2話 被害者の会
少し加筆修正しました(5/4)
王都中心地の外れにあるオーマン邸で、エドガー・オーマンは徐々に暗くなっていく空を眺めていた。
(…………遅い)
午前中に王宮へ行ったカミル達が戻らないのだ。
用件は書類にサインをする。それだけのはずだ。
同行者はユゼフとベン。
仮に何かあったとしても、文武両面からカミルをサポートできるはずの人選だ。
しかしまだ戻らない。
義勇軍を良く思わない者に襲撃されたのだろうか。または曲がりなりにも王家の血を引くカミルを邪魔に思う者に暗殺を企てられたのだろうか。
エドガーが最悪のパターンまで想像し始めた頃、廊下から足音が聞こえた。
この屋敷は地方貴族であるオーマン家が王都滞在中に使用している屋敷だ。
今はカミル一行と使用人しかおらず、使用人達がこんな音を立てて移動するはずがない。
――カミル達が戻って来た。
――――――
王宮から戻ったカミルが言い放った。
「一人東部に連れて行くことにした。
明後日出発の予定だったが、明日発つ。発てるように今からする。
だからそのつもりで準備を頼んだ!」
「はぁ!? 連れて、いや、明日!? もう夕方だぞ! おい、カミル!!」
上着を脱いで力なく執務机に上半身を沈めるカミルの背を叩き、ゆすり、エドガーは説明を要求する。
「エドガー、そんなに怒鳴らないでくれ。王宮の連中と話してたから疲れてるんだよ……」
「お前が! 怒鳴らせてんの!」
「ユゼフ……」
カミルが右手をひらひらと揺らしながら、ユゼフに会話を投げた。
彼もまた、消耗したような顔をしていた。
ユゼフは何かの書類を鞄に入れながら話し出す。
「本日、団長が異世界人であるアン殿を東部に連れて行くと言い出しました。国王陛下や魔導塔長、他数名と協議を重ねた結果、『義勇軍への人材派遣』という形で迎え入れる事になりました。当初は我々と同行予定でしたが、さすがに彼女に馬での山越えをさせるのは無謀すぎるので、明日出立予定――」
「待て待て待て待て!」
エドガーは頭を抱える。
「あー……、どこからだ? どこからつっこめば……」
「続けても?」
「だから待てって!」
ちょうど話が途切れたタイミングで扉がノックされた。カミルが入室の許可を出す。
室内に入ってきたのはベンとロルフだった。
「ロルフ、起こして悪かったな」
「ひえ、ふぁいじょうぶっしゅ」
あくびをしながら答えるロルフの頭に、ベンが拳骨を振り落とす。
いい音がした。
「今からライヒ商会に行く。ベンと交代で護衛を頼む。……正装しろとは言わないが、もう少し身なりを整えてくれ」
カミルは視線をロルフの寝癖や口元のよだれに向け、苦笑いをした。
「……で? 何で今からライヒ商会?」
エドガーは、気の抜けた返事をして去っていくロルフを横目で睨みながら、新たに浮かんだ疑問を口にする。
すると、ユゼフが書類を詰め終わった鞄を脇に抱えながら話し出す。
「あぁ、先程の説明の続きですが、アン殿に明日出立のライヒ商会の輸送隊に同行していただこうと考えています。しかし彼女の乗る馬車が増えて隊列が伸びた場合、その分護衛も必要になります。馬車は何とか手配できるでしょうが、護衛まで集めるのは難しいかと思いますので、三つ目の街までは我々が同行して護衛の代わりを務めます。あそこまで行けば人も多いですし、護衛も確保できるでしょう。我々の元のルートとも外れていませんし。馬車一台の追加に対して、護衛五人の追加という形になるのは少々過剰ではありますが、まぁいいでしょう。その交渉の為に今から商会に行きます」
「どこからつっこめば……」と天を仰ぎ手で顔をおおうエドガーを無視して、ユゼフが床や机にまとめられた書類の束を指さしながら話を続ける。
「これは我々が運ぶ分、こちらは輸送隊に依頼する分、こちらは……エドガーとベンで仕分けして不要なものは処分してください」
エドガーの背後で「マジかよ……」とベンの声がする。
ベンは字が読めるが、エドガーやユゼフのように幼少期に教育を受けたわけではないし、日常的に書類を読んでいるわけでもない。
(実質俺一人じゃねぇか……!)
いつの間にかカミルが上着を羽織りなおして、綺麗な姿勢で立っていた。
彼はエドガーの肩を叩いてにっと笑う。
「ということで、出発の準備は頼んだ!」
「お前マジでさぁ……」
何なんだこの暴君は。爽やかな顔でいつもいつも人を振り回す。どうしてこうなった。とエドガーは過去を振り返る。
(そうだ、士官学校時代からなんだかんだ言うことを聞いてきたからだ。自業自得じゃねぇかこの野郎……!)
エドガーが過去の自分を罵っているうちに、カミルはユゼフとロルフを連れて商会へ行ってしまった。
残されたエドガーとベンは渋々荷造りを始める。
「なぁエドガー、この書類全部燃やしちまおうぜ」
「やめとけ。ユゼフにネチネチ言われんぞ」




