32話 再会2
夏の暑さも落ち着いてきて、不死草の収穫時期になった。
砦の一角にある薬草畑でも、イネ科ような細く青々とした葉が伸びていた。
一部を残して、ハンナが不死草を刈り取っている。
残した分からは来年用の種を取る。
地面に残った根は、そのまま耕せば次に植える普通の肥料となる。
不死草も古代からある植物だと聞いた。
草羊といい、不死草といい、古代のものは何でもありなのだろうか。
一方、杏はというと、ハンナの刈った不死草を乾燥させて紐で縛っていた。
麻紐ではなく、目立つ赤色の紐を使っている。
これが、杏が魔力を通したという目印になる。
今日この作業をしているのは、主に副団長であるリシャルドの指示だ。
今まで杏は調薬時——不死草を煎じる時にだけ魔力を流してきた。
けれど実は、もう一ヶ所、魔力を流すことで効果を高める事ができる工程がある。
それが、収穫時の乾燥だ。
乾燥による効果の増幅率は、煎じる時に魔力を流す場合に比べて小さい。
けれど煎じる前の乾燥させた不死草は年単位で保存がきく。
杏の魔術をどこで使うのが最適か、それを調べる為の材料作りが今日の作業の目的だ。
義勇軍の為に必要な検証だとリシャルドは言っていたが、目が通常時の三倍は輝いていた。
杏が乾燥させた不死草を赤紐で束ねていると、頭上から声が投げかけられた。
「よお、久しぶりだな」
頭をあげると、そこにはエドガーがいた。
「お久しぶりです! ずっと前線に行ってると聞きいてましたが……」
そう言いながら、杏はエドガーの様子を観察する。
特に変わった様子はない。
それとも治療後だろうか。
どちらにせよ、今こうして元気そうにしているのだから何よりだ。
「交代だよ、交代。年がら年中最前線で 戦ってられるかってんだ! ドグ隊じゃあるまいし」
エドガーはどさりと杏の横に腰を下ろす。
「ん? でもそういや最近、前線でアイツらの話聞かないな」
「あ、しばらく後方の砦にいることになったらしいですよ」
「は、マジかよ。あの戦闘狂どもが? なんで?」
「あ〜……。回復薬の使い方があまりにも酷いのでそうなったとかなんとか。確か……二、三週間前からですね」
マルコの発言や、下女達の噂を思い出しながら杏は答えた。
エドガーは気のない返事をしながら顎を撫でた。
「ふ〜ん?」
「どうかしました?」
「それ、本当か?」
杏は首をかしげる。
「本当かと言われると……。聞いた話ですし……」
エドガーが「だよな」と言ってから手をひらひ振った。
「最近敵の攻め方が変だからその対応策かと思ったんだが、そうなったのは一週間くらい前だから違うか」
「『変な攻め方』ですか?」
「まぁ、なんつうか、攻めっ気がないというかなんと言うか……。いや、ただの勘だな。忘れてくれ」
「はぁ……」
その後はお互いの近況報告をしながら、杏は乾燥作業を続けた。
そのうちハンナが不死草を刈り取り終わったので先に休憩に行かせる。
エドガーと再び話そうとした時、兵士の叫ぶ声が聞こえた。
「捕まえてくれ!!」
声の方を向くのと同時に、その方向から現れた何かがエドガーの顔面付近に当たり、彼はそのまま地面に倒れ込む。
「エドガーさん!?」
杏は、エドガーに衝突したものの正体を見て自分の目を疑った。
鳩より一回りほど大きいその生き物は、羽毛がなく、細長いくちばしを持ち、頭にはトサカのような物がはえていて——。
「プ、プテラノドン……?」
いつのまにかエドガーは体を起こし、その小型プテラノドンの胴体を掴み持ち上げる。
「テメェ、また脱走しやがったな……」
睨みながらそういうエドガーに対し、小型プテラノドンは「ギャッ、ギャッ」と声を上げている。
喜んでいるのか、それとも威嚇しているのか、杏には判断がつかない。
エドガーはため息をつき、小型プテラノドンを地面に下ろす。
すると小型プテラノドンはエドガーの周辺をぴょんぴょん飛び跳ねながら、彼の足をくちばしでつつき始めた。
この世界では恐竜は絶滅していないのだろうか。
それともプテラノドンに酷似した生き物なのだろうか。
この世界に来て半年以上経つが、まだまだわからないことだらけだ。
「エ、エドガーさん、この、プテラノドンはいったい……」
「プテ……? なんだ、コイツらお前のとこだとそんなカッコいい呼ばれ方してるのか」
「え? まぁ、はい……」
これがプテラノドンかどうか正確にはわからないが、杏は説明が面倒だったので適当に流した。
「ここじゃ、はねなし鳥って呼ばれてる」
「? ……『はね』、ありますよね」
杏は小型プテラノドンの翼を見つめた。
「? ないだろ、『はね』。ハゲ鳥なんて呼ぶ地域もあるくらいだ」
「な、なるほど?」
はねなし——つまり、羽根なし鳥ということだろうか。
「見たことねぇか? 伝書鳥として飛ばしてるぞ」
「えっ? 鳩使ってるんじゃないんですか?」
荷物に混じって鳩が運ばれているのを見た事がある。
確か、その時に伝書鳩だと説明された。
「メインは鳩だな。でもコイツも飛ばしてるぞ」
杏は記憶を辿ってみるが、一向に思い出せない。
そもそも砦から飛び立つものは全て鳩だと思い込んでいた。
飛んでいるものの種類をわざわざ確認しようとした事があっただろうか。
「え、え〜……、本当ですか?」
「なんで疑ってんだよ。コイツら、賢いわ、飛ぶの早いわ、夜目も効くわで便利なんだよ」
エドガーが「な、ジャガイモ」と羽根なし鳥に話しかけると、それに応えるように羽根なし鳥が「ギャッ!」と鳴く。
『ジャガイモ』というのは、この鳥の名前だろうか。
「まぁ、冬眠するのと生肉しか食わねぇのがネックだな。あと——」
冬眠する鳥なんているのだろうか。
それともプテラノドンなら冬眠してもおかしくないのだろうか。
そんな事ばかりが気になって、その後の話が頭に入ってこない。
杏は適当に相槌をうちながら、エドガーの足元にいる羽根なし鳥を見つめ続けた。
おまけ
杏「あれはなんですか?」
エドガー「チョウ。虫の一種だな」
杏「なるほど」
「あれは?」
「コウモリ。鳥だ」
「なるほど?」
「あれは?」
「モモンガ。滑空しか出来ないから獣」
「???」
「あれは?」
「ダチョウ。獣」
「?????」




