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エスピトラ〜妖怪の便利屋〜  作者: ボマー
第一章 のほほんライフとちょっぴりバトル編
20/22

vs斬之助

オグと向かい合っているのは刀の人造妖怪。

部屋に入ると、静かに刀の柄に手を置いた。

「お前が深憎オーガストか。我らの製作者、狒々川剛にお前を倒せとの命令を受けている」


人造妖怪はオグを睨みつけた。

その目つきからは敵意を感じる。

「気迫がありますね」

人造妖怪としての完成度に感心する。

「ただ戦えるだけでは、人造妖怪とは呼べぬ。そんな兵器は人間でも作れる。―――話が逸れたな。さあ、行くぞ」

相手は刀を抜き、構えた。


―――と思いきや。なぜか刀を下ろした。

「どうかしました?」

「名乗るのを忘れていた。拙者は斬之助(ざんのすけ)

「名乗り大事ですか……?」

「大事だ。さあ、来い!」

再び、斬之助は刀を構える。

「では遠慮なく」


オグは足元の黒い沼からナタを取り出した。

姿勢を低め、一気に力を解放して走り出す。

斬之助も刀を構え、走り出す。

銀の刀と黒いナタがぶつかり、拮抗する。

火花を散らし、金属同士が擦れ合う音が響く。

「お前の体を構成する、憎しみで造ったナタ。拙者の刀と同等の硬さを持つとは」

「驚きました?」

「拙者のデータの中に、お前のナタの情報は少ししかなかった。想定外だ」

このまませめぎ合っていても無駄か。

双方が気づき、同じタイミングで離れた。

一歩ずつ確実に、互いに距離を詰める。


(試してみるか―――)

オグは黒い沼を斬之助の足元まで広げる。

そこから一気に多数の手が飛び出し、斬之助に襲いかかる。

手が斬之助の体を抑え込む―――ことはできなかった。

斬之助が刀を振り回し、手を薙ぎ払った。

手はバラバラに崩れ、形を留められなかった。

やはり思った通りだ。


(あの刀。【妖力分散】の術が彫られている)

刀をよく見ると、とても小さな文字が彫られていた。

武器に術名を彫り妖力を込めると、その術の効果を付与することができる。

だが、彫る術名は妖怪古語でないと効果を発揮しない。

この刀に【妖力分散】の術が彫られているのは、オグの肉体凝結を阻害するためであろう。

「気づいたか。権化が相手だからな。ただの刀で斬っても意味がない」


権化は宿主の感情と妖力のみで構成されている。

体が液体などであるため、生物系の妖怪と違い、瞬時に肉体を修復することができる。

妖力を集中し固めることで肉体を留められるのだ。

しかし分散させられては、それができない。


「なるほど―――」

どうやら勝つための工夫はしているらしい。

ちなみに、分散してしまった妖力だが取り戻すことはできない。

これから空気に溶け込み、世界中を巡るだろう。

三時間ほど休憩すれば回復できるが―――とても今はそんなことできない。

とにかく斬之助を倒さなければ。

さて、この後はどのように攻めようか。


計画を練ろうとしたとき。

ふと、クラっと変な感覚がした。

「……?」

生物ではないから、目眩は起こさないはず。

疲れも感じない。毒も効かない。そのはずだ。

では、今のは何なのか?

(もしや。刀に彫られた術は他にもある?)

それしか考えられない。

あの刀、思ったより危険かもしれない。


「どうした。来ないのか」

斬之助がこちらに刃先を向ける。

オグは自身の足元に沼を作り出し、その中に溶け込んだ。

そして勢いをつけ、再び斬之助に向かっていった。

ナタと刀が再びぶつかる。

「同じ手が通用すると―――なっ、まさか!」

斬之助は慌てて振り返る。


気づいたようだ。

後ろから、もう一体のオグが来ていることに。

―――実はこちらが本物だ。

今、斬之助が抑えているのはダミーである。

オグはナタを斬之助の腰に目掛けて、横から切りにいく。

腰にナタがぶつかった、だけではなく。

力が強かったのか、少し食い込んでいる。

そのまま力を込めて押し通そうとする。

だが、斬之助もやられっぱなしではない。

ダミーオグを蹴り飛ばし、本物に刀を振るう。

刀が当たる直前、二体のオグは再び沼に消えた。

「想定外だ。分身もできるのか」

斬之助から離れた場所に、オグが再び姿を現す。

「剛くんに私の戦闘を見せたこと、あまりないですからね。あなた達のデータにないのも当然かと」


二人はまた距離を取ることになった。

しかし、今ので収穫はあった。

(妖力探知が苦手―――それが彼の欠点か)

