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童貞喪失1

ザッ、ザッ、と湿った落ち葉を踏みしめる音だけが森に響く。

ここが人間を喰らう魔獣たちの巣窟だと知りながらも、ルアーの足取りに逡躇はなかった。生きる希望もなければ、戻る場所もない。ただ静かに、終わりが訪れるのを待っているかのようだった。


——ガリッ。


背後で低い唸り声が響く。

立ち止まり、ゆっくりと振り返ったルアーの視線の先に、暗闇の中からふたつの黄色い肉食獣の瞳が浮かび上がった。


馬ほどもある巨大な黒い豹の魔物。鋭い犬歯からは涎が滴り、ルアーを今すぐ引き裂かんと身構えている。


「……」


ルアーは逃げなかった。隠れもしない。

両腕をダラリと下げ、無防備に喉元を晒したまま、ただ冷めきった瞳で魔物を見つめた。


(……一瞬で、頼む……)


死を目前にしても、心は驚くほど静かだった。


豹の魔物が爆音のような咆哮をあげ、地面を強く蹴った。

鋭い爪と大口が開かれ、一直線にルアーの喉元へと躍りかかる——。


カズが静かに目を閉じた、その次の瞬間だった。


——ガウッッ!!!!


ドスッ、という凄まじい衝撃音とともに、視界の端から影が割り込んできた。


「グギャッ!?」


ルアーの喉元に届く寸前だった豹の魔物が、横合いから襲いかかった「別のナニカ」によって強烈に押し潰され、地面へと叩きつけられる。


「ガアアッ!」


豹の喉元に容赦なく食らいついたのは、人間と狼が融合したような姿を持つ——女性型のワーウルフだった。


凄まじい力で豹の頸椎を噛み砕き、鋭い爪でその腹を切り裂いていく。一瞬で豹の生命を奪い去った彼女は、返り血を浴びながらゆっくりと起き上がった。


(……綺麗だ……)


ルアーは呆然と立ち尽くした。


月光の下に浮かび上がったのは、息をのむほどの美しい顔立ちと、豊かな肉体美。しなやかで引き締まった肢体、豊かな胸元。まさにナイスバディな美女そのものだった。しかし、手足には岩をも引き裂く黒い爪が伸び、口元からは血に濡れた凶悪な牙が覗いている。


ワーウルフは血を舐めとると、次なる獲物を探すように、ゆっくりとルアーの方へと視線を向けた。

肉食獣の殺気を撒き散らしながら、一歩、また一歩と距離を詰めてくる。


「……やっぱり……俺を食うのか……」


ルアーは逃げることもなく、ただ彼女の瞳を直視した。


その瞬間——。


ルアーの瞳の奥で、あの地下牢で灯った「禍々しくも美しい赤き光」が妖しく揺らめいた。


「——っ!?」


襲いかかろうとしていたワーウルフが、ピタリと足を止めた。

琥珀色の大きな瞳が驚愕で見開かれ、ルアーの赤く光る瞳に吸い寄せられるように釘付けになる。


殺気は一瞬にして消え去った。

彼女の全身が、抗えぬ本能の歓喜と服従に震え始める。ルアーの「赤き瞳」に、魂ごと『魅入られて』しまったのだ。


「……あ、ぁ……っ」


喉から漏れたのは、甘く切ない吐息。

次の瞬間、彼女はルアーに向かって飛びかかった。殺意からではなく、あまりにも猛烈な『求愛』として。


「うおっ……!?」


ドサリと押し倒される。

全身に重なってきたのは、ワーウルフの豊満で柔らかく、驚くほど温かい肉体だった。甘い獣の香りと血の匂いが鼻腔を支配する。


彼女はルアーの顔に頬をすり寄せ、首筋を激しく舐めまわしながら、豊満な胸を惜しげもなく押し付けてきた。うっとりとルアーの赤い瞳を見つめ、熱い息を吐き出しながら、しなやかな脚でルアーの腰をがっしりと抱きかかえる。


「っ……あ……なにを……っ!」


これまで誰からも拒絶され、踏みにじられてきたルアー。

17年間、そして冤罪の3年間を生き抜いてきた「彼女いない歴=年齢」の彼の身体は、目の前の美女ワーウルフから注がれる圧倒的な情熱と温もりに、激しく翻弄されていった。


抗う術もなく、ルアーは彼女の深い情愛と温もりの中に呑み込まれていった——。

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