オカ研部2年目
葉桜になり、新緑が生き生きと輝く5月。
優生が2年生になり、遅めに入った部活動にもすっかり馴染んだ頃。
オカルト研究部に新たなメンバーが入った。
「神代いびつと申します。特に妖怪に興味があって、様々な怪異について調査すると知り、入部を決めました。よろしくお願いします」
赤い切れ目の彼は、美しい顔立ちをしている。
(なんかオカ研ってイメージがないなぁ)
それが優生の、いびつに対する第一印象であった。
「よろしく!いやぁ、今年は春から新入部員が入ってくれて嬉しいなぁ」
押頼がニコニコと笑顔になった。
「去年は優生くんの教室まで行って、わざわざ頼んできたんだもんね〜」
御影は少し気怠げに、頬杖をついている。
別に体調が悪いのではない。これが彼女の普通なのだ。
「え?小述先輩は自分から希望したわけじゃないんですか?」
「ええっと、まあ。廃部の危機に瀕してて、入部を頼まれたんだ。最初は慣れないし、調査も怖かったんだよ。それでも色々なことを調べて考察を立てて。それを繰り返してるうちに、人智を超えた科学で解明できない、不思議なことを追うロマンに気づいてね。部活動が楽しくなったんだ」
それを聞いた3年生二人はうんうん頷いた。
「そうなんですね」
そう言い、ニコッといびつが笑う。
そのとき、優生は寒気を感じた。
彼の笑顔がどこか薄っぺらいものに感じたのだ。
(信用、していいのかな・・・・・・?って。いやいや普通の高校生だよ?何疑ってるんだよ)
失礼な考えを切り捨てる。せっかく入ってくれた後輩になるたる無礼だ。
「実は!いびつくんが驚くようなビッグニュースがありまーす!」
「ビッグニュースですか?」
「おれ達オカ研は去年、実際に妖怪と会って、さらに取材までできちゃいましたー!」
「え!?」
いびつは目を見開いて驚き、前のめりになった。
「どうやって!?受けた相手は!?それをまとめた物は!?」
さっきの爽やかな姿とは打って変わって、グイグイ押頼に迫る。
「おお・・・・・・興味津々だねぇ。ええっと、確かこの引き出しに―――お。あった」
マル秘の文字が透けて見える、『妖怪の生態調査』と表紙に書かれた紙の束。
机に上にぽんと軽く置く。
「見せてもらえますか!?」
「あ。うん。いいよ・・・・・・?」
いびつの勢いはまだ収まらない。
若干、押頼が引いている。
いびつがとても真剣な表情で束をめくる。
少しして、パタンと最後の一枚を閉じた。
「ありがとうございます。あの、この取材を受けた“エスピトラの皆さん“というのは?」
「ああ。便利屋をしてる妖怪の方々だよ」
「便利屋。へぇ・・・・・・」
面白そうにいびつは目を細めた。
それに気づいたのは優生だけだったが。
押頼と御影も何か感じたようで、顔を見合わせて困惑しているようだった。
(なんか、変わった子だ・・・・・・)
いびつ以外の三人が同時に思ったことだ。
「その。どうだったかな」
何か言わなければ。
そう感じ、優生がいびつに聞いた。
「どうだった、というのは?」
「取材の記録を見た感想を聞こうかと」
「そうですね―――妖怪については僕も独自に調べていたんですけど、初めて知ったことばかりです」
「面白かった?」
「はい。さらに興味が深まりました。あの、もし良ければ。この資料を貸していただけませんか」
「え。えっと、それは―――」
優生は押頼の方を向く。
この判断は部長である彼に委ねるべきだ。
「別にいいよ〜」
押頼は漫画を貸すくらいの軽いノリで返答した。
「いいんですか!?」
そんな簡単に持ち出して良い物なのか、これは。
優生が聞くと。
「大丈夫でしょ。ネットで拡散したとしても、誰も信じないと思う。オグさん達もそう考えて取材を受けてくれたんだろうし」
「おお・・・・・・なるほど」
「あ。いえ、僕は拡散とかするつもりはありません。ただ、家で調べていることの補助資料に使いたくて」
「え〜。なになに、家で調べてることって」
御影が聞くといびつは首を横に振った。
「いえ、話してはダメなんです。呪われますよ?」
呪われる―――
その一言に三人は背筋を凍らせる。
「いや。だとしたらさ、いびつくんは大丈夫なの?」
「大丈夫です。対策はとってますし、一人だけなら呪われないみたいですから」
「そうなんだ・・・・・・」
優生はそう返しながらも。
(なんか、都合の良い呪いのシステムだなぁ)
と、内心思っていた。
「あの。できれば、エスピトラの皆さんにも会ってみたいんですが―――」
(え!いきなり!?)
