童貞喪失2
静まり返った夜の森の中、荒々しく重なり合っていた熱量がようやく引き、静寂が訪れた。
ワーウルフの美女は満足しきったようにルアーの胸元に顔をうずめ、すやすやと穏やかな寝息を立てている。ルアーを絶対に逃がさないと言わんばかりに、しなやかで力強い腕と脚が、ルアーの裸の身体をしっかりと抱きしめていた。
「……はぁ……はぁ……」
天井の葉の隙間から覗く月を見上げ、ルアーは呆然と息を吐き出した。
全身に絡みつく、尋常ではない疲労感と熱い余韻。
下腹部に残る感覚と、肌に染み付いた彼女の匂いが、自分がさきほどまで「一線の越えた」のだという事実を嫌でも突きつけていた。
自分を虫ケラのように踏みにじり、ゴミと呼んだ人間たち。誰一人として愛してくれなかった世界で、人外の美女から注がれたのは、男としての全てを受け入れられ、溶かされるような圧倒的な情愛だった。
(……温かかった……)
初めて知った、他人の体温。互いの裸を押し付け合い、自分を求めてしがみついてきた熱い吐息。
「彼女いない歴=年齢」だったルアーにとって、童貞を奪われたという衝撃とともに、言葉にできないほどの感動と、生まれて初めての満たされた感覚が胸に込み上げていた。
(……このまま、ここにいられたら……どれだけ楽だろう……)
この温もりに包まれたまま、彼女の腕の中で全てを諦めて溺れてしまいたい。誰にも脅かされず、ただ愛されるだけの「飼い犬」として生きるのも悪くないのではないか——そんな甘い誘惑が、ルアーの心を激しく揺さぶる。
だが、次の瞬間、ルアーの脳裏に冷たい現実が突き刺さった。
(……ダメだ。俺なんかが、ずっと愛されるわけがない)
三年間の地下牢で刻み込まれた深いトラウマが、ルアーの心に警鐘を鳴らす。
いつか彼女の正気が戻ったら? あるいは腹を空かせたら、自分はただのエサとして食い散らかされるのではないか。何より、他人に依存して生きることへの強烈な恐怖が、ルアーの身体を冷たく強張らせた。
(……逃げなきゃ……俺は……誰も信用しちゃいけないんだ……)
葛藤の末、ルアーはそっと息を殺した。
名残惜しさに胸が締め付けられそうになりながらも、彼女を起こさないよう、慎重にその身体を解いていく。拘束するように絡みついていた柔らかくも力強い手足を、ミリ単位で静かに外していく。
冷や汗を全身にかきながら、数分かけてようやく拘束を抜け出した。
散らばっていた服を拾い上げ、素早く身に着けたルアーは、眠るワーウルフの美しい顔立ちを一瞬だけ見つめた。
「……すまない……」
ポツリと消え入りそうな呟きを残し、ルアーは音を殺してその場を離れた。
そして十数メートルほど距離を取ると、振り返ることもせず、未知の森の奥へ向かって夢中で走り出した。




