vs斬之助
オグと向かい合っているのは刀の人造妖怪。
部屋に入ると、静かに刀の柄に手を置いた。
「お前が深憎オーガストか。我らの製作者、狒々川剛にお前を倒せとの命令を受けている」
人造妖怪はオグを睨みつけた。
その目つきからは敵意を感じる。
「気迫がありますね」
人造妖怪としての完成度に感心する。
「ただ戦えるだけでは、人造妖怪とは呼べぬ。そんな兵器は人間でも作れる。―――話が逸れたな。さあ、行くぞ」
相手は刀を抜き、構えた。
―――と思いきや。なぜか刀を下ろした。
「どうかしました?」
「名乗るのを忘れていた。拙者は斬之助」
「名乗り大事ですか……?」
「大事だ。さあ、来い!」
再び、斬之助は刀を構える。
「では遠慮なく」
オグは足元の黒い沼からナタを取り出した。
姿勢を低め、一気に力を解放して走り出す。
斬之助も刀を構え、走り出す。
銀の刀と黒いナタがぶつかり、拮抗する。
火花を散らし、金属同士が擦れ合う音が響く。
「お前の体を構成する、憎しみで造ったナタ。拙者の刀と同等の硬さを持つとは」
「驚きました?」
「拙者のデータの中に、お前のナタの情報は少ししかなかった。想定外だ」
このまませめぎ合っていても無駄か。
双方が気づき、同じタイミングで離れた。
一歩ずつ確実に、互いに距離を詰める。
(試してみるか―――)
オグは黒い沼を斬之助の足元まで広げる。
そこから一気に多数の手が飛び出し、斬之助に襲いかかる。
手が斬之助の体を抑え込む―――ことはできなかった。
斬之助が刀を振り回し、手を薙ぎ払った。
手はバラバラに崩れ、形を留められなかった。
やはり思った通りだ。
(あの刀。【妖力分散】の術が彫られている)
刀をよく見ると、とても小さな文字が彫られていた。
武器に術名を彫り妖力を込めると、その術の効果を付与することができる。
だが、彫る術名は妖怪古語でないと効果を発揮しない。
この刀に【妖力分散】の術が彫られているのは、オグの肉体凝結を阻害するためであろう。
「気づいたか。権化が相手だからな。ただの刀で斬っても意味がない」
権化は宿主の感情と妖力のみで構成されている。
体が液体などであるため、生物系の妖怪と違い、瞬時に肉体を修復することができる。
妖力を集中し固めることで肉体を留められるのだ。
しかし分散させられては、それができない。
「なるほど―――」
どうやら勝つための工夫はしているらしい。
ちなみに、分散してしまった妖力だが取り戻すことはできない。
これから空気に溶け込み、世界中を巡るだろう。
三時間ほど休憩すれば回復できるが―――とても今はそんなことできない。
とにかく斬之助を倒さなければ。
さて、この後はどのように攻めようか。
計画を練ろうとしたとき。
ふと、クラっと変な感覚がした。
「……?」
生物ではないから、目眩は起こさないはず。
疲れも感じない。毒も効かない。そのはずだ。
では、今のは何なのか?
(もしや。刀に彫られた術は他にもある?)