ダミーに多量に、本物が持つ分を少なく。

そう仕掛けると、気づくのに遅れが生じていた。


(妖術専門じゃないからって怠りましたね―――)

斬之助のスペックに慢心して、探知機能を疎かにしたのだろう。

剛は昔から小さなミスをすることが多い。

本人はきちんと確認しているつもりだが、必ずどこか忘れているところがあるのだ。

全く。大人になっても悪い癖は治っていないようだ。

思わずため息が漏れ出た。


「お前、戦いに集中していないのか?」

斬之助が尋ねてきた。

「まあ少しの間、余計なことを考えていました」

オグの返答を聞き、斬之助は首を傾げた。

「理解不能である。なぜ既存の妖怪は未知を前にしても、そんなにも呑気でいられるのか」

「剛くん絡みでちょっと余念が浮かんだだけですよ」

「狒々川は今、関係ないはずだ」

「いいえ。あなたの製作者なのですから、大いに関係あります。彼の欠点から、あなたの欠点を見つけることができましたし」

「拙者の欠点か。よく見つけたな」

「ええ。まあ」

「話が逸れたな。続けるぞ」

斬之助が再び刀を構え、向かってくる。

攻撃を避けつつ、オグは考えていた。


分身はもう使えない。

刀に彫られた二つ目の術については、何となく想定がついた。

(二つ目はたぶん、【妖力吸収】かな。そうだったら、刀に触れるのはまずいなぁ……)

妖力を吸収されるのは、かなりの大打撃だ。

肉体凝結がさらに困難になる。

先ほどクラっとしたのも、一部が刀に触れ、妖力を吸われたことが原因だろう。

できればもう、吸われたくはない。

すなわち、刀の猛攻を避け続けるしかない。


考えている間にも攻められる。

斬之助が横振りで斬りかかってきた。

沼に逃げる。すると刀を沼に突き立てた。

「っ―――!」

まずい。このままでは妖力を吸われ続けてしまう。

飛び出し、斬之助を蹴り飛ばす。

刀が沼から離れる。

蹴られると同時に斬之助は、オグの足に刀を突き刺そうとした。

オグは結界を張り、刀を防いだ―――はずだが。

刀は結界を破り、オグの足に刺さった。


(しくじった―――)

焦っていて判断を間違えた。

妖力を固めてできる結界に対し、妖力を分散する刀。

彫られた術の効果により、結界が破られることは分かっていたのに。

斬之助はさらに力を込めて、刀を奥まで刺す。

オグは黒いドロドロの液体に姿を変え、斬之助から離れた。

かなり離れた壁際で女性の姿に戻る。


「300年生きた、生物でない妖怪でも。焦ると凡ミスするのだな」

「言葉は侍らしくないですね。本物の侍は凡ミスなんて言いませんよ」

斬之助の発言に言い返した。

言い返された斬之助は、目元を引くつかせる仕草を見せた。

「拙者はこれから、現代の妖怪達と関わるだろう。昔の言葉で話しては伝わらない」

「そこはこだわらなかったんですねぇ、剛くん」

「―――言葉など、どうでも良いだろう」

「侍らしくなくなりますがね」

また斬之助は目元を引くつかせた。

『侍らしくない』 その評価が不満らしい。


今度は何も言わずに斬りかかってきた。

再び液体に変わり、壁に避けた。

そのまま張り付き、斬之助の顔の傍まで移動する。

液体から腕を伸ばし、頬に拳を当てた。

不意打ちを食らった斬之助は、3mほど飛ばされ、床に脈打つように倒れた。

女性の姿に戻り、すぐさま殴りかかる。

相手は妖力を分散したり、吸収したりする。

ナタや【結界術】を使って勝てる相手ではない。

こう考え、体術に戦法を変えた。


斬之助は手を置き、体を持ち上げようとしている。

それでも構うことなく、殴りかかる。

斬之助は立ち上がるよりも先に、刀を振るった。

オグの右手首に刀が入り、斬られた位置から落ちた。

「っ―――」

落ちた手首を持ち上げ、斬之助から離れる。

手首を、切られた傷口に合わせ修復する。

5本、右手の全ての指を動かす。

(うん。ちゃんと繋がってる)

