プロローグ1
「おい、無能。今日のステータスも見せてみろよ」
冷ややかな嘲笑とともに、ルアーの頭上からドロリとした冷たい液体が降り注いだ。
昼食の残飯と、泥の混ざった汚水。髪から顔へ、そしてぼろぼろに擦り切れた制服へと伝い落ちていく。教室中に、下品な爆笑が響き渡った。
「……」
ルアーは声を出さない。抵抗もせず、ただ泥の垂れ落ちる床を見つめていた。
どうせ何を言っても無駄だ。言葉を発すれば、それだけ暴惑の理由を与えることになる。
「はあ? 黙ってんじゃねえよゴミが!」
ルアーの胸倉を強引に掴み上げたのは、今日上位ジョブ『重騎士』への適合が確認されたばかりの男だった。
取り巻きたちの品のない笑い声、教師の見て見ぬふりをする視線。すべてがどうでもよかった。
「ほら、出せよ! 空中に浮かべてみろ!」
強烈な蹴りがみぞおちにめり込み、カズは床に折れ曲がった。
息が詰まり、激しく咳き込む。だが、カズの瞳は冷めきっていた。
(……無駄だ。誰も助けてくれない……誰のことも、信用しない……)
胸倉を掴み上げられ、強引にステータスを展開させられる。
名前:ルアー
年齢:17
レベル:3
ジョブ:不適合
習得スキル:なし
「ギャハハ! 相変わらず『不適合』! レベル3で魔法の一つすら覚えてねえ!」
「戦士も魔法使いも、遊び人にすらなれねえ本物のゴミだ!」
あざけりの言葉とともに、激しい拳が顔面に叩き込まれる。
床に転がり、口の中に広がる血の味を感じながら、ルアーはただ静かに目を閉じた。
(……早く、終わればいい……)
言葉を捨てることで、ルアーは己の心を必死に守っていた。




