛を送る。
「でも会ったことないんですけど〜」
「桜寿様は、テルビーエの最高権力者の“賢者“って職に就いてるんだ。だから、うちの会社の管理はするけど、基本営業には関わらない感じ」
「最高権力者!?」
ナルは何のことでもないように、さらりと言ったが。
それは四人にとって、衝撃的すぎる単語だった。
「驚くのも無理ないか。まあ、それで毎日忙しくて、こっちには手が回らないってことだ」
「ひぇぇ〜。すごい御方なんですねぇ」
「いつか、会ってみたいですね―――」
いびつが口角を少し上げた。
「てか。お前ら時間大丈夫かよ。もう5時になるぞ」
オキミが時計を指差しながら忠告した。
「本当だ。もうこんな時間……」
「そろそろ帰ろうか〜」
四人はソファから立ち上がり、帰る準備を始めた。
「それじゃあ、おじゃましました」
ナルとオキミに一礼して、四人は事務所を去った。
▲ ▲ ▲ ◆ ▲ ▲ ▲
オカルト研究部の四人が去ってから少し経って。
オグが一人で帰ってきた。
「オグさん、ひなとくんは?」
「社長のところに預けました。体調が悪くなったようなので」
「え。そうなの?大丈夫かなぁ、ひなとくん」
ナルはドアを見つめて呟いた。
「ひなとがか?珍しいな。風邪を引いたことなんて、一度もないのに」
オキミも目を見開いて驚いている。
「それよりも。お二人に、話さなければならないことがあります」
「え。どうしたの急に。改まって」
オグはソファに腰掛け、深いため息をついた。
「先ほど、オカルト研究部の方々が来られましたよね」
「ああ。そうだな」
「その中の一人、神代いびつさんのことですが―――」
オグは一度、息を吸ってゆっくり吐いた。
「彼には気をつけた方がいいです」
ナルとオキミはその言葉に、静かに驚いた。
三人の間に沈黙が訪れる。
「それは―――どういう意味?」
「彼の一族、神代家は。古から妖怪と敵対し、妖怪に対抗する力を付けた、世界で唯一の妖術師なのです」
「妖術師……?」
オグの言葉が衝撃的だった。
「そんなのいんのかよ……」
オキミも衝撃を受けているようだ。
「妖術師なんて初耳だよ。なんで誰も教えてくれなかったのかな」
「教える以前に、知り渡っていなかったのだと思います。日本だけで活動していましたし。明治以降、勢いが落ちていきましたからね」
「そうだったんだ」
「妖術師って、人間でも妖力持ってるってことか?それって妖人と何が違うんだよ」
オキミが首を傾げて聞いた。
「神代家は形式を持たず、主に道具や武器を使って戦います。それと。本人達いわく『自分達は“星神”と呼ばれる存在に選ばれ、力を与えられた特別な人間』だそうです」
星神……?
「何だよそれ、星神って」
「それは私や桜寿様も分かりません。神代家の話以外に情報が無いので、よく分かっていないんですよ」
「そうなんだ」
「ともかく―――」
オグは二人に顔を近づけた。
「何度も言いますが、彼には気をつけた方がいいです。妖怪を良く思ってないでしょうし、戦う力がありますからね―――」
オグの真剣な表情とその言葉の重みに。
二人は息を呑んだ。
静かに忍び寄る不穏な空気を、三人は感じ取った―――
実は前話『目覚めし凶悪。そのはじまり』よりも、この話の方が先に出来ていました。
調べたら、蝉って種類によって鳴き始める時期が違うみたいですね。
7月上旬に鳴き始めるのは、クマゼミだとかアブラゼミとかだそうです。