とりあえず安心した。

そして、斬之助に向き直る。


ここまでの戦いで、分かったことがある。

斬之助は動きがとても速いのだ。

また、立ち上がって攻めてくる。

今度は壁際にいるため下がることができない。

すれ違うように刀を避けた。すると、身軽な動きですぐに姿勢を取り直し攻めてきた。

刀が頬を掠めた。黒い液体が滴る。

軽く傷を拭い、すぐに修復する。


その後も何度も続けて攻めてくる。

迫りくる刃を右に左にスレスレで躱わす、突きさせられる前に液状になる。

避けるのはそれで精一杯だ。

ここ数年戦った相手は皆、肉体の異常なスペックで圧倒していたのに。

ここまで追い詰められたのは20年ぶり、()()()と戦って以来だろうか。


それに刀の腕前も体のスペックに劣っていない。

もし自分が人間だったら、始まってすぐに殺られていただろう。

(私が戦った、どの侍よりも強い―――)

冗談抜きでそう思った。いや、思わされた。

今まで戦ってきた侍達は皆、オグの攻撃から身を守るので精一杯だった。

斬之助はそんな奴らよりずっと強いのだ。

さて、ここからどうするか。


「避けてばかりいないで向かって来い!」

斬之助は痺れを切らしたのか、声を荒げた。

好戦的な性格にプログラムされているのだろうか。

「君の刀は私にとって天敵ですよ。慎重に戦いたいのです」

「それではつまらない!」

「しかし―――」

「拙者はあまりのんびりしていない。早く決着をつけたいと思っているのだ」

「……」

こうなったら。あの手を使うしかない。

オグは再び沼に溶け込む。

「またか。お前に真正面から向かう度胸は―――」

斬之助が言葉を止めた。


オグの姿を見て、唖然としているのだろう。

今のオグには頭に角が生えている。

樹木のように枝分かれした、艶のある漆黒の角が。

爪は鋭い鉤爪となり、腕や足には魚の鱗がある。

そう―――かつてのあの姿だ。

今も“日本で唯一の龍人“として伝えられている、あの。

二人が見つめ合う数秒の静寂が長く感じられた。


  ▲  ▲  ▲  ◆  ▲  ▲  ▲


「あの、次郎さん。天国に行かなくて大丈夫なんですか?」

彼と会ってから、気になっていたことを聞く。

次郎は少し驚いた顔をした。

「あ。違うんです!あの世に行けって言いたいんじゃなくて、向こう側に連行されないのかなって。少し気になって」


基本、死んだ人間は霊となり、天国か地獄に行く。

天に昇り、三途の川を渡って彼岸へ。そこから裁かれ、どちらかに行くのが通常だ。

時々、逃亡して現世に必死で残ろうとする者もいる。が、そういう者は強制的に連行される。

ちなみに怨霊は連行できない。怨霊達の恨みや未練は現世に強く魂を結びつけ、誰も切り離すことができない。


次郎は怨霊ではない。今は《再現粘土》で肉体を生成しているが、そうしなければ霊であるはずだ。

それならば、天国か地獄に行かなければならないはず。

次郎は善人だろうから、行き先は天国だと思うが。


「ああ〜。そのことかぁ。それはね、オグがいるからだよ」

「……?」

どういうことなのだろうか。

「あのね。感情の一部が妖怪として生きてる場合は、その感情の持ち主は彼岸へ行けないんだよ」

「え!?」

彼岸へ行けない!?そんなこと初めて聞いた。

「どうしてですか」

「桜寿様の話によると、それだと完全に死んだことにはならないみたいで。その妖怪が死んだ時に初めて、持ち主もきちんと死んだことになるんだって」

「そうなんですね―――」

「僕自身もね、何度か彼岸へ行こうとしたんだけど。なにか見えない壁があるみたいで、全然進めなかったんだ」

「そうだったんですね―――」


「ふわあ〜」

カモッシーが欠伸を一つした。

そしてそのまま、静かな寝息を立て床で眠ってしまった。

「寝た―――」

軟泡がカモッシーの顔を啄く。

頬をふにふにと、何度も。

それなのに全く起きる様子がない。


(カモッシーさん、呑気だなぁ……)

