14.魔王のプライド
地下牢の暗闇に魔法の明かりがともった。
汚れた壁に背中を預ける僕に、魔王がすぐさま口を開いた。
「さて、今回も圧倒的かつ完全な勝利をおさめたわけだが」
「どこがだよ」
イライラと僕は遮った。
どう考えても今回の勝利はかなりぎりぎりだった。
生きていることすら奇跡に思えた。
「なのに圧倒的? 完全? もしかして目が節穴だったとか?」
「弱者はいちいち細かいことを気にしおってからに……」
言いつつもかなり分が悪いことには魔王も気づいていたらしい。
無理やり話を打ち切ろうとした。
「何にしろ我輩は勝った。それが事実だ」
「僕たちだ」
僕は即座に訂正した。
「……何だと?」
「勝ったのはあんた一人の力じゃない。僕たち二人合わせてだ」
言葉を詰まらせる魔王の前に回り込む。
「僕がなんとかしなきゃ負けてた。それが事実だろ」
「貴様思い上がるのも――」
さっと手でその先を制する。
「本当に勇者に勝てるのか?」
「……」
魔王はすぐには答えなかった。
当たり前だろう。
こんなざまで勝てるわけがないのは明らかだった。
「寝ろ。明日も早い」
「はぐらかすなよ」
「我輩は必ず勝つ。これで十分か」
「目を見て言えよ!」
思い切り殴った壁が轟音を立てた。
壊れはしないが壊れてもおかしくないくらいの衝撃だった。
反響と残響。
ひびの入った石壁を横目に魔王は言った。
「……貴様もだいぶ怪物になってきたな」
「……」
僕は答えずに離れたところまで行って、ドスンと腰を下ろした。
後ろから魔王の声が追いかけてくる。
「我輩は嘘はつかんよ。契約した以上望みは叶えてやる」
「どう信じろっていうんだ」
「我輩は今まで一度も嘘をついたことがない」
思わず鼻で笑ってしまった。
なんだそれ。馬鹿にしてるのか。
だけど魔王はいたって真面目な顔だった。
「本当だぞ。記憶している限りでは一度もないし少なくとも本当であろうと常に努力している」
僕は呆れてため息をついたが、構わず魔王は続けた。
「真実、我輩は嘘はつかん。我輩が最強と言った以上我輩は最強だ。誰にも負けんし頭も垂れん。我輩を従えるのは我輩の心のみ。故にこの世を統べるのは我輩をおいて他におらんのだ」
「でも勇者に負けた」
嫌味を込めて言うと魔王がきまり悪そうに咳ばらいをするのが聞こえた。
「殺されはした。が、霊魂は消滅しなかった。ならばまだ勝負はついておらん。最終的な勝利は必ずこの手でもぎ取ってみせよう」
「言うだけならタダだな」
「だが嘘はついていないということだ。今はまだ」
僕は言い返そうとして――
ムキになっている自分に気づいて馬鹿馬鹿しくなった。
横になってだんまりを決め込む。
もういい寝よう。
どうせどうもがいたところで明日には結果が出る。
ここで口論しても意味はないんだ。
だけど魔王のつぶやきはまだ聞こえていた。
「言った以上は実現させる。この世は我輩のものだ。我輩のものということは壊すことも自由ということだ。だからそうした。正確にはそうしようとした。『虚空の皿』をひっくり返してやろうとして途中までは上手くいっていた。世界の異端者が現れなければ完遂できていた」
目を閉じていると少しずつ魔王の声が遠ざかっていった。
「気に入らん。我輩は我輩を阻む者が気に入らん。チートなどという卑怯な手を使って道をふさぐものはもっと気に入らん。我輩を負かしたいのであれば正々堂々来い。真正面から自信をもって真っ直ぐに突っ込んで来い。そうでない奴に我輩を倒す資格などない……」
眠りのに落ちる前に記憶の底から声がした。
「君は自分で、自分の力だけで戦おうとした――」
自分を信じられない勇者の、その元仲間の声だった。




