プロローグ2
この世界には絶対的な理が存在する。
人は15歳を迎えると何らかの『スキル』が刻まれ、17歳になると己の運命を左右する『職業適性』が開花する。それがこの世界における人間の「価値」そのものだった。
だが、17歳になったルアーのステータスに刻まれたのは——【ジョブ:不適合】【スキル:なし】という、完全なる無能の証だけだった。
「ねえ、いつまでそこに転がってんの? 汚いんだけど」
甲高い声とともに、ルアーの脇腹に鋭い衝撃が走った。革靴のヒールで力任せに蹴り上げられたのだ。
見上げると、そこにはクラスの中心にいる女子生徒——エリスが立っていた。15歳で上位スキルを得て、17歳で希少なジョブ適性を得た『勝ち組』の少女。整った眉を不快そうにひそめ、ルアーを見る瞳には虫ケラを踏み潰すときのような蔑みが満ちている。
「ちょっと、立ち上がりなよ。あんたの血で床が汚れるでしょ?」
取り巻きの女子たちがクスクスと笑う中、エリスはカズの髪を乱暴に掴み上げた。
パパン、と乾いた平手打ちの音が教室に響き渡り、視界が火花を散らす。さらに彼女は手元にあった冷えた紅茶を、ルアーの頭から容赦なく浴びせかけた。
冷たい紅茶が髪から滴り、鼻をつく茶葉の匂いが漂う。
激痛と屈辱の中で、ルアーは潰れかけた瞳で、目の前のエリスをじっと見つめていた。
(……綺麗な顔だな……)
自分をゴミのように踏みにじる彼女の、透き通るような白い肌。感情を高ぶらせて朱に染まる頬。服の生地越しにうかがえる柔らかそうな体のラインと、ふわりと漂う甘い香水の匂い。
(……こんな女の子と付き合ったら、どんな感じなんだろう……)
(……触ってみたい……抱きしめてみたい……)
声には出さない。表情にも出さない。
だが、どれほど踏みにじられても消えない、17歳の男子としての惨めで生々しい欲望が、胸の奥底でドロリと渦巻いていた。
「なに無言で見つめてんのよ、気持ち悪い!!」
ルアーの不気味なほどの静けさに苛立ったエリスが、気味悪そうに叫んだ。
次の瞬間、彼女の尖った靴底が、ルアーの顔面に向かって容赦なく叩き込まれた。
「死ねよゴミ! 二度とアタシを見るな!」
鼻腔を破る激痛と鮮血が溢れ出し、ルアーの視界は真っ赤に染まった。
それでもルアーは、倒れた床の上で一切の言葉を発することなく、ただ静かに目を閉じた。