カモッシーの行動に呆れつつ、時計を見る。

ここに来て60分ほど経った。

そろそろ出られるだろうか。


  ▲  ▲  ▲  ◆  ▲  ▲  ▲


「ふっ」

先に破ったのは斬之助。鼻で笑った。

「姿を変えたところで何だ。妖力も少し増えたように見えるな。だが、それだけの工夫では到底―――」

そこまで言いかけたが、斬之助は続けずに見下ろした。


腹が裂かれていた。中から千切れたコードが姿を見せ、電気を帯びている。

「は……?」

変化はそれだけではない。

先ほどまで目の前にいたオグが、今は後ろでしゃがんでいる。

余計な機能だが“瞬き“をした、その一瞬だった。

その一瞬のうちに全ての変化が起きたのだ。


「どういうことだ」

オグはゆっくり立ち上がりながら、説明する。

「簡単なことです。あなたの腹を抉った。それだけですよ」

「あり得ない。過去のお前のデータでは、こんなにも速く動いたことなんて―――」

「あなたの中のデータなんて、所詮30年から40年前の物でしょう?私がこの姿でいたのは300年前。データが無いのは当然です」

「本当はこんなにも速く動けるのに。いつもは隠している、ということか」


「隠すというよりかは、抑えているんですけどね。―――憎龍を」

「憎龍はお前の意思で精製される、最終形態ではないのか?お前とは別の存在なのか?」

「ええ」


オグは宿主の“理想“の部分。憎龍は“憎しみ“の部分。

オグの言う“本気モード“とは、憎しみの体の全てを憎龍に譲渡することを意味する。

同じ憎しみの体を共有する者だが、オグと憎龍は別の存在であり、考えも全く違う。

オグが人々の幸せや平穏を望む一方、憎龍は破壊と復讐を望む。

ただひたすらに、今を生きる人々の幸せを破壊し尽くすこと。次郎を苦しませた者達にもっと大きな、もっと悲惨な苦しみを与えること。

そうすることだけを考えている。


また、オグが憎龍に取り込まれると、憎龍は完全体となり歯止めが利かなくなる。

オグがしっかりと自我を持ち、拒否する意思を示せれば、取り込まれることはまず無い。

今はほんの少しだけ、憎龍の力を借りている。

こうするとオグ単体の時より、格段に強くなる。

しかし、長い間この状態でいると、憎龍に意識を乗っ取られてしまう。

オグは戦いの方向性を変えたのだ。短期決着だ。

なるべく早く、妖力を吸う隙を与えずに、終わらせる。そのつもりなのだ。


斬之助へ、オグがまた攻めてくる。

刀で鉤爪を受けるが―――

「く、うぅ……」

思わず唸ってしまう。

(重い!一撃一撃が重い。先ほどとは大違いだ)