それしか考えられない。
あの刀、思ったより危険かもしれない。
「どうした。来ないのか」
斬之助がこちらに刃先を向ける。
オグは自身の足元に沼を作り出し、その中に溶け込んだ。
そして勢いをつけ、再び斬之助に向かっていった。
ナタと刀が再びぶつかる。
「同じ手が通用すると―――なっ、まさか!」
斬之助は慌てて振り返る。
気づいたようだ。
後ろから、もう一体のオグが来ていることに。
―――実はこちらが本物だ。
今、斬之助が抑えているのはダミーである。
オグはナタを斬之助の腰に目掛けて、横から切りにいく。
腰にナタがぶつかった、だけではなく。
力が強かったのか、少し食い込んでいる。
そのまま力を込めて押し通そうとする。
だが、斬之助もやられっぱなしではない。
ダミーオグを蹴り飛ばし、本物に刀を振るう。
刀が当たる直前、二体のオグは再び沼に消えた。
「想定外だ。分身もできるのか」
斬之助から離れた場所に、オグが再び姿を現す。
「剛くんに私の戦闘を見せたこと、あまりないですからね。あなた達のデータにないのも当然かと」
二人はまた距離を取ることになった。
しかし、今ので収穫はあった。
(妖力探知が苦手―――それが彼の欠点か)
ダミーに多量に、本物が持つ分を少なく。
そう仕掛けると、気づくのに遅れが生じていた。
(妖術専門じゃないからって怠りましたね―――)
斬之助のスペックに慢心して、探知機能を疎かにしたのだろう。
剛は昔から小さなミスをすることが多い。
本人はきちんと確認しているつもりだが、必ずどこか忘れているところがあるのだ。
全く。大人になっても悪い癖は治っていないようだ。
思わずため息が漏れ出た。
「お前、戦いに集中していないのか?」
斬之助が尋ねてきた。
「まあ少しの間、余計なことを考えていました」
オグの返答を聞き、斬之助は首を傾げた。
「理解不能である。なぜ既存の妖怪は未知を前にしても、そんなにも呑気でいられるのか」
「剛くん絡みでちょっと余念が浮かんだだけですよ」
「狒々川は今、関係ないはずだ」
「いいえ。あなたの製作者なのですから、大いに関係あります。彼の欠点から、あなたの欠点を見つけることができましたし」
「拙者の欠点か。よく見つけたな」
「ええ。まあ」
「話が逸れたな。続けるぞ」
斬之助が再び刀を構え、向かってくる。
攻撃を避けつつ、オグは考えていた。
分身はもう使えない。
刀に彫られた二つ目の術については、何となく想定がついた。
(二つ目はたぶん、【妖力吸収】かな。そうだったら、刀に触れるのはまずいなぁ……)
妖力を吸収されるのは、かなりの大打撃だ。
肉体凝結がさらに困難になる。
先ほどクラっとしたのも、一部が刀に触れ、妖力を吸われたことが原因だろう。
できればもう、吸われたくはない。
すなわち、刀の猛攻を避け続けるしかない。
考えている間にも攻められる。
斬之助が横振りで斬りかかってきた。
沼に逃げる。すると刀を沼に突き立てた。
「っ―――!」
まずい。このままでは妖力を吸われ続けてしまう。
飛び出し、斬之助を蹴り飛ばす。
刀が沼から離れる。
蹴られると同時に斬之助は、オグの足に刀を突き刺そうとした。
オグは結界を張り、刀を防いだ―――はずだが。
刀は結界を破り、オグの足に刺さった。
(しくじった―――)
焦っていて判断を間違えた。
妖力を固めてできる結界に対し、妖力を分散する刀。
彫られた術の効果により、結界が破られることは分かっていたのに。
斬之助はさらに力を込めて、刀を奥まで刺す。
オグは黒いドロドロの液体に姿を変え、斬之助から離れた。
かなり離れた壁際で女性の姿に戻る。
「300年生きた、生物でない妖怪でも。焦ると凡ミスするのだな」
「言葉は侍らしくないですね。本物の侍は凡ミスなんて言いませんよ」
斬之助の発言に言い返した。
言い返された斬之助は、目元を引くつかせる仕草を見せた。
「拙者はこれから、現代の妖怪達と関わるだろう。昔の言葉で話しては伝わらない」
「そこはこだわらなかったんですねぇ、剛くん」
「―――言葉など、どうでも良いだろう」
「侍らしくなくなりますがね」
また斬之助は目元を引くつかせた。
『侍らしくない』 その評価が不満らしい。
今度は何も言わずに斬りかかってきた。
再び液体に変わり、壁に避けた。
そのまま張り付き、斬之助の顔の傍まで移動する。
液体から腕を伸ばし、頬に拳を当てた。
不意打ちを食らった斬之助は、3mほど飛ばされ、床に脈打つように倒れた。