突然言われても、向こうも忙しいだろうに。
優生はそう思っていたが。
「ん〜じゃあ、行ってみる?」
「御影先輩?」
「行ってみようか。エスピトラはいつも閑古鳥が鳴いてるって噂だし」
「押頼先輩?ていうか誰から聞いたんですかその噂」
「事務所の近所の人。実はエスピトラの便利屋としての実態も調べてたんだよね〜」
「何のために」
「困ったときの駆け込み寺にさせてもらおうかと思って。やっぱり呪いとか祟りって怖いじゃん」
「えぇ・・・・・・」
いつの間にそんなことまでしていたのか。
「じゃあ決まりですね!行きましょう!」
そして、いびつは目を輝かせ、行く気満々だ。
他の二人も行くつもりのようだし・・・・・・。
(行く、しかないよね)
社員の方々に申し訳無いと思いつつ。
事務所に向かうべく、四人は校舎を出た。
▲ ▲ ▲ ◆ ▲ ▲ ▲
数十分後。
四人は事務所の扉の前で呆然と立ちつくしていた。
なぜなら―――
「『本日は諸都合により全員、出掛けております。依頼は翌日より承ります。どうぞ、ご理解の程よろしくお願いします』だって」
そんな内容の張り紙が貼ってあったからだ。
「よりにもよって今日か。もってねぇーおれら」
四人一斉にため息をついた。
「仕方ない。帰ろっか」
落胆しつつ、階段を下りていた、そのとき。
「嘘だああああ!!」
耳をつんざくような絶望の声が聞こえた。
下の喫茶店“招福“の店内からだ。
「何かあったのかな」
「入ってみる〜?」
3年生二人がドアに手をかけた。
「え。いや、こういうのは関わらない方が―――」
優生が止めに入るも、時すでに遅し。
二人はドアを開いた。
「いらっしゃいませ〜四名様ですね。どうぞ」
そして、こちらに気づいた店員に案内された。
(ああ・・・・・・もう)
こうなったら仕方ない。入るしかない。
入った瞬間、客二人がこちらを見た。
一人は可愛らしい顔立ちの、桜色の瞳の女性。
もう一人は眼鏡をかけた、まるまる太った男性。
ドキッと心臓が跳ねる感覚がした。
しかしそれは数秒のことで。
その人達はすぐに別の方向を見た。
(なんだったんだ・・・・・・?)
疑問を胸に残し、席に着いた。
「うう。オグさんいないって、どういうことだよぉ〜。なあ、そなぁ」
先ほどの女性の、隣の男が唸っていた。
声を聞いて、先ほど叫んでいたのは彼だと分かった。
「うるさい毒太。急な依頼が入ったらしいわよ」
「お前親友だろ。らしいって何だよ、らしいって」
「メールで来ただけだから詳しいこと知らないの」
「クソぉ。よりにもよって、俺が休んだ日にぃ。ここ最近はオグさんが招福でバイトしてるって、ファンクラブの掲示板にあったのに・・・・・・」
男は机に突っ伏し、拳を握りしめていた。
「あ〜。オグが大好きな奴らが勝手に作ったファンクラブね。あんた、あれに入ってたんだ」
女性は頬杖をつきながら、意外そうに言った。
「あちゃ〜。今日オグちゃん、いねぇみたいだな。ツイてねぇな、如月」
頭の禿げた男性が、眼鏡の男性の背中に手を置いた。
二人ともスーツを着ている。上司と部下、といったところか。
「あはは。そうみたいですね―――」
苦笑いしつつ、眼鏡の男性はコーヒーを飲む。
「優生くん。注文まだ決まってないよね」
はっとして、正面に向き直る。
向かいに座った押頼がメニュー表を差し出してきた。
「すみません。なんか、周りが気になって」
受け取り、メニュー表をめくる。
「そっか。てかさ、周りの人達の話題、オグさんのことばっかりだよね」
「あの。そのオグさんってどんな方なんですか」
隣のいびつが横から聞いてきた。
「えっとね。エスピトラの社員で、もちろん妖怪だよ。権化って種族で、人のある一つの感情を長い時間集めて生まれる、みたいな感じ」
押頼が軽く、簡潔に説明した。
「人から生まれるんですか?」
「まあ、そういうことだね」
「なるほど―――」
心なしか、いびつの目から光が消えた気がする。
「優生くん、注文は〜?」
先ほどまでスマホに夢中だった御影が聞いてきた。
痺れをきらしたのだろう。
「あ。すみません。僕はアイスカフェラテで」
店員を呼び、押頼が代表して皆の注文をした。
少しして注文の品々が来た。
「そういえば、いびつくんの歓迎会やってないよね」
「確かに〜。じゃあ、ここでオカ研部の新入部員に〜」
「「「「カンパーイ!」」」」
それぞれのグラスの縁をぶつけ、いびつの入部を祝う。
その後は何の他愛もない話をして、楽しい時間を過ごした。
代金はいびつ以外の三人が割り勘で支払った。
店を出て、そこで解散する。
「じゃあ、また明日。明日はオグさん達いるといいけど」
「そうだね〜。5時過ぎても帰って来ないし、今日は無理かも。じゃあ、バイバーイ」
3年生二人が先に去っていった。
全員、学校を出た際に鞄や荷物は持ってきていたため、あとは帰宅するだけなのだ。
「じゃあね。また明日、いびつくん」
「さようなら。また明日もここに来ましょう、小述先輩」
優生といびつも分かれ、オカ研部の今日の活動は終わりを告げた。
▲ ▲ ▲ ◆ ▲ ▲ ▲
優生が去った後。
いびつは、まだ招福の近くにいた。
振り返り、エスピトラの事務所を見上げる。
「人間の真似事か?妖怪共。お前たちがそんなことをして、何を企んでいるかは知らない。だけど―――」
視線の先にある窓に手を伸ばし―――拳を固めた。
「いつか、ぶっ壊してやる」
くるりと向きを変え、歩き始めた。
不穏な空気が、エスピトラに流れ出す―――。
今回はほとんどどころか、全くエスピトラメンバー出なかったですね・・・・・・。
読んだら分かると思いますが、エスピトラは副業OKです。




