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31話 再会


 万能回復薬のロット検査を終えて草羊を撫でていると、覚えのある声で名前を呼ばれた。


「アンさん、久しぶり。護衛を外れて以来かな。元気にやってる?」

「ディールさん! お久しぶりです。……えっと」


 顔を上げ、数ヶ月ぶりに会うディールに挨拶をして、視線を彼の隣の男に移す。

 見覚えのない男だ。


 屈強な傷だらけの体と、賊のような顔の男。

 ディールが横にいる事を考えると、もしかして——。


「あ、そうか。ずっと前線に出ずっぱりだったからね……」


 ディールはそう言って、隣の男を手で指す。


「彼はドグ。まぁ……色々聞いてるよね、多分」


 杏は「あはは……」と乾いた笑い声を出しながら視線を逸らす。


「……団長から、とても頼りになる人だと聞いています」


 嘘ではない。

 ただし、兵達からは「アイツ四方八方に喧嘩投げ売りしてる」「ドグ隊だけは絶対嫌だ」「あそこだけ治安おかしいんだよ」等と言われているのを耳にした事がある。

 無茶な治療を繰り返すのも、この隊の人間が多い。


 ついでに、杏の護衛の再編成が行われた後、ロルフに「斥候隊かドグ隊か護衛かって言われて、一番楽な護衛にした」と言われてしばらく引きずったのを思い出してしまった。


「ドグ、こっちはアン。あの回復薬作ってる人だ。丁寧にな」

「あ? わかってる! よろしくな、姉ちゃん!」

「は、はい、よろしくお願いします」


 ドグの視線が、杏から、彼女の背後にいたロルフに移る。


「おいロルフ、なんでウチ来ねぇんだよ!」

「え、やだ。絶対いや!」


 そう言って、ロルフは数歩後ろに下がり顔を盛大にしかめた。


「戦ってばっかで喧嘩ばっかでやだ!」

「わかりやすくていいだろうが!」

「普通に痛いのいやだけど!?」

 

 杏はディールの元へ避難しながら、ドグとロルフのやりとりを見守ることにした。


「ディールさん、ロルフってそんなスカウトされるほど凄いんですか?」


 心なしか音量を下げて、そう尋ねた。

 杏にとって彼は、食いしん坊で人の食事を狙ってくる年下の子でしかない。

 襲撃された事もなく、彼の護衛としての実力をあまり実感できないでいた。


「うちの隊、隊長見ればわかるように血気盛んでね。あんまり敵の様子を探るってことができる人がいなくて……。まぁ戦争に参加する以上、最低限はできるんだけど……」

「ロルフが、それが得意だと?」

「そう、ベンが盗賊時代にかなり仕込んでるからね。見張りとかやらせると——」

「ま、待ってください!?」


 杏は、ディールの先程の発言を脳内で繰り返す。

 ハッキリと「盗賊」と言っていた。


「ベンさんって盗賊だったんですか!?」

「あれ? 知らない? 斥候隊の人達、大半は元盗賊だよ」


 杏は手で顔を抑えた。

 知らなかった。


 ベンと深く関わったのは、王宮から東部への旅の時だった。

 けれどその時は、杏は自分のことで精一杯で、更にベン自身も自分の事を話すような性格でもなかったので、杏は彼についてほとんど知らない。

 

 ロルフから、ベンが孤児だった自分を拾って面倒を見てくれたというのは聞いた事があるが、そのくらいだ。


 盗賊なんて初耳だ。


「違う違う」


 必死で情報を飲み込もうとする杏に、ロルフが話しかけてきた。


「『義賊』だよ、『義賊』。団長がそう言えって言ってた」

「…………それって自称するものだっけ?」


 その後のディールとロルフの話をまとめると、峠越えをする人間相手に商売をしていた人達が、東部侵略後仕事を失い、生きる為に裕福な人間から金や食料を奪うようになったのが始まりらしい。


「でも賊は賊じゃねぇか」


 と、賊のような顔をした男が言った。


「賊になる腕があんなら、どっかで傭兵でもなんですりゃよかったんだ」

「ドグ、俺らみたいに故郷に思い入れのない人ばかりじゃないんだから」

「あ? でもそうだろ? オレ間違ったこと言ったか?」

「言う場所を選べって言ってるんだよ。故郷を取り戻す戦いをしている集団の中で、その発言は場を乱す」

「チッ」


 ディールがドグから視線を話し、肩を竦める。

 

「まぁ、団長も、彼らにも理由だとか正義があるって周りに言いたかったんだろうね」

「あ、そう。そんな感じのこと言ってた気がする」


 そんな事を話していると、テオが医療区画の方から小走りでやって来た。


「いた!!!」


 とても怒っている。


「アンタらこんな所で何やってんだ!」


 しまった、小休憩が長すぎただろうか。

 杏はビクリと肩を震わしたが、テオの視線はディールとドグに向いている。


「すまない。今から行こうと」

「そのわりにはアンと楽しく喋ってたみたいだけど?」

「久しぶりだったから、つい……」

「グダグダうるせぇな。今から行くって言ってんだろ」

「は? こっちはいつまで経ってもこないから、わざわざ探しに来てやったんだけど?」

「ドグ!」


 ディールはドグを諌めながら、杏の方を見た。


「実は先生に呼ばれてたんだ。まぁ……回復薬の使い方の再指導だね」


 そんな再指導なんて聞いたことがない。

 ドグ隊によるあまりにも乱暴な万能回復薬の使い方に、マルコの堪忍袋の尾が切れたのだろうか。

 

 杏は先程まで自分が二人を引き留めてしまって申し訳ない思っていたが、ディールのその話を聞いて考えが変わった。


「それは……、ちゃんと指導されてきてください」

「はは、そうするよ」


——————


「私たちもそろそろ戻ろっか」


 杏は万能回復薬が入っていた容器や、草羊を切るためのナイフを片付け始める。

 

「それにしても、まさかそんな過去があったとは……」


 ロット検査の道具をしまった籠を抱えて、杏はロルフを見上げる。


「でもなんで盗賊が義勇軍に?」

「う〜ん、団長誘拐したらなんかそうなった」

「はい? え? ゆ、誘拐? 団長を?」

「あ、思い出した! 食事くれるって言ったのに、最初にもらったの野菜の切れっ端の薄いスープだった!」

「そ、そっか〜…………」


 杏は理解するのを諦めた。

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