女性の姿に戻り、すぐさま殴りかかる。
相手は妖力を分散したり、吸収したりする。
ナタや【結界術】を使って勝てる相手ではない。
こう考え、体術に戦法を変えた。
斬之助は手を置き、体を持ち上げようとしている。
それでも構うことなく、殴りかかる。
斬之助は立ち上がるよりも先に、刀を振るった。
オグの右手首に刀が入り、斬られた位置から落ちた。
「っ―――」
落ちた手首を持ち上げ、斬之助から離れる。
手首を、切られた傷口に合わせ修復する。
5本、右手の全ての指を動かす。
(うん。ちゃんと繋がってる)
とりあえず安心した。
そして、斬之助に向き直る。
ここまでの戦いで、分かったことがある。
斬之助は動きがとても速いのだ。
また、立ち上がって攻めてくる。
今度は壁際にいるため下がることができない。
すれ違うように刀を避けた。すると、身軽な動きですぐに姿勢を取り直し攻めてきた。
刀が頬を掠めた。黒い液体が滴る。
軽く傷を拭い、すぐに修復する。
その後も何度も続けて攻めてくる。
迫りくる刃を右に左にスレスレで躱わす、突きさせられる前に液状になる。
避けるのはそれで精一杯だ。
ここ数年戦った相手は皆、肉体の異常なスペックで圧倒していたのに。
ここまで追い詰められたのは20年ぶり、あいつと戦って以来だろうか。
それに刀の腕前も体のスペックに劣っていない。
もし自分が人間だったら、始まってすぐに殺られていただろう。
(私が戦った、どの侍よりも強い―――)
冗談抜きでそう思った。いや、思わされた。
今まで戦ってきた侍達は皆、オグの攻撃から身を守るので精一杯だった。
斬之助はそんな奴らよりずっと強いのだ。
さて、ここからどうするか。
「避けてばかりいないで向かって来い!」
斬之助は痺れを切らしたのか、声を荒げた。
好戦的な性格にプログラムされているのだろうか。
「君の刀は私にとって天敵ですよ。慎重に戦いたいのです」
「それではつまらない!」
「しかし―――」
「拙者はあまりのんびりしていない。早く決着をつけたいと思っているのだ」
「……」
こうなったら。あの手を使うしかない。
オグは再び沼に溶け込む。
「またか。お前に真正面から向かう度胸は―――」
斬之助が言葉を止めた。
オグの姿を見て、唖然としているのだろう。
今のオグには頭に角が生えている。
樹木のように枝分かれした、艶のある漆黒の角が。
爪は鋭い鉤爪となり、腕や足には魚の鱗がある。
そう―――かつてのあの姿だ。
今も“日本で唯一の龍人“として伝えられている、あの。
二人が見つめ合う数秒の静寂が長く感じられた。
▲ ▲ ▲ ◆ ▲ ▲ ▲
「あの、次郎さん。天国に行かなくて大丈夫なんですか?」
彼と会ってから、気になっていたことを聞く。
次郎は少し驚いた顔をした。
「あ。違うんです!あの世に行けって言いたいんじゃなくて、向こう側に連行されないのかなって。少し気になって」
基本、死んだ人間は霊となり、天国か地獄に行く。
天に昇り、三途の川を渡って彼岸へ。そこから裁かれ、どちらかに行くのが通常だ。
時々、逃亡して現世に必死で残ろうとする者もいる。が、そういう者は強制的に連行される。
ちなみに怨霊は連行できない。怨霊達の恨みや未練は現世に強く魂を結びつけ、誰も切り離すことができない。
次郎は怨霊ではない。今は《再現粘土》で肉体を生成しているが、そうしなければ霊であるはずだ。
それならば、天国か地獄に行かなければならないはず。
次郎は善人だろうから、行き先は天国だと思うが。
「ああ〜。そのことかぁ。それはね、オグがいるからだよ」
「……?」
どういうことなのだろうか。
「あのね。感情の一部が妖怪として生きてる場合は、その感情の持ち主は彼岸へ行けないんだよ」
「え!?」
彼岸へ行けない!?そんなこと初めて聞いた。
「どうしてですか」
「桜寿様の話によると、それだと完全に死んだことにはならないみたいで。その妖怪が死んだ時に初めて、持ち主もきちんと死んだことになるんだって」
「そうなんですね―――」
「僕自身もね、何度か彼岸へ行こうとしたんだけど。なにか見えない壁があるみたいで、全然進めなかったんだ」
「そうだったんですね―――」
「ふわあ〜」
カモッシーが欠伸を一つした。
そしてそのまま、静かな寝息を立て床で眠ってしまった。
「寝た―――」
軟泡がカモッシーの顔を啄く。
頬をふにふにと、何度も。
