プロローグ4
学校での凄惨な暴行を耐え抜き、身も心も擦り減らしたルアーが辿り着いたのは、唯一の身寄りである養父の家だった。
実の親に捨てられたルアーを引き取った男。だがそこに愛情など存在しなかった。男にとってルアーは、国からの養育手当をむさぼり取るための道具であり、酒代が尽きれば暴力をぶつける都合のいい砂袋に過ぎなかったのだ。
「おい、ゴミ。遅かったな」
薄暗い部屋の奥、酒瓶を片手に養父がニヤニヤと歪んだ笑みを浮かべていた。
テーブルの上には、血で真っ赤に染まった一本のナイフが転がっている。
「……お父さん……それ……なに……?」
ルアーが掠れた声を漏らすと、養父はゲラゲラと下品に笑い転げた。
「ヒヒッ! 街の富豪の屋敷から金を盗もうとしたんだがな……しくじって、留守番の女中を刺しちまった。だがよ、運がいいことに『犯人』はもう決まってるんだよ」
「……え……?」
ルアーの頭が理解を拒絶する。
養父は立ち上がると、ルアーの胸元を強く突き飛ばし、血のついたナイフを強引にルアーの手に握らせた。
「お前みたいな【ジョブ不適合】のゴミが、生きている価値なんてねえだろ? 手当の給付も17歳で終わりだ。お前は最後まで俺の身代わりとして、役に立って死ぬんだよ!」
「な……なに、言って……っ」
その時、激しく玄関の扉が叩き破られた。
「警察だ! 動くな!」
重装甲の衛兵たちがなだれ込んでくる。
養父は一瞬で顔を悲壮感で歪め、地面にへたり込んで叫び声をあげた。
「衛兵さん! 助けてくれ! こいつだ……この無能が、人を殺して金を奪ったんだ! !」
あまりの白々しい演劇。衛兵たちの冷酷な視線が一斉に、血のついたナイフを握らされているルアーへと注がれた。
「……ち、違っ……俺じゃ……!」
ルアーは震える手でナイフを落とし、喉を絞り出すように声を張った。しかし、かすれ切った弱々しい声は、男たちの怒号にかき消される。
「言い逃れはいらん! ジョブ不適合の分際で、凶行に及ぶとはな!」
「ち、違う……お父さんが……! 俺は……何も……っ!」
必死に首を振り、助けを求めるように養父を見た。
だが、衛兵の陰からルアーを見つめる養父の顔には、声を出さずに『へ、へへっ…』と嘲笑う、酷悪な笑みが張り付いていた。
ガツン、と後頭部に激しい衝撃が走り、ルアーは床に叩きつけられた。
靴底で顔を踏みつけられ、鉄の枷が両首に嵌められる。
「引きずっていけ! 地下牢へぶち込め!」
「……っ……ああ……っ」
叫びすら言葉にならなかった。
ただ理不尽に踏みにじられ、引きずられていく暗闇の中で、ルアーの心に残っていたわずかな温もりは、跡形もなく砕け散った。
(……誰も……本当に……誰も信用できない……)
こうしてルアーは、地獄の地下牢へと投獄されたのだった。