オグを蹴り飛ばそうとするも、先に離れられた。

力も速さも格段に上がっている。

それに何だか、姿勢が低くなっている気がする。


オグが真正面から走って攻めてくる。

こちらも刀に力を込め、同時に斬ろうとする。

下に滑り込むように刀を振るう。それくらい彼女の姿勢は低かった。

このまま斬り込む―――つもりが。

オグが突然、跳び跳ねた。

そうなると刀は掠れることも叶わず、空を斬る。

跳び跳ねたオグはなんと、斬之助の上に乗っかった。

乗られた衝撃に耐えられず、床に倒れてしまう。

「な、なあ!?何を!何をして!?」

想定外すぎる行動に呂律が回らなくなる。


さらに、爪で斬之助の体を裂き始めた。

猛禽類が持つような、肉を抉りやすい鋭い鉤爪。

衝撃を吸収するよう軟い鋼鉄を使ったボディは、その爪と怪力に圧倒されていた。

中からコードが現れては、それも裂かれ回路が途切られていく。

抵抗しようにも、焦って藻掻くことしかできない。

背中にいる相手に日本刀は意味がない。どうやって振れと、斬れというのか。

ディスプレイの映像も乱れてきた。


「ぐっ―――うぅっ」

その時に思いついた。

刀を回転させ、刃が小指側にいくように持ち替える。

そして、腕を背中に持ち上げれば―――

ズブリと鈍い感覚があった。

すぐに背中が軽くなる。オグが離れたのだ。


痛みは感じないが、ボディがボロボロで真っ直ぐ立てない。

背中から左脇腹にかけて大きく損傷している。

先ほどのような動きはもうできないだろう。

オグに目を向ける。太ももに刀が刺さっていた。

彼女は何の躊躇もなく、勢いよく刀を引き抜いた。

傷口から黒い粘性の液体が静かに流れ出る。


「痛くは……ないの゙か」

まずい。発声機能もやられたかもしれない。

うなじを触ると半分ほど無くなっているのが分かった。

「ええ―――」

「そ、ぞううかザザッ、ガガッ―――」

ノイズ混じりの声で答えた。クリアな音声はもう出せないようだ。

見下ろすと、自分がきちんと二足で立っているのに気づいた。

両足とも無事だ。これでも攻撃はできる。


バランスを保つため、刀は左で持つことにした。

すぐに左利きのプログラムに変更する。

自身のプログラムの中身を書き換えることはできない。

しかし、用途に応じて右利き左利き、二刀流と決められたプログラムを入れ替えることならできる。

「いざ、参る」

決め台詞をしっかり言えたのは良いことか。


刀を構え、ゆっくり少しずつオグに近づく。

相対するオグの姿勢はとても低い。

ヤモリのように床を這うように近づいてくる。

バチバチッと電気の音だけが響く。

両者が慎重に一歩ずつ、歩み寄る。


先に仕掛けたのは斬之助。踏み込んで一気に攻める。

振るよりも当てやすくするため、突き刺すのを選んだ。

迫るオグは右手の爪を立て、手を若干丸めている。

まるで、何かを掴み取ろうとするように。

斬之助はその謎の手の形を理解できなかった。否、考えようともしなかった。

そんなことを考えるよりも、今は目の前にいる敵を絶対に打ち倒すことの方が重要だ。

斬之助はそう判断した。


刀に全ての力を込めた、渾身の一突き。

オグの左肩に突き刺さり、奥深くまで刺さる感触が伝わってくる。

オグの右手が斬之助の胸を貫き、何かを掴んだ。

それは球型のバッテリー―――斬之助の“心臓“だ。

(これが目的だったのか……!)

ようやく理解した。どうやらバッテリーを抉り取るつもりのようだ。

このまま突き進めば、バッテリーを取られてしまう。

しかし、相手を倒す最後にして最大の機会でもある。


(やってやる。相打ちになろうとも、ここで倒す!)

足に力を込め、さらに踏み込んでいく。

オグも止まらず、バッテリーを強く握りながら突き進んでくる。

「くっ。ああああああああ―――!!」

刀が彼女の体を貫く感触があった。同時に、バッテリーを繋げていたコードが千切れる音が聞こえた。

斬之助とオグはすれ違い、互いに背を向けている。


『起動停止まであと30秒』

バッテリーを取られたことにより、起動停止間近の警告がディスプレイに表示された。

実は斬之助だけに備わっている機能がある。

バッテリーが損傷した際に、30秒ほどの間、予備電源を起動する機能だ。

狒々川いわく、「斬之助は他の二体より使っている妖力量が少ないから、これができた」とのこと。


途端に、後ろから何かが倒れる音がした。

振り返ると、オグがうつ伏せで倒れているのが見えた。

肩から大量に黒い液体が漏れ出ている。

妖力も微かな量しかない。

こんな状態だ。反撃はしてこないだろう。

そう考えると―――


斬之助は手を広げ、仰向けで倒れた。

清々しい気分、というやつだった。

全力をぶつけられて満足した。結果も惨敗ではなく相打ち。

それにもう、あと10秒しか起動できない。

「フン、ブブ、ガッ、フフン、フフ……」

ノイズ混じりの乱れたリズムを口ずさむ。

なんだか、全てがどうでもよくなった。

もう何にも気にならない。

例え、瞬時に妖力を回復させたオグが立ち上がるなんて、あり得ないことが起きたとしても。

『予備電源が切れました 起動停止』

斬之助の意識はそこで途切れた。


  ▲  ▲  ▲  ◆  ▲  ▲  ▲


「え……?」

オグと斬之助の戦いを観ていた剛。

口から間の抜けな声が漏れ出た。

それもそのはず。先ほど倒れたオグの妖力量は本当に、残りカス程度の物だった。

それが一瞬で回復した―――こんなこと、今まで経験したことも見たこともない。


その後、オグは斬之助を見向きもせず、扉を突き破っていった。

その姿に女性らしさは全くなく、もはや獣である。

(まさか今のオグはオグじゃない?)

憎龍なのではないだろうか……?

「あああああ―――!!ヤバい、ヤバい、ヤバいぃぃぃ……!!」

血の気が引いていくのを感じた。

自分で考えていて恐ろしい。


椅子から転げ落ちるようにして部屋から出ていった。

このままオグが暴れれば、従業員たちの身が危ない。

それだけではなく、ここまで大きくした大事な製作所も壊されてしまう。

会社を守る社長として、オグを止めなければ。

剛は覚悟を決め、倉庫へと走り出した。


実は、斬之助→マジリン→ボ厶ドの順番で投稿するつもりでした。

そのため、斬之助の話が一番最初にできました。

こんな展開になったので、逆にして正解だったと思います。

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