それなのに全く起きる様子がない。
(カモッシーさん、呑気だなぁ……)
カモッシーの行動に呆れつつ、時計を見る。
ここに来て60分ほど経った。
そろそろ出られるだろうか。
▲ ▲ ▲ ◆ ▲ ▲ ▲
「ふっ」
先に破ったのは斬之助。鼻で笑った。
「姿を変えたところで何だ。妖力も少し増えたように見えるな。だが、それだけの工夫では到底―――」
そこまで言いかけたが、斬之助は続けずに見下ろした。
腹が裂かれていた。中から千切れたコードが姿を見せ、電気を帯びている。
「は……?」
変化はそれだけではない。
先ほどまで目の前にいたオグが、今は後ろでしゃがんでいる。
余計な機能だが“瞬き“をした、その一瞬だった。
その一瞬のうちに全ての変化が起きたのだ。
「どういうことだ」
オグはゆっくり立ち上がりながら、説明する。
「簡単なことです。あなたの腹を抉った。それだけですよ」
「あり得ない。過去のお前のデータでは、こんなにも速く動いたことなんて―――」
「あなたの中のデータなんて、所詮30年から40年前の物でしょう?私がこの姿でいたのは300年前。データが無いのは当然です」
「本当はこんなにも速く動けるのに。いつもは隠している、ということか」
「隠すというよりかは、抑えているんですけどね。―――憎龍を」
「憎龍はお前の意思で精製される、最終形態ではないのか?お前とは別の存在なのか?」
「ええ」
オグは宿主の“理想“の部分。憎龍は“憎しみ“の部分。
オグの言う“本気モード“とは、憎しみの体の全てを憎龍に譲渡することを意味する。
同じ憎しみの体を共有する者だが、オグと憎龍は別の存在であり、考えも全く違う。
オグが人々の幸せや平穏を望む一方、憎龍は破壊と復讐を望む。
ただひたすらに、今を生きる人々の幸せを破壊し尽くすこと。次郎を苦しませた者達にもっと大きな、もっと悲惨な苦しみを与えること。
そうすることだけを考えている。
また、オグが憎龍に取り込まれると、憎龍は完全体となり歯止めが利かなくなる。
オグがしっかりと自我を持ち、拒否する意思を示せれば、取り込まれることはまず無い。
今はほんの少しだけ、憎龍の力を借りている。
こうするとオグ単体の時より、格段に強くなる。
しかし、長い間この状態でいると、憎龍に意識を乗っ取られてしまう。
オグは戦いの方向性を変えたのだ。短期決着だ。
なるべく早く、妖力を吸う隙を与えずに、終わらせる。そのつもりなのだ。
斬之助へ、オグがまた攻めてくる。
刀で鉤爪を受けるが―――
「く、うぅ……」
思わず唸ってしまう。
(重い!一撃一撃が重い。先ほどとは大違いだ)
オグを蹴り飛ばそうとするも、先に離れられた。
力も速さも格段に上がっている。
それに何だか、姿勢が低くなっている気がする。
オグが真正面から走って攻めてくる。
こちらも刀に力を込め、同時に斬ろうとする。
下に滑り込むように刀を振るう。それくらい彼女の姿勢は低かった。
このまま斬り込む―――つもりが。
オグが突然、跳び跳ねた。
そうなると刀は掠れることも叶わず、空を斬る。
跳び跳ねたオグはなんと、斬之助の上に乗っかった。
乗られた衝撃に耐えられず、床に倒れてしまう。
「な、なあ!?何を!何をして!?」
想定外すぎる行動に呂律が回らなくなる。
さらに、爪で斬之助の体を裂き始めた。
猛禽類が持つような、肉を抉りやすい鋭い鉤爪。
衝撃を吸収するよう軟い鋼鉄を使ったボディは、その爪と怪力に圧倒されていた。
中からコードが現れては、それも裂かれ回路が途切られていく。
抵抗しようにも、焦って藻掻くことしかできない。
背中にいる相手に日本刀は意味がない。どうやって振れと、斬れというのか。
ディスプレイの映像も乱れてきた。
「ぐっ―――うぅっ」
その時に思いついた。
刀を回転させ、刃が小指側にいくように持ち替える。
そして、腕を背中に持ち上げれば―――
ズブリと鈍い感覚があった。
すぐに背中が軽くなる。オグが離れたのだ。
痛みは感じないが、ボディがボロボロで真っ直ぐ立てない。
背中から左脇腹にかけて大きく損傷している。
先ほどのような動きはもうできないだろう。
オグに目を向ける。太ももに刀が刺さっていた。
彼女は何の躊躇もなく、勢いよく刀を引き抜いた。
傷口から黒い粘性の液体が静かに流れ出る。
「痛くは……ないの゙か」
まずい。発声機能もやられたかもしれない。
うなじを触ると半分ほど無くなっているのが分かった。
「ええ―――」
「そ、ぞううかザザッ、ガガッ―――」
ノイズ混じりの声で答えた。クリアな音声はもう出せないようだ。
見下ろすと、自分がきちんと二足で立っているのに気づいた。
両足とも無事だ。これでも攻撃はできる。
バランスを保つため、刀は左で持つことにした。
すぐに左利きのプログラムに変更する。
自身のプログラムの中身を書き換えることはできない。
しかし、用途に応じて右利き左利き、二刀流と決められたプログラムを入れ替えることならできる。
「いざ、参る」
決め台詞をしっかり言えたのは良いことか。
刀を構え、ゆっくり少しずつオグに近づく。
相対するオグの姿勢はとても低い。
ヤモリのように床を這うように近づいてくる。
バチバチッと電気の音だけが響く。
両者が慎重に一歩ずつ、歩み寄る。
先に仕掛けたのは斬之助。踏み込んで一気に攻める。
振るよりも当てやすくするため、突き刺すのを選んだ。
迫るオグは右手の爪を立て、手を若干丸めている。
まるで、何かを掴み取ろうとするように。
斬之助はその謎の手の形を理解できなかった。否、考えようともしなかった。
そんなことを考えるよりも、今は目の前にいる敵を絶対に打ち倒すことの方が重要だ。
斬之助はそう判断した。
刀に全ての力を込めた、渾身の一突き。
オグの左肩に突き刺さり、奥深くまで刺さる感触が伝わってくる。
オグの右手が斬之助の胸を貫き、何かを掴んだ。
それは球型のバッテリー―――斬之助の“心臓“だ。
(これが目的だったのか……!)
ようやく理解した。どうやらバッテリーを抉り取るつもりのようだ。
このまま突き進めば、バッテリーを取られてしまう。
しかし、相手を倒す最後にして最大の機会でもある。
(やってやる。相打ちになろうとも、ここで倒す!)
足に力を込め、さらに踏み込んでいく。
オグも止まらず、バッテリーを強く握りながら突き進んでくる。
「くっ。ああああああああ―――!!」
刀が彼女の体を貫く感触があった。同時に、バッテリーを繋げていたコードが千切れる音が聞こえた。
斬之助とオグはすれ違い、互いに背を向けている。
『起動停止まであと30秒』
バッテリーを取られたことにより、起動停止間近の警告がディスプレイに表示された。
実は斬之助だけに備わっている機能がある。
バッテリーが損傷した際に、30秒ほどの間、予備電源を起動する機能だ。
狒々川いわく、「斬之助は他の二体より使っている妖力量が少ないから、これができた」とのこと。
途端に、後ろから何かが倒れる音がした。
振り返ると、オグがうつ伏せで倒れているのが見えた。
肩から大量に黒い液体が漏れ出ている。
妖力も微かな量しかない。
こんな状態だ。反撃はしてこないだろう。
そう考えると―――
斬之助は手を広げ、仰向けで倒れた。
清々しい気分、というやつだった。
全力をぶつけられて満足した。結果も惨敗ではなく相打ち。
それにもう、あと10秒しか起動できない。
「フン、ブブ、ガッ、フフン、フフ……」
ノイズ混じりの乱れたリズムを口ずさむ。
なんだか、全てがどうでもよくなった。
もう何にも気にならない。
例え、瞬時に妖力を回復させたオグが立ち上がるなんて、あり得ないことが起きたとしても。
『予備電源が切れました 起動停止』
斬之助の意識はそこで途切れた。
▲ ▲ ▲ ◆ ▲ ▲ ▲
「え……?」
オグと斬之助の戦いを観ていた剛。
口から間の抜けな声が漏れ出た。
それもそのはず。先ほど倒れたオグの妖力量は本当に、残りカス程度の物だった。
それが一瞬で回復した―――こんなこと、今まで経験したことも見たこともない。
その後、オグは斬之助を見向きもせず、扉を突き破っていった。
その姿に女性らしさは全くなく、もはや獣である。
(まさか今のオグはオグじゃない?)
憎龍なのではないだろうか……?
「あああああ―――!!ヤバい、ヤバい、ヤバいぃぃぃ……!!」
血の気が引いていくのを感じた。
自分で考えていて恐ろしい。
椅子から転げ落ちるようにして部屋から出ていった。
このままオグが暴れれば、従業員たちの身が危ない。
それだけではなく、ここまで大きくした大事な製作所も壊されてしまう。
会社を守る社長として、オグを止めなければ。
剛は覚悟を決め、倉庫へと走り出した。
実は、斬之助→マジリン→ボ厶ドの順番で投稿するつもりでした。
そのため、斬之助の話が一番最初にできました。
こんな展開になったので、逆にして正解だったと思います。




